【ピアノ】効果のない練習法を避けて上達する方法
► はじめに
ピアノを独学で学ぶ多くの方が、「何をどう練習すれば上達するのか分からない」という悩みを抱えています。熱心に練習しているにも関わらず、なかなか思うような成果が得られない理由の一つは、効果的でない練習方法を続けてしまっていることにあります。
本記事では、よくある無意味な練習パターンを具体例とともに解説し、より効果的な学習へと導くためのコツをお伝えします。
► 学び方を学ぶことの重要性
独学の方からの質問や相談を通じて共通して感じるのは、「学び方を学ぶのが先決」ということです。
例えば、ある熱心な学習者で、「何をすればいいか分からず、とりあえずツェルニー100番練習曲を買ってきた」という方がいました。ツェルニー100番練習曲も適切に使用すれば演奏能力向上に寄与しますが、「弾きたい曲のために端から順番に全曲やる」というアプローチは、「広辞苑を最初から読んで小説を書こうとする」ようなものです。
これはピアノに限った話ではありません。楽譜浄書ソフトの習得においても、「完全ガイドブック」のようなものは教科書というより「辞書」の役割を果たします。端から全部読み進める学習法では挫折しやすく、たとえ最後まで読めたとしても、最初のほうの内容はほとんど忘れてしまっているでしょう。
・ピアノを弾く
・小説を書く
・ソフトウェアを習得する
これらはすべて異なる分野ですが、「効果的な学び方を理解することが重要」という点では共通しています。そのために一番必要なのは、無意味な学び方を避けることです。
► 避けるべき無意味な練習例
まずは、明らかに効果的でない練習方法を避けることから始めましょう。
‣ 手の甲にコインを乗せて弾く練習の問題点
ソナチネなどの作品で知られる作曲家クレメンティは、生徒にピアノを教える際、手の甲にコインを乗せて弾かせ、それが落ちると注意したそうです。現代でも時々耳にする方法ですが、筆者はこの練習方法を推奨しません。
一時的に手の動きを制限する練習として、また入門者にフォームを理解してもらうための指導として一時的に取り入れるのは構いませんが、この練習方法で身につけた奏法では、すべての音を指先のみで弾くことになってしまいます。
ピアノ演奏においては様々な手の使い方が求められます。なぜなら、多彩な音色を作り出す必要があるからです。音色の豊かさには「打鍵角度」をはじめ、タッチの変化によるコントロールが重要ですが、手の甲を固定したまま指先のみで弾いていては、ほぼ同じ角度での打鍵しかできません。
実際のところ、クレメンティ自身が指だけで弾く奏法をとっていたようです。
ベートーヴェンが弟子のツェルニーに語った言葉が残っています:
コイン練習ばかりを続けた結果、指先の同じような動きでのみ演奏するクセがついてしまうと、真珠の響きしか手に入れられません。この奏法では音色が多彩になることはなく、音楽的表現の幅を狭めてしまいます。
‣ 極端な応用練習はむしろマイナス
リズム変奏などの応用練習を日頃の練習に取り入れている方は多いでしょう。これらは適切に活用すれば一定の効果を期待できます。
しかし、応用練習について質問を受ける際、「その練習、何のためにやってる?」と尋ねたくなることが頻繁にあります。
よくある問題のある例:
・指をとにかく高く上げて発音する練習
・不自然なアクセントをつけた、音楽的流れを損なうリズム変奏
また、以下のような練習が流行したこともありました:
・「音型」「リズム」「ダイナミクス」などを、すべてひっくり返して練習する方法
(譜例)
これらの練習を推奨できない理由は、その練習の目的が明確でないまま行われ、かつ楽曲の音楽性と切り離された内容だからです。練習後に残るのは「ついてしまった悪いクセ」と「やった感」だけです。
音楽には自然な流れがあります。それを無理矢理ねじ曲げたり、実際の演奏では使わないような指の動きで練習して、何の意味があるでしょうか。
もちろん、以下のような基本的な応用練習は有効です:
・パッセージを付点変奏で練習する
・一拍ずつ区切って丁寧に確認する
しかし、音楽的にもテクニック的にも良くないクセがつくような極端な応用練習は避けましょう。
► 効果的な練習のための指針
無意味な練習を避けるために、以下の3点を常に意識してください:
1. 目的を明確にする
「なぜこの練習をするのか」を明確にしましょう。目的のない練習は時間の無駄になりがちです。
2. 音楽性を保つ
どんな練習方法でも、音楽の自然な流れや表現を損なわないよう心がけましょう。
3. 実践的であること
上記の「ひっくり返し練習」など、実際の演奏で使わないことを身につける練習は意味ありません。
「そうは言われても、何をどうすればいいか分からない」という段階の方は、まずは力のある先人の知恵を借りて最初の一手を選んでもらっても構いません。
► 終わりに
効果的な練習とは、単に長時間取り組むことではなく、目的を持って音楽性を保ちながら段階的に学習することです。学習に遠回りや失敗はつきものです。しかし、「明らかに」無意味な練習は避け、必要な内容を身につけるように心がけましょう。
「何を、なぜ、どのように練習するか」を常に考えながら取り組むことが、上達への最短ルートとなるでしょう。
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