【ピアノ】音型単位による低音保続の基礎と実例:C.P.E.バッハとモーツァルトを例に
► はじめに
低音保続(ペダルポイント)とは、和声の変化の中で特定の音を持続させる作曲技法です。この技法は、特に調性音楽において以下のような重要な役割を果たします:
・調性の確立と強調
・和声的な緊張感の創出
・楽曲構造の明確化
本記事では、特に「音型単位での低音保続」に焦点を当てます。これは、単一の音だけでなく、特定の音型パターンを持続させる手法を指します。この技法を理解することで、より深い楽曲分析が可能になります。
► 実例分析
‣ J.S.バッハ「行進曲 BWV Anh.122」の場合
C.P.E.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 行進曲 BWV Anh.122」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-9小節)
4-6小節の構造分析:
・基本となる音:D音
・転調先:A-dur(6小節目のGis音が指標)
音型保続の特徴:
1. 左手パートの反復パターン(4小節目から)
・基本音型:D音で1小節2回発音されるバスのパルス
・副次的音:Cis音の存在
・音型の機能:和声的基盤の形成
2. その和声的意義
・D音による保続は、主音としての機能を果たす
・音型内のCis音は非和声音であり、補助的要素
・これらの組み合わせにより、調性感を保ちながらも変化を生み出している
6小節目の左手パートは、一見、右手パートの内容と無関係のように感じませんか?これは音型を丸々残している保続。したがって、和声的にはD音による保続ではあるのですが、Cis音も出てくるのです。
低音保続というのは、必ずしも主要な音のみで保続するわけではありません。
‣ モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」の場合
モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、58-60小節)
構造分析:
・基本となる音:H音
・音型の特徴:トリルを含む2拍単位の反復パターン
音型保続の特徴:
1. 左手パートの構造
・基本音:H音(最低音)
・装飾的要素:Ais音を含むトリル
・音型の反復:2拍ごとのパターン
2. 和声的・構造的意義など
・H音による保続は、局所的な和声進行の支柱となる
・トリルを含む音型全体が一つの保続単位として機能
・この手法により:
– 同音連打が苦手な楽器の特徴をカヴァーしつつ、リズム表現を実現
– 調性感を保ちながらも変化を生み出している
ここではH音による低音保続なのですが、最低音のH音の保続の上にトリルの声部が乗っていると捉えず、左手パート全体で2拍毎の音型を丸々残している保続と考えるといいでしょう。結局、トリルというのも音の持続の一種だからです。
► 分析の深化に向けて
重要な観点:
1. 音型保続の構造的分析
・基本音と副次的音の関係性
・音型パターンの持続期間
・和声進行における機能
2. 音楽的文脈での考察
・楽曲全体における位置づけ
・前後の部分との関連性
・調性構造への影響
発展的な学習課題:
・異なる時代・様式における音型保続の比較
・調性音楽における保続技法の変遷
・作曲家による技法の個性的な活用
低音保続についてさらに詳しく学びたい方は、以下の記事もあわせて参考にしてください:
・【ピアノ】低音保続の効果と分析方法:シューベルト「楽興の時 第3番」を例に(基礎)
・【ピアノ】低音保続(ペダルポイント)の分析:作曲家たちの意図を読み解く(応用)
【おすすめ参考文献】
本記事で扱った、C.P.E.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 行進曲 BWV Anh.122」について学びを深めたい方へ
・大人のための独学用Kindleピアノ教室 【C.P.E.バッハ 行進曲 BWV Anh.122】徹底分析
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