【ピアノ】「ピアニストへの基礎 ピアノの詩人になるために」(田村安佐子 著)レビュー
► 概要
・出版社:筑摩書房
・初版:1990年
・ページ数:140ページ
・対象レベル:初中級~上級者
・ピアニストへの基礎―ピアノの詩人になるために 著: 田村安佐子 / 筑摩書房
► 内容について
‣ 本書の特徴
マグダ・タリアフェロの音楽性を伝える稀有な一冊
本書の特徴は、著者の田村安佐子氏(ピアニスト)が、巨匠マグダ・タリアフェロから直接指導を受けた経験を基に、その深遠なピアノ奏法の神髄を体系的にまとめ上げた点にあります。タリアフェロは20世紀を代表するピアニスト、アルフレッド・コルトーの高弟として知られ、その芸術性は現代のピアノ教育にも大きな影響を与えています。
独学者のための具体的なガイド
本書は以下の特徴を持つ実践的な指南書として高く評価できます:
1. 基礎から応用まで体系的な構成
・「たった一音の出し方」から段階的な習得を可能にする構成
・各章が有機的につながり、読者の理解を深める工夫がされている
2. 視覚的な学習サポート
・フォームや座り方などの身体的な要素の詳細な解説
・独学では把握しにくい要素の豊富な図例による視覚化
3. 芸術的アプローチの重視
・技術と音楽性の調和を追求
・ポエジー(詩的表現)を重視した考え方の継承
‣ 各章の特徴と学びのポイント
序章:ピアノの詩人になるために
・ピアノ演奏における芸術性の本質的な理解
・タリアフェロやコルトーの音楽哲学の紹介
・技術習得の前提となる精神性の解説
第I章~第V章
・基礎的な奏法からの段階的な解説
・実践的な練習方法の提示
・実際の楽曲の譜例を使わず、ごくシンプルな数音によるエチュードを使った解説
終章:しあげはバッハで
・それまでの学習内容の実践的な応用方法
・多声部音楽への具体的なアプローチ方法
・J.S.バッハ作品を通じた総合的な技術の確認
‣ 使用上の注意点
1. 即効性を求める読者には不向き
・長期的な視点での技術改善を目指す内容
・基礎からの見直しに重点を置いている
2. 本当の入門者には難しい可能性
・序章から第Ⅱ章まではレベルに関係なく独学できる
・第Ⅲ章以降はやや高度になる(初中級者以降向け)
ちなみに、内容的には入門さえ終えている段階であれば学習できる内容ですが、書籍の方向性としては、「ある程度弾ける学習者が、座り方や音の出し方などの本当の基礎から見直すための書籍」の色が強いように感じます。
► 結論
本書は、独学で悩む初中級以上の学習者にとって、「たった一つの音の出し方」から自己の演奏を見つめ直す貴重な機会を提供してくれます。真摯にピアノ演奏の向上を目指す学習者にとって、長期的な指針となる一冊と言えるでしょう。
・ピアニストへの基礎―ピアノの詩人になるために 著: 田村安佐子 / 筑摩書房
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