【ピアノ】「ピアノ学習ハンドブック」(千蔵八郎 著)レビュー
► はじめに
「独学でピアノを続けているけど、次に何を弾けばいいのか迷っている」— そんな悩みを抱える大人の学習者にとって、救世主となる一冊がこの「ピアノ学習ハンドブック」です。幅広く教本や楽曲について知っておきたい方にもおすすめできます。
・出版社:春秋社
・初版:1989年
・ページ数:249ページ
・対象レベル:初級〜上級者
・ピアノ学習ハンドブック 著:千蔵八郎 / 春秋社
► 内容について
‣ 豊富な教材を一冊で比較検討可能
本書の特徴は、コンパクトな装丁にも関わらず情報量が多いことにあります:
・教則本30種
・エチュード58種
・曲集67種
・J.S.バッハ「インヴェンションとシンフォニア」の版23種
これだけの教材を一冊で比較検討できる書籍は、それほど多くありません。また、各教材の解説には譜例も付いているため、実際にどのような内容なのかイメージしやすくなっています。
‣ 大人の独学者に有用な理由
1. 学習段階の明確化
各教材について「どれくらいの学習段階で使用するものなのか」が明記されているため、自分の現在のレベルに適した教材を知ることができます。独学では自分のレベル把握が難しいものですが、この本があれば迷いなく次のステップに進めるでしょう。
2. プログラム作成のヒント
演奏発表会や自主練習のレパートリー選択に悩む方にも適しています。同じ著者による関連書籍(「ピアノ音楽史事典」「コンサート・プログラムのつくりかた」)と併読することで、より体系的な選曲アプローチが可能になります。
‣ エディション解説の価値
付録の「インヴェンションとシンフォニア エディションの紹介とその研究」は、本書の隠れた名章です。「エディションとは何か」という基本的な疑問から始まり、23種類の版が各版につき1ページ割きながら分析されています。
「インヴェンション 第7番 BWV778」を例に各版の特徴や差異が解説されている部分は、実用的かつ、単純に読み物としても興味深いものです。どの版を選ぶかで全く演奏解釈が変わることを理解できるでしょう。
‣ 注意点と現代での活用法
· 情報の古さについて
1989年出版のため、一部の楽譜情報は既に絶版になっているものもあります。また、それ以降に出版された優れた教則本については当然ながら触れられていません。しかし、クラシック音楽の根幹的な情報は普遍的であり、現在でも十分に価値のある内容です。
· 活用のコツ
・基本的な教材選択の指針として活用:時代を超えて愛され続ける教材の価値を理解する
・楽譜選びの基準作り:解説を参考に、自分なりの楽譜選択基準を確立する
レベル別活用法の例
初級〜中級者:
・次に進むべき教材を比較検討
・曲集編でレパートリー拡大のヒントを得る
・エディション解説で楽譜選択眼を養う
上級者:
・指導者視点での教材研究
・同業者との会話のための知識の蓄積
・演奏会プログラム作成の参考資料として
► 筆者の個人的お気に入りポイント
本書は実用的でもあるのですが、筆者自身は「子供の頃を思い出す」という意味で特に気に入っている書籍です。子供の頃に、新しい教本や新しい楽曲が知りたくて、楽譜集の裏側についている難易度表を眺めたり、弾けもしない難しい教本を買い集めたりしていました。その頃のワクワクした気持ちを思い出させてくれる一冊です。
► 終わりに
本書はただの教材カタログではありません。ピアノ学習を続けていく中で折に触れて開き直していくことになるでしょう。
特におすすめしたい人:
・独学でピアノを学んでいる、教材情報を自分で集める前提の学習者
・次に学ぶべき教材に迷っている学習者
・楽譜選びの基準を身につけたい人
・教材研究や同業者との会話のための知識蓄積をしたい指導者
・ピアノ学習ハンドブック 著:千蔵八郎 / 春秋社
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