【ピアノ】メトロノームの効果的な活用法と実践テクニック
► はじめに
ピアノ練習において、メトロノームは多くのピアノ弾きにとって馴染み深くも、時に難しいツール。
一見単純な機械のように見えますが、その使い方次第で演奏力を向上させることができます。
本記事では、メトロノーム活用の知恵を、実践的なアドバイスとともに紹介します。
► 効果的な使用方法
‣ 1. リズム重視のところで
モーツァルト「ピアノソナタ第10番 K.330 第1楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、84-85小節)
矢印で示したところでは全パートが休符になるので、その直後のタイミングがつかみにくく、32分音符で転んでしまいがち。
こういったところでは「メトロノームに休符の拍出しをしてもらう練習方法」が有効に使えます。
この楽曲は2/4拍子ですが、譜例のところを練習する時には、ひとつの小節で8分音符が4つ鳴るようにメトロノームをかけてみましょう。
そうすると、矢印で示したところでもそれが鳴るので、タイミングをつかむ良い練習になります。
実際にメトロノームを使用しないで弾く時には、代わりに「体内のリズム」を出さなければ弾けませんが、まずはその正しいタイミングの感覚をつかんでください。
こういった練習方法は、他にも「裏打ちのリズム」が伴奏にとられていたりと、明らかにリズムが重視されているところでは取り入れてみるといいでしょう。
ポイントは、クセがつく前、つまり、譜読みの早い段階の練習から行っておくということです。
‣ 2. 音価が変わる伴奏で
ショパン「ピアノソナタ第3番 ロ短調 作品58 第4楽章」
譜例(PD作品、Finaleで作成、3箇所抜粋)
楽曲が進むにつれて「左手の伴奏の音価」がどんどんと変わっていきます。
このように「伴奏の細かさがどんどん変わっていく楽曲」では、メトロノームを使用してみる時期があってもいいでしょう。
「ショパンでメトロノーム?」などと怪訝な表情をしないでください。
ここで言っているのは、伴奏の音価が変わってもテンポをキープできる感覚を知ったうえで、最終的には機械的な演奏を離れるための準備練習のすすめ。
伴奏の音価が細かくなると途端にテンポが遅くなってしまったりするケースが多いので、いったんリズムを整理するためにメトロノームを活用する。
最終的にはこれを「体内のカウント」で行えるのを目指します。
‣ 3. ゆったりの曲想で拍を割る
指揮のテクニックとして「緩徐楽章のような “ゆったりの曲想” では各拍を2回振る」というものがあります。「拍を割る」ということですね。
このやり方をメトロノーム練習に応用してみるのもいいでしょう。
だいたい「♩= 60 」が、割るか割らないかの分かれ目。
それ以下のテンポでは拍を割って分けないと練習しにくいですし、演奏的にも苦しく聴こえます。
「♩= を、♪= で計算するとしたら…」と考えて、そのテンポをメトロノームで鳴らしてみましょう。
‣ 4. 音源がない曲のテンポを調べる
「あまり知られていない楽曲」や「新曲」に取り組む際は、探しても演奏音源が手に入らないこともあります。
その場合は、メトロノーム記号の数字を参考におおよそのテンポを調べ上げましょう。
テンポというのは、音楽的なあらゆる解釈を決めていくうえで大きな指標になります。
したがって、譜読みの段階で仕上がりのテンポをおおよそ予測できていることが学習を大きく助けてくれます。
メトロノーム記号の数字というのは、時々不自然に速すぎる速度で書かれていたりするものもありますが、そういう楽曲ばかりではありません。
原則として数字が書かれている作品では、とりあえずその速さをチェックしてみましょう。
‣ 5. 決まった数字をひと単位に上げ下げ管理
この項目は特におすすめ。もちろん筆者自身も取り入れている方法です。
テンポを上げていく練習のときに、
「4」や「5」など、決まった数字をひと単位として上げていきます。
こうすることによって、「ちょっと速いな」という段階に達した時に、「上げた分だけ元に戻す」といったことが可能になり、
適当に上げ下げするよりもずっと練習を管理しやすくなります。
筆者がこのやり方をはじめたのは、一部のレコーディングエンジニアの方が「決まった数値の上げ下げで音量管理をしている」という話を耳にしたから。
メトロノーム練習でも数値を適当に扱わないようにしてみたら、思ったよりもずっとやりやすかったわけです。
また、テンポを上げていくという練習段階では、「記録がとれる」ということも重要なので、決まった数字をひと単位として上げていく方法をとることに大きな意味があります。
‣ 6. 練習したい部分は、できるだけ早い段階で暗譜する
メトロノームで練習したいところは、とりあえずその部分だけでいいので、できるだけ早い段階で暗譜してください。
そうすることで、メトロノームの音と自分の音の両方に集中できるようになります。
暗譜する前から使ってはいけないわけではありませんが、その時間をなるべく縮めるように心がけましょう。
暗譜せずにやっとこ弾いている時というのは、簡潔に言うと、余裕がありません。
楽譜にかじりついて、視覚的要素もふんだんに使われてしまっています。
しかし、余裕ができると耳をよりよく使うことができます。だからこそ、「メトロノームを使った片手練習」というのは効果が高いわけですね。
ただ単にメトロノームを鳴らしているだけで全然自分の音と合っていないような無意味な練習を避けるためにも、できる限り早い段階での暗譜を心がけましょう。
‣ 7. いつか外さなければいけない
「メトロノームはいつか外さなければいけない」 ということを常々感じています。
メトロノームというのは、ピアノ練習における「交通整理」のような役目をもっています。
テンポキープがないがしろになっているところを見つけ出したりするのにも活用できます。
これは、何度も練習して改善できたらメトロノームを外すべきということでもあるのです。
時々、どんな時でもどんな楽曲でもメトロノームをかけっぱなしにする練習が話題に挙がりますね。
合奏するためには必要な練習方法でもあるのですが、こればかりでは、自分の体内でテンポをキープしていく力がいつまで経ってもつきません。
それに、メトロノームが大きな音で鳴っている以上、使っていない時よりも、自分の奏でているピアノの音が聴こえにくいという事実も知っておくべき。
メトロノームの使用には、メリットだけでなくデメリットもあるのです。
ある程度交通整理ができたら、いったんメトロノームの使用をやめてみましょう。
‣ 8. 外した後に再度迎え入れる方法
おすすめする再度迎え入れる方法は、道路速度標識のようにたまに叱ってもらうやり方。
道路速度標識というのは忘れたころにやってきて、以下のようなことを知らせてくれます:
「のろくて、後ろがつかえています」
「そんなに出したら、あなたの命とまわりの命が危険です」
メトロノームも同じように、使用をやめて時間が経ったら、方向を正すかのようにまた一部だけ取り入れてみる。そして、意識外のテンポの大きな乱れがないかをチェックする。
このように出戻りさせるのがいいでしょう。
つまり、「出戻りはさせるけれど、もう鳴らしっぱなしにはしない」ということでもあります。
「忘れた頃に」というのがポイントで、
忘れた頃にこのようなチェックを繰り返すと、自分がテンポに関してやってしまいがちな問題点がある程度集約されてくることに気づくはず。
それを踏まえて、またメトロノームなしでの学習へ戻りましょう。
► 終わりに
この記事で紹介したテクニックを、それぞれの楽曲に合わせて柔軟に応用してください。
メトロノームは道具であり、目的ではありません。最終的には、「体内のリズム」を育て、音楽の自然な流れを感じ取る必要があります。
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