【ピアノ】坂本龍一「ピアノへの旅」レビュー:ピアノの起源と本質に迫る思索の記録
► はじめに
坂本龍一氏(1952-2023)が最後に演奏した楽器、ピアノ。本書は、彼が抱くピアノへのアンビヴァレントな思いや、クラシックを中心としたピアノ音楽への考察、さらには紀元前まで遡る鍵盤楽器の秘密を探求する、壮大な旅の記録です。
・出版社:アルテスパブリッシング
・初版:2024年(※「コモンズ:スコラ vol.18」の構成とデザインを新たに単行本化)
・ページ数:205ページ
・対象レベル:初級~上級者
・ピアノへの旅 著 : 坂本龍一 / アルテスパブリッシング
► 内容について
‣ 本書の構成と特徴
本書はピアノの弾き方を手取り足取り教える技術書ではなく、ピアノという楽器の仕組み、歴史、そして音楽を取り巻く環境との関わり方を深く掘り下げる思索的な内容となっています。全体を通して、ピアノの話題が8割、そこから派生する音楽的な話題が2割という絶妙なバランスで構成されています。
第1部「静かで弱い音楽へ」
著名な作曲家たち(ベートーヴェンなど)が愛用したピアノが作品に与えた影響や、純粋な作曲と即興演奏の違いについてなど。
第2部「ピアノの起源を探る」
国立音楽大学楽器学資料館を訪ね、「叩く」という発想がどこから来たのか、鍵盤楽器のルーツにまで迫った考察など。
‣ 音楽的・思索的価値
本書の最大の魅力は、長年ピアノに触れてきた音楽家ならではの鋭い視点と哲学にあります。
減衰する音への眼差し
ピアノという楽器の根本的な性質について、著者は以下のように語っています。
(以下、抜粋)
「作曲家もピアニストもわざわざ音が消えていってしまうピアノを選んで、何百年もその減衰に抗おうとしつづけているというのは不思議なものだなと思いますね」
(抜粋終わり)
永遠に持続する音への憧れと、不自由で儚いゆえの「いじらしさ」。わざわざ響きが減衰していく楽器を選び、演奏や創作を続ける音楽家たちの不思議について考察されています。
独自の視点から見る名演奏家たち
グレン・グールドの奏法とクラヴィコードの奏法との共通点や、晩年のホロヴィッツの音色など、歴史的な名手たちのアプローチを独自の観点から紐解いている点も、非常に興味深い読みどころと言えるでしょう。
► 読者別の活用法
演奏技術を扱った本ではないため、ピアノ演奏や創作(作曲・編曲)の初心者から上級者まで幅広い層が手に取ることができます。
ピアノ演奏者にとっては、ただ音符を追うだけでなく、譜読みの際の「楽譜の裏側にある楽器の歴史や響き」について考え直す大きなきっかけになるでしょう。また、作曲や編曲を行う方にとっては、ピアノで表現するのが難しいタイプの音楽とは何か、響きの特性をどう活かすかというヒントが詰まっています。
途中でやや観念的な内容や歴史の深い話に入り込む場面もあります。初心者の方は、まずは「すべてを完璧に理解しようとしない」というスタンスで、興味のある章からリラックスして読み進めてみてください。
► 付属コンテンツの活用
本書には、坂本龍一氏選曲のプレイリストと音源ガイドが収録されています。本文中で語られる様々なピアノ音楽を実際に耳で確かめながら読み進めることで、テキストの理解が何倍にも深まるはずです。
► 終わりに
本書は、ピアノという楽器への向き合い方を根本から問い直してくれる稀有な一冊です。著者の音の消えゆく先を聴く姿勢や、音楽に対するまなざしに触れることは、日々ピアノに向かう学習者にとって、技術の向上とはまた違う次元での深い癒やしとなるはずです。
・ピアノへの旅 著 : 坂本龍一 / アルテスパブリッシング
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