【ピアノ】非和声音(和音外音)の種類一覧:分析と演奏への活かし方
► はじめに
非和声音は細かく分類されていますが、まずは次の7種類を覚えれば十分です:
・経過音
・刺繍音
・倚音
・掛留音
・先取音
・逸音
・保続音
非和声音を見分けられるようになると得られるメリット:
・楽曲分析がより深くできる
・緊張と解決の流れが見える
・演奏でどこに重心を置くべきか分かる
楽譜を分析していると、様々な「非和声音(和音外音)」が登場します。これらの用語は音楽理論書で頻繁に見かけますが、単に名称を覚えるだけでは実際の楽曲分析や演奏には活かせません。
本記事では、まず和声音と非和声音の違いを確認したうえで、代表的な非和声音の種類を整理し、実際の楽曲分析や演奏表現との関係について考えていきます。
※ 本記事における用語の定義は、主として「ニューグローブ音楽辞典(The New Grove Dictionary of Music and Musicians)」および「和声と楽式のアナリーゼ バイエルからソナタアルバムまで 著:島岡譲 / 音楽之友社」の考え方を参考にしています。
► 本記事の読み方
非和声音を初めて学ぶ方
本記事を順に読み進めてください。
非和声音の意味を概ね把握している方
「► 実際の分析で迷いやすい非和声音」以降をお読みください。
► 非和声音とは何か
和声音(harmonic note)とは
その瞬間の和声を構成している音のこと。例えば、C-dur(ハ長調)のⅠであれば「C E G」、C-durのⅤ7であれば「G H D F」が和声音。
非和声音(和音外音、non-harmonic note)とは
和声の構成音(和声音)ではない音で、和音のなかでその和音の他の音と協和しない音。旋律を装飾するためのもの。
クレメンティ「ソナチネ Op.36-1 第1楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

各非和声音の詳細は後述しますが、ここでは、通常の音符が和声音、カラー音符が非和声音です。
・1-3小節はC-durのⅠ(コードネームでいうC)なので、「C E G」のみが和声音
・4小節目はC-durのⅤ(コードネームでいうG)なので、「G H D」のみが和声音
このように、和声音と非和声音の区別をするためには、簡単な和声知識は必要になってきます。非和声音の種類は音の動きだけで決まるものではなく、その時点の和声との関係によって決まるからです。
和声知識の一番の基礎を学びたい方は、「和声と楽式のアナリーゼ バイエルからソナタアルバムまで」(島岡譲 著)」を参考にしてください。この書籍は、非和声音の基本的な分析についても詳しく解説されています。
【ピアノ】「和声と楽式のアナリーゼ バイエルからソナタアルバムまで」(島岡譲 著)レビュー
► 代表的な非和声音の種類
‣ 経過音(Passing note)
経過音(Passing note)とは
2個の和声音の間を音階的につなぎ合わす非和声音のこと。経過音は、ふつう弱拍または拍の弱部に置かれる。
詳細な分類:
・和音が変わらないもの/変わるもの
・音階的なもの/半音階的なもの
・単独のもの/複音のもの
・和音で現れるもの
クレメンティ「ソナチネ Op.36-1 第1楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

レッド:経過音
ブルー:刺繍音(後述)
グリーン:倚音(後述)
レッド音符で示した音が「経過音」です。
3小節目の経過音を見てみると:
・経過音の前後で和声は変わっていない(ずっとⅠ)
・臨時記号が出てきておらず、音階に沿っている
・複音ではなく、単音で動いている(経過音が1音だけしか挟まっていない)
したがって、上記の分類では、「和音が変わらないもの」「音階的なもの」「単独のもの」を兼ねていることになります。
4小節目の経過音を見てみると:
・経過音の前後で和声は変わっていない(ずっとⅤ)
・臨時記号が出てきておらず、音階に沿っている
・左手部分の経過音は複音で動いている(2音挟まっている)
3小節目には出てこなかった、「複音のもの」が出てきていることに着目してください。
残りの分類、「和音が変わるもの」「半音階的なもの」に該当する例を見てみましょう。
モーツァルト「ピアノソナタ ヘ長調 K.332 第1楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、51-52小節)

・レッド音符で示した音は「経過音」だが、半音階的に経過している
・経過音の前後で和声が変わっている(G/C → C)
したがって、ここでは「和音が変わるもの」「半音階的なもの」「単独のもの」に該当します。
「和音で現れるもの」については、後述します。
経過音:演奏上のヒント
言葉の通り「通り過ぎるだけ」にし、あまり強く弾いたり余計な表現を持たせないようにしましょう。そうすると、経過音としての経過的なニュアンスを表現することができます。
‣ 刺繍音(補助音、auxiliary note)
刺繍音(補助音、auxiliary note)とは
2個の同じ高さの和声音の中間にはさまれた隣接音度の非和声音。「主要音」から半音または全音、上方か下方かに進み、すぐにまた主要音に戻ることによって主要音を装飾するもの。刺繍音は、ふつう弱拍または拍の弱部に置かれる。
詳細な分類:
・単独の場合
・2つないし3つの音で同時に行われる場合(刺繍和音、補助和音)
クレメンティ「ソナチネ Op.36-1 第1楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

レッド:経過音
ブルー:刺繍音
グリーン:倚音(後述)
ブルー音符で示した音が「刺繍音」です。
・ここでは和声音から半音ぶん下方に進み、すぐにまた和声音に戻っている
・これ以外にも、和声音から半音または全音、上方か下方かに進み、すぐにまた主要音に戻るものは刺繍音に分類
刺繍音:演奏上のヒント
刺繍音のように「行って帰ってくる動き」は重くなりがちなので、さりげなく演奏しましょう。
二重刺繍音(連続刺繍音)
順次進行で非和声音に行き、反対方向に跳躍進行して別の非和声音へ行き、さらに反対方向に順次進行で解決する非和声音。
モーツァルト「ピアノソナタ ハ長調 K.545 第3楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、28-30小節)

ブルー:刺繍音
一度和声音から離れた後、さらに別の非和声音を経由して主要音へ戻っている点が、通常の刺繍音との違いです。
‣ 倚音(Appoggiatura)
倚音(Appoggiatura)とは
強拍または拍の強部に置かれ、隣接する和声音へ解決する非和声音のこと。
理論的には、刺繍音の最初の和声音が省略された形と考えられる。そのため、刺繍音と同様に隣接音へ進むが、いきなり非和声音から始まるため、より強い緊張感を生み出す。
倚音は解決の方向と逆方向から跳躍で導かれることが多いものの、同方向から導かれる場合もある。
解決の方向と逆方向からの到達
クレメンティ「ソナチネ Op.36-1 第1楽章」
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、22-23小節)

グリーン:倚音
解決の方向と同方向からの到達
モーツァルト「ピアノソナタ ニ長調 K.576 第2楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、5-6小節)

倚音:演奏上のヒント
倚音は「強拍部にあること」「不協和から協和へ解決しようとする力が強いこと」から、表現上で大きなポイントになる非和声音です。次の音へ解決して協和になる瞬間を良く聴くようにしましょう。多くの場合、解決音のほうが大きくなってしまうと不自然です。
連続倚音
上部と下部の非和声音が連続して用いられることを「連続非和声音」と呼び、倚音が連続する場合は、「連続倚音」と呼びます。上部と下部の順序はどちらが先になることもあります。
ベートーヴェン「ピアノソナタ 第1番 Op.2-1 第1楽章」
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、31-33小節)

グリーン音符で示した音が「倚音」であり、連続して使用されている「連続倚音」の例です。
‣ 掛留音(Suspension)
掛留音(Suspension)とは
直前の和音では協和音だった音がタイで保持され、次の和音に入った時点で非和声音となるもの。倚音が前の和音からタイによって延長された場合は、倚音ではなく掛留音と呼ぶ。掛留音は、ふつう強拍または拍の強部に置かれる。
モーツァルト「ピアノソナタ ハ短調 K.457 第3楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

オレンジ音符で示した音が「掛留音」です。タイ始まりの「前の音」ではなく、つながれた「後ろの音」が掛留音なので注意しましょう。※で示した音は和声音ですが、ここでのように他の掛留音と同じ形で同型反復として分析するときには、掛留音と解釈している理論書もあります。
掛留音:演奏上のヒント
タイで先に「食って」鳴らされるので、その音には多少重みを入れて弾くと音楽的になります。掛留音に入ったときの緊張感と、それが解決される開放感を感じるようにしましょう。
‣ 先取音(Anticipation)
先取音(Anticipation)とは
後続する和音に含まれ、そのなかで反復される強勢のない非和声音。
詳細な分類:
・単独の場合
・2つないし3つの音で同時に行われる場合
モーツァルト「ピアノソナタ ト長調 K.283 第1楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、4-7小節)

パープル音符で示した音が「先取音」です。※で示した音は和声音ですが、ここでのように他の先取音と同じ形で同型反復として分析するときには、先取音と解釈している理論書もあります。
モーツァルト「ピアノソナタ ヘ長調 K.332 第1楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、43-44小節)

先取音:演奏上のヒント
音価が短い先取音よりも、その直後の音価が長い同音に重心が入ったほうが音楽的に聴こえます。
‣ 逸音(Escape Tone)
逸音(Escape Tone)とは
刺繍音(2個の同じ高さの和声音の中間にはさまれた隣接音度の非和声音)のグループのうち、後のほうの和声音が省略されたもの。逸音は、ふつう弱拍または拍の弱部に置かれる。
詳細な分類:
エシャペ:解決の方向と反対の方向から到達されるもの
カンビアータ:同じ方向から到達されるもの、つまり解決を「跳び越える」もの
クーラウ「ソナチネ Op.88-1 第3楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、5-8小節)

イエロー:逸音
クレメンティ「ソナチネ Op.36-1 第1楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、12-15小節)

ハイドン「ソナタ ハ長調 Hob.XVI:35 第1楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、3-8小節)

※で示した音は和声音ですが、ここでのように他の逸音と同じ形で同型反復として分析するときには、逸音と解釈している理論書もあります。
ハイドン「ソナタ ハ長調 Hob.XVI:35 第3楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

ヘンデル「調子の良い鍛冶屋」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1変奏 より)

逸音:演奏上のヒント
逸音は、隣の音に解決されないため、想像以上に聴き手の耳に残ります。流れの中で自然に弾くようにし、特別に大きな音でコブを作ってしまわないように注意しましょう。
‣ 保続音(Pedal Point)
「保続」には「高音保続」と「低音保続」の2種類がありますが、特に重要な「低音保続」に焦点を当てます。
保続音(Pedal Point)とは
ある程度の長さにわたり同じ音が保続され、その間に保続されている音以外が動き和声が変わるケースにおける、保続される音のこと。
術語の整理:
・保続(Pedal Point):音を持続する技法の総称
・持続低音:主に低音部で用いられる保続
・オルゲルプンクト(Orgelpunkt):特にドイツ語圏で使用される呼称
・ペダルポイント:英語圏での一般的な呼称
クレメンティ「ソナチネ Op.36-1 第1楽章」
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、20-27小節)

20-23小節は、属音での保続音になっています。この保続音により、24小節目からの再現部への期待感を高める効果が強まっていることに着目しましょう。
24-26小節は、低音がC音で鳴り続けますが、和声がⅠのままで変化していないので、保続音には分類しません。
この例の20-23小節では、和声が変わってはいますが、属音(G音)と関係のある和声ばかりです。そこで、より非和声音としての色が濃く出ている以下の例も見てみましょう。
J.S.バッハ「平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第2番 フーガ」
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、29-31小節)

保続音:演奏上のヒント
和声の変化を調べておき、その移り変わりをよく聴きながら演奏しましょう。動くパートを和音として弾き、響きの移り変わりを感じてみるのもおすすめです。
二重保続音
例えば、ショパン「エチュード集(練習曲集)第9番 Op.10-9」の曲頭から、属音と主音の「二重保続音」が使われています。クレメンティやJ.S.バッハの例と比較することで、同じ技法の異なる表現の可能性を理解できます。
保続音についてより詳しく学びたい方は、【ピアノ】低音保続(ペダルポイント)の分析:作曲家たちの意図を読み解く をご覧ください。
‣ その他の分類と発展形
音楽理論書の中には:
・経過的倚音
・刺繍的倚音
・後部倚音
・下方掛留音
・偶成和音
・刺繍和音(補助和音)
・倚和音
・経過和音
などの名称が使用されているものもあります。これらは基本的な非和声音の発展形・複合形として理解するといいでしょう。本記事では、まず主要な非和声音の理解を優先し、詳細な分類には立ち入りません。
偶成和音、刺繍和音、倚和音、経過和音に関しては、以下の書籍で簡潔に学ぶことができます。
【ピアノ】「和声と楽式のアナリーゼ バイエルからソナタアルバムまで」(島岡譲 著)レビュー
► 実際の分析で迷いやすい非和声音
非和声音の学習で難しいのは、実際の楽曲で判別することです。ここでは、判断に迷いやすい例や応用例を取り上げます。
‣ 経過音と倚音の境界
クレメンティ「ソナチネ Op.36-1 第1楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

レッド:経過音
ブルー:刺繍音
グリーン:倚音
グリーン音符で示した音は「倚音」ですが、直前のG音から順次進行しているので、経過音と迷うかもしれません。
このような、「強拍」にあり、直前から順次進行している非和声音については、以下の分析が行われます:
・参考書によっては「経過的倚音」「強勢のある経過音」と説明されている
・より広くは、単に「倚音」と解釈されており、こちらを推奨
‣ パッセージ全体を経過音として捉える例
以下の譜例のように、カタマリで急速に通り過ぎるパッセージの場合は、パッセージの開始音から着地音までをつないだ音群をまとめて経過音と解釈する分析も行われています。
ベートーヴェン「ピアノソナタ 第8番 悲愴 ハ短調 Op.13 第3楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、199-202小節)

レッド:経過音
‣ 掛留音と倚音が連続する例
掛留音と倚音が連続で使用されている例です。
ベートーヴェン「ピアノソナタ 第5番 Op.10-1 第1楽章」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、31-36小節)

グリーン:倚音
オレンジ:掛留音
‣ 経過音と倚音が連続する例
経過音と倚音が連続で使用されている例です。
クーラウ「ソナチネ Op.20-3 第1楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、7-8小節)

レッド:経過音
グリーン:倚音
‣ 非和声音の上に現れる非和声音
クレメンティ「ソナチネ Op.36-1 第1楽章」
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、35-38小節)

レッド:経過音
グリーン:倚音
イエロー:逸音
ブラウン:経過音/逸音、倚音/逸音
► 非和声音を分析してみよう
ここまで読んだら、実際に分析してみましょう。
非和声音の見つけ方:
・和声を見極める
・その和音の構成音を確認する
・構成音以外を非和声音候補とする
・前後の動きから種類を判定する
ベートーヴェン「ピアノソナタ 第8番 悲愴 ハ短調 Op.13 第3楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

この譜例の部分から、非和声音を見つけてみましょう。以下の分類で色分けするか、経過音を「経」、刺繍音を「刺」などと略して文字を書き込むのでも構いません。
レッド:経過音
ブルー:刺繍音
グリーン:倚音
オレンジ:掛留音
パープル:先取音
イエロー:逸音
マゼンタ:保続音
これらの非和声音すべてが出てくるわけではありません。
【解答例】

特に、逸音や保続音、和音での経過音などが出てきているのが特徴です。
► 非和声音の分析を演奏に活かす
非和声音の分析は、ただの机上の理論学習ではありません。どの音が緊張を生み、どのように解決へ向かうのかを理解することで、演奏の方向性も明確になります。特に倚音は、「強拍部にあること」「不協和から協和へ解決しようとする力が強いこと」から、表現上で大きなポイントになる非和声音です。
以下の書籍では、倚音によるアクセント、掛留音によるアクセント、先取音によるアクセントなど、非和声音を演奏表現に結びつけるコツが詳しく解説されているので、あわせて参考にしてみてください。
【ピアノ】「演奏のための楽曲分析法」(熊田為宏 著)レビュー
► 終わりに
参考文献:
・ニューグローブ音楽辞典(The New Grove Dictionary of Music and Musicians)
・和声と楽式のアナリーゼ バイエルからソナタアルバムまで 著:島岡譲 / 音楽之友社
非和声音を見分けられるようになると、「どの音が主役で、どの音が装飾なのか」が見えてきます。それは分析だけでなく、フレージングや重心の置き方にも大きく影響します。
まずは主要な非和声音の特徴を理解し、実際の楽曲の中で探してみてください。分析の精度が高まるだけでなく、演奏表現にも新たな発見が生まれるはずです。
非和声音の理解をさらに深めたい方は、以下の記事もご覧ください。
【ピアノ】「和声と楽式のアナリーゼ バイエルからソナタアルバムまで」(島岡譲 著)レビュー
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