【ピアノ】各セクションの詳細比較分析:モーツァルト「クラヴィーア小品 ヘ長調 K.33B」を例に
► はじめに
本記事では、モーツァルトの「クラヴィーア小品 ヘ長調 K.33B」を例に、作曲技法の観点から詳細な比較分析を行います。特に、二部構造における展開方法と、微細な変化による音楽的効果に着目します。
► 実例分析:モーツァルト「クラヴィーア小品 ヘ長調 K.33B」
‣ 楽曲の基本構造
モーツァルト「クラヴィーア小品 ヘ長調 K.33B」
譜例1(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
基本構造
本作品の二部構造:
・セクションA(1-12小節):基本となる音楽的素材の提示
・セクションB(13-26小節):素材の展開と変形
これらの二つのセクションが非常によく似ていることから、比較分析できる譜例を用意しました。
‣ 詳細比較分析
譜例2(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
比較から見えてくる差異:
1. 構造的分析
基本フレーズ構造
・セクションA:2小節単位の規則的構造
・セクションB:3小節構造(13-15小節、16-18小節)の導入による拡張
・結果的な小節数の増加(セクションBで2小節増)
・構造的単位の操作による形式的な発展
2. メロディック分析
旋律線の展開手法
・セクションB(13-26小節):休符による分節化
・終止部分の処理の違い(12小節目と26小節目)
・休符の戦略的配置による旋律の再構成
3. 和声構造分析
和声進行の特徴
・セクションBの開始(主調のⅤ度)
・16小節目でセクションAの対応部分と和声的に一致する
・和声的期待の意図的な裏切り(20小節)
4. 左手パートの和音処理
4-1. 転回形の使用法
・3小節目:2拍目で第一転回形
・16小節目:2拍目で経過のG音
・4小節目と18小節目の転回形の使い分け
4-2. カデンツ処理
・11小節目と25小節目の音域設計
・12小節目と26小節目の音数の差異
4-3. 和声の差からくる音遣いの差異
・1-2小節と13-15小節は和声が異なるので、当然、左手パートの音遣いも異なる
・6小節目と20小節目は和声が異なるので、当然、左手パートの音遣いも異なる
5. その他
・フェルマータの有無
► 作曲技法の分析
(再掲)
1. フレーズ拡張手法
14小節目における構造拡張
・基本フレーズ:13小節目→15小節目
・拡張要素:14小節目の挿入
・音楽的効果:規則的構造への変化の導入、耳慣れたフレーズの予測を裏切る意外性
2. リズム構造の操作
20小節目の伴奏パターン変更
・基本パターン:8分音符による持続的動き
・変更点:4分音符への移行
・効果:リズム的連続性の意図的な中断による意外性
3. 和声的展開技法
20小節目における和声的変化
・聴覚的期待:セクションAの6小節目との対応
・実際の展開:異なる和声進行
・効果:構造的対応関係からの意図的な逸脱による意外性
その他、差異から来る注目する表現:
・セクションB(13-26小節)で、メロディが休符混じりになることによる拍頭の左手パートの露呈
・11小節目と25小節目のカデンツの音域差による、直後の小節の印象操作
► 分析の総括
本作品での主要な作曲技法:
・フレーズ構造の柔軟な操作
・休符による旋律の再構成
・和声進行による期待と裏切り
・音域と音数の戦略的制御
► 分析手法の応用可能性
本分析で用いた手法は、以下のような作品分析に応用できます:
・J.S.バッハのメヌエット「BWV Anh.114、BWV Anh.115」等の共通構造を持つ作品
・ソナタ形式における提示部と再現部の比較
・その他の二部分からなる作品における主題展開技法の分析
分析の着眼点:
1. 構造レベル
・フレーズ単位の把握
・構造的対称性と非対称性
・拡張・縮小技法
2. 素材レベル
・旋律の展開方法
・和声進行の設計
・リズムパターンの操作
3. 技法レベル
・主題の変形手法
・構造的統一性と多様性のバランス
・期待と意外性の制御
比較分析についてさらに学びたい方は、以下の記事を参考にしてください。
【ピアノ】J.S.バッハのメヌエット BWV Anh.114・115の比較分析
【おすすめ参考文献】
本記事で扱った、モーツァルト「クラヴィーア小品 ヘ長調 K.33B」について学びを深めたい方へ
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