【ピアノ】ショパン「24のプレリュード 第4番 ホ短調 Op.28-4」演奏完全ガイド
► はじめに
曲の背景
ショパンは、それまでフーガと組み合わせて作曲されることが多かったプレリュードを、独立した小曲として作曲しました。従来の「何かのための前奏曲」という性格から脱却し、まったく新しい音楽世界をつくり上げました。
この「第4番 ホ短調 Op.28-4」は、24曲の中でも人気の高い作品の一つです。気品のある悲しさを持つ旋律が、和音を連打する伴奏に支えられながら、ゆっくりと荘重に歌われていきます。曲全体がメランコリックな和音変化によって密度の高い叙情性で包まれており、音楽評論家ハネカーは「この宝石のような作品だけが、詩人としてのショパンの名を永遠にとどめるだろう」と評しています。
(参考文献:名曲事典 ピアノ・オルガン編 著:千蔵八郎)
演奏難易度と推奨レベル
この楽曲は「ブルグミュラー25の練習曲修了程度」から挑戦できます。
本記事の使い方
この楽曲を、演奏のポイントとともに解説していきます。パブリックドメインの楽曲なので譜例も作成して掲載していますが、最小限なので、ご自身の楽譜を用意して読み進めてください。
各セクションごとに具体的な音楽的解釈を示していますので、練習の際に該当箇所を参照しながら進めることをおすすめします。
► 全体の構成を把握する
まず楽曲の「形式」を理解しましょう。大きく分けると次のような構造になっています:
前半(1-12小節)
・1-8小節:第1フレーズ
・9-11小節:第2フレーズ
・12小節:ブリッジ(つなぎ)
後半(13-23小節)
・13-16小節:前半の繰り返し
・17-20小節:楽曲のクライマックス
・21-23小節:終結部
エンディング(24-25小節)
► 演奏のヒント
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)

‣ 前半部分(1-12小節)の演奏解説
冒頭アウフタクト:右手
・シングルノートで、左手もまだ出ていないため、音の表情が非常によく聴こえる
・最初の一音の出し方で「曲全体の音色の基準」や「曲全体のテンポの基準」が決まってしまう
・音を出す前に、しっかりと音のイメージを持ってから打鍵する
1-4小節:右手
・メロディの半音の動きが特徴的
・「この半音で動く」要素は、左手との共通点でもある
・長い音価でメロディが繰り返されていくので、長いフレーズで音楽を横に引っ張るイメージで演奏する
1-4小節:左手
・連打なので「持続音」の役割
・鍵盤の近くから押し込むように打鍵をすると、音楽が縦割りになるのを軽減できる
5-6小節:右手
・メロディが「全音」の動きになる
・細かい違いだが、少し開けた印象になる
7小節目:右手
・最後には「曲頭と同じリズム」が出てくる
・16分音符が付点8分音符よりも大きくならないように注意する
8小節目:右手
・Gis音には重みを入れて、9小節目からのレガートなフレーズを先取りする
1-8小節:全般
・1-8小節は「ハーモニーの中のたった1音を半音動かすだけでハーモニーチェンジする」方法がとられている
・和声がクロマティックに移り変わっていくため、非常に不安定な印象がある
9小節目:右手
・2つの頂点に向かうようにふくらませる
・クレッシェンドは「後ろ寄り」で行うことで、音楽的な緊張感が生まれる
10小節目:右手
・A音からは短いフレーズのウタ
・「ため息」のようにボソッと演奏すると雰囲気が出る
10小節目:左手
・ベースラインの「Si-Do」という繰り返しは曲頭の右手のメロディなので、少し強調する
・右手が長い音価中心のメロディなので、このような合間に入ってくる隠されたメロディがよく聴こえる
11小節目:右手
・装飾音は重くならないように、さり気なく演奏する
12小節目:右手
・長いフレーズのウタ
・9小節目のフレーズの展開
・ここは左手がいなくなり、右手が無伴奏のソロになる
3つ目のC音には原曲でアクセント記号が付いています:
・これは「強く演奏する」というよりは、「重みを入れて、その音に少し長く留まる」
・このような「アゴーギクの判断」と解釈すると音楽的
・高いD音は、ポピュラーでいう「#9」の音
・クレッシェンドは後ろ寄りにしてD音に入る
・この音に少し長く留まるようにすると、適切なアゴーギクがつく
12小節目:左手
・前半の最終小節である12小節目では、「主調(e-moll)のドミナント」に落ち着いている
‣ 後半部分(13-23小節)の演奏解説
(再掲)

13-15小節:右手
前半の繰り返しのメロディです:
・13小節目の入りにはダイナミクスが書かれていない
・「12小節目にクレッシェンドが書いてあること」および「楽曲のヤマがこの後に来ること」を踏まえる
・1小節目〜よりもエネルギーは少し高いと考えられる
・mp 程度で演奏するのがおすすめ
13-15小節:左手
・15小節目は前半とはハーモニーが変わっている
・そうすることで、楽曲のクライマックスである17小節目の和声へつなげている
16小節目:右手
・細かいリズムが多く使われているので、曲のヤマに向かってエネルギーが作り出されている
・ターンは後ろ寄りで速い音価を用いて演奏すると、直後のG音を活かせる
・この箇所にstrettoと書いてあり、それが18小節目の途中まで続いている
・strettoの間はアゴーギクをつけ過ぎずに演奏すると、前後のエネルギーの流れがうまくまとまる
16小節目:左手
・この楽曲で唯一「1小節4和音」になっている
・ハーモニーの移り変わりが速くなることで、17小節目のヤマへ向けて音楽を盛り上げている
17小節目:左手
・このヤマの箇所だけ和音も「4音」にしている
・音楽エネルギーを、ダイナミクスの大小だけでなく「音のカタチによる密度」でも表現している
・f になっても高くから鍵盤を叩くことはせずに、鍵盤の近くから押し込むように打鍵する
・音楽が縦割りにならないように意識する
18-19小節:右手
・9小節目のメロディのバリエーションになっている
・18小節目から19小節目にかけて、前半部分から出てきていたLa-Faの「縮小形」が出てきている
・装飾音は重くならないように、さり気なく演奏する
17-19小節は「1.5小節×2 = 3小節」という構造になっており、18小節目でイレギュラーな場所に出てくる低音が、聴感上「リズミック・アクセント」として音楽解釈の重要な目印になります。
18-19小節:左手
・18小節目後半からのベースラインの「Si-Do」という繰り返しは「曲頭の右手のメロディ」
・少し抽出する解釈もOK
20-21小節:右手
・20-21小節目にかけてクレッシェンドが書いてある
・これは「(偽終止で)少し音楽が明るくなるニュアンスに向けた音楽の方向性」と考えられる
・多少は膨らませるが、やり過ぎないように
20-21小節:左手
・21小節目は「偽終止」で、e-mollの主和音ではなくⅥに入っている
・一瞬、光が差すような小さな明るさを感じる
21-23小節:右手
・「1小節目~の右手のメロディと同じ素材」で、やはり半音で動いている
・どのように素材が応用されているか読み取ることで音楽の骨格が見えてくる
21-23小節:左手
・21小節後半からは、トップノートがクロマティックな動きになっている
・右手のメロディが長い音価の箇所なので、合間を縫うように少し抽出する
・23小節目の和音は、エンディング始めの「コードネーム:Em/B」の和音に対するドミナントになっている
21-23小節:全般
・前半と同様に、節目の小節では「ドミナント」に落ち着いている点に注目
・23小節目でフェルマータがついているのは「2分休符」
・「2分音符」のほうをフェルマータにしないように注意する
‣ エンディング(24-25小節)の演奏解説
24-25小節:右手
・メロディが「Mi-Re-Mi」となっていますが、これは1小節目のメロディ「Si-Do-Si」の反行型
・細かなことだが、こういったことまで作曲家は意識して作曲している
・メロディが「オクターブユニゾン」になっているため、響きの違いを意識する
24-25小節:全般
・この楽曲で唯一ピアニッシモが出てくる
・打鍵速度をゆっくりにし、柔らかい音を出す
・指を立て過ぎると「硬い音」になってしまうため、「寝せ気味にして押し込むような打鍵」を心がける
► メロディの動きに沿ってマーカーを引く学習
譜例(13-20小節)

メロディの動きに沿ってマーカーを引いてみると、音符だけで見るよりも動きがはっきり読み取れます。そうすることで、同じダイナミクスの領域の中でも変化をつける手がかりになります。
これは、シェーンベルクが書籍の中でおこなっていた分析方法をピアノ演奏に応用したものです。
・作曲の基礎技法 著:シェーンベルク / 音楽之友社
► 終わりに
各小節の構造やメロディの展開を理解することで、より深い演奏表現が可能になります。練習の際は、この解説を参照しながら、音楽の骨格を意識して取り組んでみてください。
推奨記事:
・【ピアノ】「最新ピアノ講座」演奏解釈シリーズのレビュー:演奏解釈とピアノ音楽史を一冊で学ぶ
(演奏解釈をさらに学ぶための教材 /「第4番 ホ短調 Op.28-4」も収載)
・【30秒で分かる】初心者でもできる楽曲分析方法⑥ ~クライマックスの位置を調べる~
(「第4番 ホ短調 Op.28-4」を教材にした記事)
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