【ピアノ】「20世紀のピアニストたち 上・下」(千蔵八郎 著)レビュー
► はじめに
20世紀という激動の時代に活躍したピアニストたちの軌跡を、録音技術の発明やコンクールの創設といった時代背景とともに描いた本格的な音楽史書です。上巻では20世紀前半、下巻では第二次世界大戦後から現代(1990年代初頭)までのピアニストたちを取り上げています。
・出版社:音楽之友社
・初版:上巻 1991年、下巻 1992年
・ページ数:上巻 232ページ、下巻 208ページ
・対象レベル:初級〜上級者
・20世紀のピアニストたち 上 著:千蔵八郎 / 音楽之友社
・20世紀のピアニストたち 下 著:千蔵八郎 / 音楽之友社
► 内容について
‣ 本書の概要と特徴
著者は、ピアノ音楽の歴史を5つの流れに分類しています:
1. 直接的なテクニックにかかわる奏法の進展
2. それを実証的に実践したピアニストたちの活動
3. ピアノの楽器としての機能的な変遷
4. 音楽自体の審美観と様式の変化
5. どんな作品が書かれるようになったかという作品論
本書は主に「2. ピアニストたちの活動」に焦点を当てており、人物史の観点からピアノ音楽史を俯瞰できる構成となっています。
‣ 各巻の内容
上巻の構成:
・スタートラインに並んだピアニストたち
・一世代を育てた名教師たちとちょっと変わった生徒たち
・ラフマニノフ、その音楽家人生
・フランス近代のピアノ楽派の開始
・シュナーベルとその周辺
・レコード創成時代のピアニストたち
・第一次大戦後の時代
・第1回ショパン・コンクール前後の時代
・二十世紀前半に活躍した女流たち
下巻の構成:
・第2次大戦時代のピアニストたち
・日本の戦後に登場したピアニストたち
・コンクール時代に突入―資料的に
・1930年前後生まれのピアニストたち
・エレクトロニクスの申し子、グールド
・1930年代生まれ・総括
・20世紀、3人のヴィルトゥオーソ―ホロヴィッツ、アラウ、リヒテル
・現代に活躍するピアニストたち
‣ 本書の注意点
書籍タイトルからも明らかですが、21世紀以降の情報は含まれていません。また、海外のピアニストのみで、日本の演奏家についてはほとんど触れていません。
その後の音楽界の変化や新世代のピアニストや日本の演奏家については別途情報収集が必要です。
► 実際の使用体験と活用法
‣ 筆者自身の体験談
筆者自身、購入当初は通読によってピアノ音楽人物史の大きな流れを把握することから始めました。従来のピアノ音楽史では作曲家や作品に重点が置かれがちですが、本書を通じて演奏家という視点からの理解を深めることができたのは大きかったです。
千蔵八郎氏の他の音楽史関連著作との併読による相乗効果も感じました。同一著者による資料を用いることで情報の整合性が保たれ、非常に効率的な学習方法となりました。
現在では、特定のピアニストについて調べる際の参考資料として使用しています。例えば、イングリッド・ヘブラーのアルバムを聴く前に該当項目のみを読み返すなど、音楽鑑賞の理解を深める資料として重宝しています。
‣ 効果的な読み方の提案
推奨読書法①:下巻の「終わりの章」から読み始める
「終わりの章」に含まれている、「ピアニスト時代の開幕」「ピアニストの本舞台はじまる」「そして、いま」の3項目(合計でわずか8ページ)には、本書全体で扱う内容の流れがコンパクトにまとめられています。これを先に読んでから上巻に取り組むと、全体像が把握しやすくなります。
推奨読書法②:同著者の関連書籍との併読
・「19世紀のピアニストたち」および「続・19世紀のピアニストたち」
・「最新ピアノ講座(7)(8)の音楽史部分」(全43ページ)
・「ピアノ音楽史事典」
・「最新ピアノ講座(5) より 第7章 ピアノ奏法の歴史」
これらの併読により、前述の5つの流れのうち本書で手薄な部分も補完できます。同一著者による資料併読の最大の利点は、情報の整合性の高さにあります。
► 終わりに
「20世紀のピアニストたち 上・下」は、ピアノ音楽史を人物の側面から理解したい学習者にとって貴重な資料です。ただの事実の羅列ではなく、時代の流れと演奏家の活動を有機的に結びつけ、著者の見解も入った記述がされています。
ただし、最大限の効果を得るためには、同著者の他の書籍との併読や、21世紀以降の情報を補完する追加学習が必要であることを付け加えておきたいと思います。
同著者の他の書籍については、以下のページでレビューを確認してください。
・20世紀のピアニストたち 上 著:千蔵八郎 / 音楽之友社
・20世紀のピアニストたち 下 著:千蔵八郎 / 音楽之友社
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