【ピアノ】映画「殺人夜想曲」レビュー:ピアノを軸とした状況内音楽の演出分析

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【ピアノ】映画「殺人夜想曲」レビュー:ピアノを軸とした状況内音楽の演出分析

► はじめに

 

1946年公開のアメリカ映画「殺人夜想曲(Nocturne)」は、ピアノを軸とした楽曲が物語の核心を成すフィルム・ノワール作品です。

本記事では、その工夫された楽曲使用法と、特徴的な状況内音楽の演出に着目します。

 

・公開年:1946年(アメリカ)
・監督:エドウィン・L・マリン
・音楽:リー・ハーライン
・ピアノ関連度:★★☆☆☆

 

 

 

 

 

 

► 内容について(ネタバレあり)

 

以下では、映画の具体的なシーンや楽曲の使われ方について解説しています。未視聴の方はご注意ください。

 

‣ 興味深い状況内音楽 3つ

 

音楽用語解説:

状況内音楽
ストーリー内で実際にその場で流れている音楽。 例:ラジオから流れる音楽、誰かの演奏

状況外音楽
外的につけられた通常のBGMで、登場人物には聴こえていない音楽

 

· 1. 作曲家ならではの人物描写音楽

 

本編冒頭で、プレイボーイの作曲家キース・ヴィンセントが、これまで付き合った様々な女性を短いピアノ曲で表現する印象的な場面があります。

・「(写真を見ながら)あの子はスペイン系だ」→ 反復が印象的なリズミカルな音楽
・「(写真を見ながら)あの子にはサン・バレーで…」→ ラグタイム風の音楽
・「この曲は君に…」→ 夜想曲(Nocturne)

この演出は、キース・ヴィンセントが作曲家だからこそ実現する自然な状況内音楽と言えるでしょう。そして最後に演奏された「夜想曲(Nocturne)」が、本作全体を貫く重要なテーマ音楽となります。

 

· 2. ロール式自動ピアノによる状況内音楽

 

本編18分頃、刑事ジョー・ウォーンが調査で飲食店を訪れる場面では、ロール式自動ピアノによる興味深い演出が見られます。

ジョーがピアノの前に座った直後、自動ピアノが演奏を開始します。直前にわずかに映し出される「ピアノに付属している紙製のロール」をよく見ていなかった観客は、一瞬「ジョーが演奏している」と錯覚するかもしれません。しかし、本編12分頃の母親との会話で「ジョーは7歳以来ピアノを弾いていない」ことが明かされ、一本指でのたどたどしい演奏シーンも描かれています。この前振りがあることで、「なぜ、ジョーがこんなに上手く弾けるのか?」と疑問に思う方もいるのではないでしょうか。

 

注目ポイント:

・1940年代当時、アメリカで普及していたロール式自動ピアノの活用
・ロール式自動ピアノという、比較的珍しい状況内音楽の使用
・観客の認識を一瞬混乱させる、考えられたカメラワーク

 

· 3. 移動式ピアノによる状況内音楽

 

本編38分頃に描かれる「KEYBOARD CLUB」の場面では、移動式縦型ピアノがそれぞれの客のテーブル近くまで移動し、ネッド・フォードが生演奏を披露します。

弦楽器や管楽器の奏者が歩きながら演奏する光景は珍しくありませんが、重量のあるピアノが移動しながら状況内音楽を奏でる演出は珍しく、印象に残る場面となっています。

 

‣ 重要曲「夜想曲(Nocturne)」について

 

劇中の中心となる楽曲「夜想曲(Nocturne)」は、オープニング・クレジットによるとリー・ハーラインの作曲です。興味深いことに、この楽曲の冒頭部分は、ピアノ編曲版でも知られるシューマンの「献呈」と酷似したメロディラインを持っています。

 

シューマン「歌曲集 ミルテの花 Op. 25-1 献呈 Widmung」

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲頭)

シューマン「献呈」との共通点:

・冒頭の旋律進行が類似
・「献呈」はシューマンがクララに捧げた愛の音楽
・劇中の「夜想曲」もキース・ヴィンセントが女性に捧げた楽曲という設定

 

リー・ハーラインは「夜想曲」作曲時に、「愛する人への献呈」という共通テーマを意識して、意図的にシューマンの作品を引用した可能性が高いと考えられます。

 

劇中での「夜想曲」の使用パターン:

・通常のBGMへ引用されて使用(状況外音楽)
・本編冒頭、キース・ヴィンセントによるピアノ演奏(状況内音楽)
・本編19分頃、ピアノによるこのメロディと通常のBGMが合わさり、不協和な経過的音楽を創出(状況外音楽)
・クライマックスでネッド・フォードが弾きながら自白するシーンでの重要な使用(状況内音楽)
・その他、本編中で何度もピアノで弾かれる(状況内音楽)

多様な音楽が流れる中でも、「夜想曲」という一本の音楽的柱が映画全体を貫き、作品理解の重要な鍵となっています。

 

► 終わりに

 

特に、珍しい状況内音楽の使用や創意工夫と、「夜想曲」の効果的な活用は、注目すべきでしょう。ピアノを軸とした楽曲がストーリーに上手く組み込まれた一作です。

 

 

 

 

 

 


 

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