【ピアノ】「手を引っ越す」発想で運指付けと速いパッセージを攻略する

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【ピアノ】「手を引っ越す」発想で運指付けと速いパッセージを攻略する

► はじめに

 

ピアノを練習していると、「速いパッセージで、どの指で弾けばいいか分からない」「速いパッセージになると手が追いつかない」という壁にぶつかることがあるのではないでしょうか。

そのような場面で役立つのが、「手を引っ越す」という考え方です。

「引っ越す」というのは、ある手の形(ポジション)をそのまま維持しながら、手全体を横へスライドさせて移動させること。この発想を身につけると、複雑な運指の決め方や、速いパッセージへの対処法が根本から変わってきます。

本記事ではその具体的な活用法を、実際の楽曲例を交えて解説します。

 

► 実例

‣「繰り返しの共通点」を探して、同じ手の形のまま引っ越す

 

速いパッセージと言っても、いつも単純なスケールとは限りません。やや複雑な動きに見える音型に運指が書かれていない作品も多くあります。

そんなとき、まず注目したいのが「繰り返しの共通点」です。

 

プロコフィエフ「ピアノソナタ 第1番 ヘ短調 Op.1」より

譜例(PD作品、Finaleで作成、96-97小節)

プロコフィエフ「ピアノソナタ 第1番 ヘ短調 Op.1」96-97小節、同じ手の形のままポジションを移動する運指の例。

一見バラバラに見えるパッセージも、よく観察すると同じ音型が別の音域や調に移って繰り返されているケースが多くあります。一箇所の運指が決まれば、あとは「同じ手の形のまま横へ引っ越す」だけ。

譜例の箇所はその好例で、一つの音型に運指を決めたら、そのかたちを保ったままポジションを移動させることで、運指付けとテクニック的な問題を解決できます。

 

‣「最初に決めた運指」に固執しない

 

シューベルト「ピアノソナタ 第7番 変ホ長調 D 568 第4楽章」

譜例1(PD楽曲、Finaleで作成、55小節目)

シューベルト「ピアノソナタ 第7番 変ホ長調 D 568 第4楽章」55小節、引っ越しを適用した最初の運指案。

譜例2(PD楽曲、Finaleで作成、55小節目)

シューベルト「ピアノソナタ 第7番 変ホ長調 D 568 第4楽章」55小節、ポジションチェンジ位置を変えた改善後の運指案。

「共通点を探して引っ越す」アプローチは非常に有効ですが、最初に決めた運指がベストとは限りません。

譜例1のように、和音の形をそのまま引っ越す方法を適用すると、一見スムーズに見える運指が決まります。しかし実際に弾いてみると、親指が黒鍵に当たる場所が生じて弾きにくく、音も大きくなりがちという問題が現れます。

厄介なのは、ゆっくり弾いているとこの不自然さに気づきにくいこと。

この場合、ポジションチェンジの位置を変えた別案(譜例2)に切り替えると、親指が黒鍵に当たる問題が解消され、格段に弾きやすくなります。ポジションチェンジの回数が増えても、弾きやすさはそちらのほうが圧倒的に上と感じることでしょう。

大切なのは、弾いていて「しっくりこない」と感じたときに、別案を考える柔軟性を持つことです。かなり弾き込んだあとであっても、より良い運指を見つけたなら思い切って変更する勇気が必要です。

 

‣ 通常の運指では間に合わない超高速スケールでの応用

 

さらに応用的なアプローチとして、通常の運指では間に合わない超高速スケールでの応用を紹介しておきましょう。

 

リスト「スペイン狂詩曲 S.254」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、125-126小節)リスト「スペイン狂詩曲 S.254」125〜126小節、5本の指をひとまとまりとして引っ越す超高速スケールの運指例。

ゲンリッヒ・ネイガウスの著書「ピアノ演奏芸術―ある教育者の手記」(森松皓子 訳、音楽之友社)では、この高速スケールパッセージについて次のように述べられています。

この箇所を、5の指を使わないで通常の音階の運指法で弾くことは、どだい考えられないことで、不可能なことです!5本全部で、つまり5本の指を1つのグループとする…

 

譜例のような一種のエフェクトとしての超高速スケールパッセージは、通常の音階の運指法(親指をくぐらせる方法)では物理的に間に合いません。5本の指をひとかたまりとして、超高速でまるごと引っ越していく奏法をとることで初めて実現できます。

こういったパッセージは、ペダルを踏みながら一種の効果音として演奏されるため、レガートの滑らかさよりもスピードと勢いが優先されます。ゆっくり練習のときも、レガートを意識し過ぎる必要はありません。


 

‣ ゆっくり練習でも「速いときの動作」を想定する

 

ゆっくり練習で最も生まれやすい良くないクセ、それが「必要以上に大きい動作をしてしまうこと」です。

 

ショパン「エチュード Op.25-12(大洋)」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)

ショパン「エチュード Op.25-12(大洋)」冒頭、広い音域を行き来するパッセージで手首を使わず引っ越す練習の例。

ショパン「エチュード Op.25-12(大洋)」を例に考えてみましょう。このような広い音域を行き来するパッセージをゆっくり練習するとき、手を横に移動させるたびに手首を大きく回したり、腕や肘を派手に動かしたりしがちです。

しかし実際のテンポに近づいてくると、そのような動作では手の移動が全く間に合いません。手首を大きく使わず、手をそのまま横に「引っ越す」ように移動する動作でなければ、速いテンポには対応できないのです。

つまり、必要以上に大きな動作でのゆっくり練習は「そのテンポでしか通用しない練習」になってしまうことを理解しておいて下さい。

「テンポが上がったときにどんな動作になるかを想定し、その動作のままゆっくり練習する」ことが重要です。最初は難しく感じるかもしれませんが、その習慣をつけないためにも常に意識しておきましょう。

 

‣ 和音での引っ越し:手のポジションと手首の使い方を意識する

 

ブラームス「16のワルツ 第15番 Op.39-15 変イ長調」

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、29-30小節)

ブラームス「16のワルツ 第15番 Op.39-15 変イ長調」29-30小節、和音のまとまりを崩さずに横へスライドする引っ越しの例。

譜例の箇所は、和音で「引っ越す」テクニックを具体的に確認するのに適した例です。

一つの手のポジション(かたまり)を把握したら、次に行うのはそのかたまりの形を崩さないまま横へスライドすること。このとき、手首をたくさん使って移動しないことが重要です。

手首を多用する移動方法は、テンポがゆっくりなうちは問題なく弾けてしまいますが、少しテンポが上がった途端に対応できなくなります。ポジションを移動させるのはあくまで「手全体の引っ越し」であり、手首の余分な動きは極力排除する意識を持ちましょう。

 

► 終わりに

 

「手を引っ越す」という発想は、運指決定・高速パッセージ・ゆっくり練習の方法論まで、幅広い場面で活用できる考え方です。

ポイントをまとめると:

・運指に困る高速パッセージでは、繰り返しの共通点を探して、同じ手の形のまま移動できるかチェックする
・最初の運指に固執せず、弾きにくければ別案を柔軟に試す
・ゆっくり練習でも、速いテンポを想定した動作で行う
・引っ越さなければ弾けない箇所での移動の際は、手首を余分に動かさない

意識を持って練習を積み重ねることで、確実に変化を実感できるはずです。

 


 

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