- 【ピアノ】モチベーション維持と継続学習のための66のヒント
- ► はじめに
- ► A. 心理的アプローチ
- ‣ 1. 面白がる以外の目標をあまり持たずに続ける
- ‣ 2. たとえテクニック的にまだでも、ピアノに対して大きな自信をもつ方法
- ‣ 3.「演奏者と共に」「作曲者と共に」ということを常に考える
- ‣ 4. 創作や演奏を楽しく感じ始めたタイミングを逃さない
- ‣ 5. やりたいことへは次の楽曲で挑戦する
- ‣ 6. なれない自分になろうとしない
- ‣ 7.「あの頃へ戻りたい」から抜け出さないと先へ進めない
- ‣ 8. やりたいと思った作品を簡単に選択肢から外さない
- ‣ 9. 結局、好きで続けている人が先へ行く
- ‣ 10. 他人の目を気にせずに音楽を続けるコツ
- ‣ 11. 結局、継続のためには「楽しいからやる」へもっていくに限る
- ‣ 12. 何となくでもうなずける解説を見つける
- ‣ 13. モーツァルトも、本当の意味の完璧な天才では無かった
- ‣ 14. 天才の神話を超えて、努力の価値を知る
- ‣ 15. 大きな音に憧れを持つことは悪いことではない
- ‣ 16. 体操界レジェンドの名言から学ぶ
- ‣ 17. モチベーションを保つことに逃げない
- ‣ 18. 自分が深く掘り下げたい分野を見つけよう
- ► B. 学習継続のテクニック
- ‣ 19. ベテランピアニストが語る、継続の秘訣
- ‣ 20. 手の大きさでマウントをとられたときに落胆しないヒント
- ‣ 21. とにかく音楽学習を続けるコツ
- ‣ 22. 始められない練習の始め方
- ‣ 23. PCを使った音楽学習の継続ポイントも同様
- ‣ 24. なぜ、出したままにする学習は挫折しにくいのか
- ‣ 25. 誰かに見られている意識が生む学習モチベーション
- ‣ 26. 心理的ハードルを下げる練習の整理術
- ‣ 27. タスク量を減らして、学習への敷居を下げる
- ‣ 28. 譜読みにガッツを入れる方法
- ‣ 29. 余計なことを考え出したら、譜読みに専念する
- ‣ 30. 萎えた時は、受動的な学習へシフト
- ‣ 31. 音楽仲間を作って巻き込んで続けていく
- ‣ 32. 年齢を忘れて音楽に没頭する3つのコツ
- ‣ 33. 年齢を重ねることをネガティブに考えずに音楽を続けるコツ
- ‣ 34. 音楽参考書の翻訳書を挫折せずに読むコツ
- ‣ 35. 1年後の継続には、同じ繰り返しだと思わないことに限る
- ‣ 36. ピアノが大好きなサラリーマン
- ‣ 37. 自分に合った継続方法を見つける①
- ‣ 38. 自分に合った継続方法を見つける②
- ‣ 39. 自分に良い圧をかけて、モチベーション問題を打破する
- ‣ 40. かなり弾ける奏者が辞めていってしまう理由
- ‣ 41. 独学が辛くなってきた場合の対処法
- ‣ 42.「音楽知識」と「勇気」を与えてくれる一冊を見つける
- ► C. 本番と経験に関する心構え
- ‣ 43. 作曲家の自筆譜ファクシミリ版を眺めることは、最高の自己啓発
- ‣ 44. 楽譜をめくることに喜びを感じる
- ‣ 45. ピアノの力が伸びる時期
- ‣ 46. 進歩の原則
- ‣ 47. 音楽学習成果における停滞期の踏ん張り方
- ‣ 48. 弾き込みを辛く感じる気持ちの追いやり方
- ‣ 49. ひとつ終わったら、即座に次へ行く
- ‣ 50. 本番から学べる経験は100回のレッスンより大切
- ‣ 51. テクニックを必要とする環境を作る
- ‣ 52. 本番で良く弾けなかったときの涙目の乾かし方
- ‣ 53. 本番での失敗を、学びに変える心構え
- ‣ 54. 結果を出す、練習における目標設定の方法
- ‣ 55. 思うだけでなく、必ず書き出す
- ‣ 56. 練習内容を簡潔に書き出し、見える化する
- ‣ 57. 基礎練習をやるべきという気持ちと重い腰との折り合いの付け方
- ‣ 58. やりたくない曲のやり通し方
- ‣ 59. ピアノ練習を通して生きていく力をつける
- ‣ 60. 練習とは決断の連続
- ► D. 実践的な学習アプローチ:朝学習に本腰を入れる方法
- ► 終わりに
【ピアノ】モチベーション維持と継続学習のための66のヒント
► はじめに
音楽を学ぶ中でモチベーションが途切れそうになる瞬間があり、「続けられるだろうか」「本当に上達するのだろうか」という不安は、全ての音楽学習者が抱く共通の思いです。
本記事では、モチベーション維持と継続学習のコツをお届けします。
► A. 心理的アプローチ
‣ 1. 面白がる以外の目標をあまり持たずに続ける
「心で弾くピアノ―音楽による自己発見」
著 : セイモア・バーンスタイン 訳 : 佐藤 覚、大津 陽子 / 音楽之友社
という書籍に、以下のような文章があります。
著名な精神科医であるヘレン・ボイゴン博士はかつて私にこう語った。
「どんなものを学習する場合でも、その過程で最も重要なことは、年齢にかかわりなくリラックスして、無邪気な気持ちになることができるかどうかということなのです。」
無邪気な気持ちの子供たちは、いつでも今度は良いことがあると期待している。
できそうだと思い、しばしば本当にそうなるのである。
したがって、われわれが子供たちから学ぶことは、心を閉ざさず無邪気でいれば、自分の内から最大の力を引き出すことができるということである。
(抜粋終わり)
結局、面白がる以外の目標をあまりもたずにひたすら楽しむことが、一番有意義でかつ、上達への近道だと感じています。
見栄や比較やミーハーな気持ちで音楽を雑に扱うのではなく、純粋に音楽そのものを楽しんで、また一歩深く入っていけたような喜びを感じることができると最高です。
筆者は先日、住んでいる地域でやっていた古本市へ立ち寄りました。
もう絶版になってしまっていてネットショッピングでもなかなか手に入らないヨーゼフ・ルーファーの音楽書を発見。
嬉しくてレジへ犬のように走って行ってしまい自分でも驚いたのですが、このような音楽を好きでいられることを改めて幸せに思いました。
・心で弾くピアノ―音楽による自己発見 著 : セイモア・バーンスタイン 訳 : 佐藤 覚、大津 陽子 / 音楽之友社
‣ 2. たとえテクニック的にまだでも、ピアノに対して大きな自信をもつ方法
ピアノをやっていると、難しい作品を上手く弾けることが一番大事なことのように思ってしまいがちです。
小学生が驚くような難曲を驚くようなスピードで弾いている動画などを観たりすると、余計にその気持ちに拍車がかかってしまうのではないでしょうか。
しかし、たとえ今現時点がどんな状態であっても、自分の意欲次第でピアノというものに大きな自信を持てるようになる方法があります。
それは非常にシンプルで、「とりあえず、何かの分野を全曲譜読みする」というやり方。
初級~初中級の方であれば、まずは、J.S.バッハ「2声のインヴェンション」全曲などでもいいですね。
習いに行っている方は、教室でやっている取り組みとは別の作品を使って自主的にやってみましょう。
学習がもっと進んでいる方であれば、曲数や規模を増やしてもいいでしょう。例えば:
・J.S.バッハ「平均律クラヴィーア曲集」全曲
・ベートーヴェン 「初期のピアノソナタ」全曲
・ドビュッシー「前奏曲集」全曲
自分が興味のある分野を一つがっつりとつかんで、全曲譜読みをしてみる。
これをやる時には、必ずしもそれら全てをプロのように上手に弾けることを目指さなくても構いません。
譜読みしておおむね弾けるようにすることで、それまで聴いていただけでは分からなかった要素が山ほど見えてきますし、「ある分野を全曲譜読みした」という事実を手にすることで大きな自信になります。
これに関する筆者自身の取り組みとしては、大学院生の時に以下の4名のピアノ曲全曲を譜読みしたことです:
・シェーンベルク
・ベルク
・ウェーベルン
・武満徹
一人あたりのピアノ曲の数は少ないのですが、4名全員分となるとそれなりの時間が必要になったのを覚えています。
ピアノに関する自信がついたのはもちろん、作曲科だったので、作曲の勉強に関する収穫になったことも大きかったです。
とあるピアニストが「学生の早い時期にショパンのピアノ曲全曲を譜読みした」と発言していたのを耳にして、やってみようと思ったのです。
「ネイガウスのピアノ講義 そして回想の名教授」著 : エレーナ・リヒテル 訳 : 森松 皓子 / 音楽之友社
という書籍にも、以下のような記述があります。
20歳を越えたばかりで次のような作品全てを弾き、全てを暗譜していましたーそれは、ベートーヴェンのソナタ全曲、シューマン、ショパンの作品全曲、ほとんど全てのバッハの作品でした。
それに当時はまだコンサートで決して弾いたことのなかった、名人芸を要求するリストの作品全てをさえ、暗譜していました。
私は、建物をその上に築くための巨大な土台を準備しました。
(抜粋終わり)
もちろんここまで本格的にやる必要はありませんが、自分の意志で何か一つの分野を選んで挑戦してみてください。
「ひとつの分野を網羅した」ということから、難しい作品をバリバリ弾けるようになることとは別の観点で大きな自信を持てるようになります。
◉ ネイガウスのピアノ講義 そして回想の名教授 著 : エレーナ・リヒテル 訳 : 森松 皓子 / 音楽之友社
‣ 3.「演奏者と共に」「作曲者と共に」ということを常に考える
自分で書いたスコアに関して、ピアニストをはじめ演奏家とリハーサルするときに常々感じるのですが、「この楽器でそういう表現が欲しいのであれば、こういうやり方があるよ」などとプラスアルファを教えてくれる奏者は貴重。
そこで言われたことは決して忘れません。
反対に、演奏者が作曲者・編曲者から教わることも多いはずです。
プロアマ問わず、良い音楽仲間に出逢うとこのような学習の機会は訪れます。
そして言われたことをそのままやるだけでなく、「自分でもプラスアルファ、常に何かに挑戦をしていく」という気概がないと、チャレンジ精神がないと、創作も演奏もやる意味がありませんね。
必ずしも難しいことをやらないといけない、ということを言っているのではありません。
筆者自身、音大生の頃は作曲や編曲のテクニックばかりを吸収することに走ってしまっていたのですが、あるタイミングから演奏者のことを考えるようになりました。
それ以来、演奏者の意欲を沸き立てる作品を書くこと、そして「演奏者と共に」ということを常に考えています。どんなにシンプルな作品を書くときであっても。
分野にもよるのかもしれませんが、基本的には演奏者と共に目指していくのが、本当に楽しい音楽のあり方です。
だからこそ、自分自身が相手側の分野にも多少なりとも身を置く必要があるでしょう。
筆者はいわゆる「ピアニスト」ではありませんが、ピアノという楽器とはいつも近い位置にいるようにしています。
また、作曲の指導に行っている音楽学校では、作曲の個人レッスンを受け持っている学生へ向けて「上手に弾けなくてもいいから、演奏を完全には切り離さないように」と伝えています。
この記事を読んでいる方はピアノ弾きがほとんどだと思いますが、是非、ピアノ音楽の作曲や編曲にチャレンジしてください。
とにかく、プロアマは関係ありません。
「演奏者と共に」「作曲者と共に」ということを常に考えながら音楽を続けて、毎日の学習をもっと楽しくしましょう。
‣ 4. 創作や演奏を楽しく感じ始めたタイミングを逃さない
ピアノをやっていてはじめから楽しく感じるかというと、必ずしもそうではありません。ある教則本から楽しく感じ始めるケースがあれば、本番をやるようになってから楽しく感じるケースもあったりと、本当に様々。
例えば筆者の場合は、ブルグミュラー25の練習曲を習っている時にピアノを弾く楽しさを感じ始め、それ以降、毎日離れられなくなりました。
誰にもこのように楽しいと思い始めるポイントがあるはずですが、そのタイミングを逃さないようにしてください。
「今、楽しいかも」などと思い始めたら、ちょっと他の趣味をよそへ追いやってでも音楽へ向かう時間を増やしてみましょう。
このような時に下手に時間を空けてしまったりすると熱が奪われてしまいます。
筆者の周りで音楽を続けている方に話をきくと、ほとんどの方は音楽を楽しく感じ始めたタイミングが存在しているようです。
長年音楽を続けている方はほとんど誰でも、いつでもやる気に満ちあふれていたわけではなくて、音楽へ向かう強い力となる何かしらの経験をしているのですね。
‣ 5. やりたいことへは次の楽曲で挑戦する
ひとつの作品を時間かけて深掘りする学習は重要ですが、さらなる深掘りは、いったん寝かせた後でもいいと思ってください。
つまり、ある程度のところまでいったら「これでいい」ってやって次へ行ってしまうということ。
細かなことを直そうと思えばいくらでも出てきます。
しかし、そこまで学習が進んでいる時は、手を入れたからって必ずしも前進するわけではありませんし、期間を空けて別の楽曲で力をつけてから戻ってくる方が良い方向へ進むことがほとんど。
これは演奏はもちろん、創作でも同様です。
筆者が音大生の頃、作曲のレッスンで:
・「曲の中で、こんなことやあんなことをやってみたい」
・「この曲のこういうところをこう変えたらいいかと思い始めた」
などとグダグダと先生へ言ったところ、「今言ったことを全て、次に書く曲でやりなさい」と言われました。
その曲を作りはじめた頃にいろいろと試行錯誤するのは必要だけれど、ある程度出来上がってきてからは「次へ行く」という視点を持って新たな作品で挑戦するべきだということ。
自分なりの「これでいい」の基準を決めて、頭と心を柔軟に学習してみてください。
‣ 6. なれない自分になろうとしない
変えることができない手の大きさに悩む必要はありません。
また、このような「なれない自分になろうとしない」というのは、「どうしても好きになれない作品と、無理に仲良くなろうとしない」など、他にも面に対しても言えることです。
筆者は以前に湘南エリアに住んでいたことがあり、毎回音楽家をゲストに招いて紹介するという地域番組のラジオパーソナリティを引き受けていました。
公開収録だったのですが、ある時、収録後に観客が次のように話しかけてきました。
このとき、さすがの筆者も頭にきたわけですが、薄々、自分でも分かっていたのです。
結局、生まれ持った雰囲気や性格というものがあるので、無理に合わせようとしたり変えようとしても意味ありません。
自分の持っているものの中で生きるのが一番自然だし、楽しいし、上手くもいくことがわかりました。
‣ 7.「あの頃へ戻りたい」から抜け出さないと先へ進めない
昔の楽しかった時期を思い返すことは、筆者自身、いくらでもあります。
しかし、度が過ぎて「あの頃へ戻りたい」などと本気で発言している方を、ここ数年で数人も見たり聞いたりしてきました。
この状態から抜け出さないと、今やっている音楽学習はあらゆる面で前へ進んでいきません。
大切な想い出を忘れる必要はありませんが、戻りたいと発言するのはやめておきましょう。
筆者が音大生だったとき、下の学年に以下のような方がいました。
音大に入ると全くやりがいが感じられなくて退屈してしまった
音大へ入ってからは当時よりもずっと専門的な学習をしていたことは間違いありませんが、部活動のような時間拘束がなく、あらゆることが自分次第になってしまうので、やりがいが感じられなかったのでしょう。
ピアノ演奏では過去に取り組んだレパートリーも大切にすべきです。
しかし、「あの頃へ戻りたい」などと口に出しながらいつまでも過去の本番の録音を聴いて浸っているのではなく、とにかく、次へ進んでみましょう。
忘れるべきでないのは、「選択肢の数は、自分が戻りたいあの頃よりも今の方が圧倒的に多い」ということ。
様々な経験をして選択肢は確実に増えています。だからこそ、過去ばかりを見ていることなく今を充実させるために行動してみてください。
‣ 8. やりたいと思った作品を簡単に選択肢から外さない
昔の筆者もそうだったのですが、いろいろな方と話していると何だか根気の弱さを感じることがあります。
やりたいと思った作品なのにちょっと難しそうだと分かるとすぐに選択肢から外したり。
筆者の感覚からすると、「目指せばいいのに」です。
今の自分の延長線で頑張れば出来そうなことや安心できそうなことで取り組む内容を考えてしまうと、結局、予想で動ける範囲内から出ることは不可能。
時には損切りも必要ですが、自分が一番安心できるような方法を探してやりたいことをすぐに選択肢から外さないようにする。
そうしないと、実現した知り合いが出てきた時に後悔することになりますし、何よりも自分の毎日が楽しくなく充実しません。
‣ 9. 結局、好きで続けている人が先へ行く
以前に、友人が以下のようなことを話してくれました。
弟は毎週、レッスンへ行くのを嫌がって親を困らせていた。
ある時から「行きなさい。お兄ちゃんは何も言わないで嫌がらずに我慢していくのに…」と言うのが親の口癖になり、数十年経った今も、家族団らんでの話のネタになる。
兄である筆者の友人はその後みるみる上達し、弟さんは親が折れてくれたタイミングで辞めたそうです。
ここまで読んだらもう分かったと思いますが、兄、つまり友人は、親に気を遣ったり我慢してレッスンへ通っていたわけではありません。
ただ単に、口数が少ない子供だっただけで、レッスンを嫌だとすら思っていなかったのです。
「結局、好きで楽しく続けている人が先へ行く」ということ。
「ピアノ技法をさぐる」 著 : アビー・ホワイトサイド 訳 : 佐々木 正嘉 / ムジカノーヴァ
という書籍から、関連した一文を抜粋しておきましょう。
“練習”は、演奏の楽しさ抜きでは決して効果をあげることはできません。
(抜粋おわり)
◉ ピアノ技法をさぐる 著 : アビー・ホワイトサイド 訳 : 佐々木 正嘉 / ムジカノーヴァ
‣ 10. 他人の目を気にせずに音楽を続けるコツ
筆者は、音楽やこのWebメディアの運営を継続していますが、続けることができている理由はシンプルで、ただ、楽しんでやっているだけだからです。
音大生のときの同級生の中に、現在、金融業で活き活きと働いている友人がいます。
彼はすごく音楽の力もあったのですが、以前から金融業界に興味を持っていたとのことで、そのような選択をしました。
その彼が、学生のときに次のようなことを言っていました。
しかし今、金融の世界で本当に ”楽しそうに” 働いています。楽しんでいる彼にとって、もう他人の目なんて関係ありません。本人は、勝手に幸せにやっているので。
また、専門科目をひたすら講義する、とあるYouTuberさんは、もともとつきたかった研究職にはつかなかったそうで、それを発言してから教育のYouTubeをやっていることに関していろいろ言われたそう。
しかし、今とにかく楽しそうなのが伝わってきます。
好きな分野のたくさんの参考書に囲まれて、何歳になっても常に学習して、それを整理してサブスクライバーへ分かりやすくユーモアも交えて伝えている。
本棚を紹介したり同分野の人物とひたすら専門分野について語り合っている動画などを見ていると、楽しんでいる以外はないんだろうとさえ思います。
結局何をやるにしても:
・面白がる以外の目標をあまり持たずにひたすら楽しむ
・そのために、そうできる分野や働き方や遊び方を選ぶ
これが一番だと考えています。
言葉で言うより難しく感じるかもしれませんが、それさえできればもう、他人の目は気にならなくなります。
そして、仕事でも趣味でも本当にやりたいことを続けることができるはずです。
音楽でも何でもいいので、
「とにかく、毎日を楽しくすることに全力をあげて取り組む」
これを第一優先にしてみましょう。
‣ 11. 結局、継続のためには「楽しいからやる」へもっていくに限る
学習の継続のために工夫できることはいくつもありますが、
結局、一番効果があるのは「楽しいからやる」へ持っていくこと。
自分でやりたくてやっている場合は何の問題もありません。
しかし、嫌々やっている場合には何が行われているのかというと、毎日毎日、やりたくないという気持ちとやらねばという気持ちをもたらす何かしらの理由との間に折り合いをつけて無理しているのです。
何かしらの理由というのは例えば:
・誰々に怒られる
・伴奏を押し付けられた
などといった内容。
そのままやり続けると、早かれ遅かれ、絶対に限界がきてしまいます。人間、意思で頑張ろうとしてもよほど強い動機がないと無理。
では、どうすればいいかというと「楽しいからやる」へ持っていくしかないわけです。
もとからピアノというものが自分の感覚にピッタリな人以外は、楽しいと感じるためには何かしらのきっかけが必要ですね。
きっかけは様々なものが考えられますが、筆者の知人でうまくいった例を一つ紹介しましょう。
やり方はとてもシンプル。
「タイプの先生のところへ習いにいく」という方法。
本Webメディアでは主に独学の学習者を対象にしていますが、当然、独学の方がスポット(単発)レッスンを求めてもいいわけです。
タイプの先生のところへ習いにいったら:
・いいところを見せたいとか
・先生に会うこと自体が楽しみとか
様々な理由でピアノへ向かいはじめ、結局、ピアノを弾くこと自体が楽しくなったそうです。
「楽しいからやる」へ持っていく方法は:
・友人と一緒に腰を上げる
・取り組む作品を好きな楽曲へ変える
など他にもあります。自分なりに試行錯誤してみてください。
それでも、楽しく感じられないようであれば、無理してまでピアノを弾かなくてもいいのです。
‣ 12. 何となくでもうなずける解説を見つける
ピアノをはじめ各種音楽の学習では、書籍教材や動画教材なども利用するかと思いますが、その際に良い教材を選ぶコツがあります。
何となくでもうなずける解説をしてくれているものを見つけてください。
「うなずける」ということは、少なからず今の自分に合っていることを意味します。
なぜこんなことを言っているのかというと:
・自分にとって楽過ぎる、あるいは難し過ぎるものを
・5ページ読んではやめて
・またやる気になって5ページ読んではやめて
の繰り返しばかりで大した学習ができていなかった時期を、筆者自身が経験しているからです。
別の例を挙げましょう。
筆者が高校生のときにふと手に取った書籍に、「高校の授業は全て無視して、その時間を本書で紹介している参考書での内職に充てなさい」という極端なものがありました。
それは、できる学生とあまりできない学生のどちらにも向けた本でした。
要するに、今現在の自分の学習レベルに対して授業のレベルが高過ぎても低過ぎても効果がなかったり続かなくなってしまうので、内職という方法を使って学習方法を工夫する必要がある、ということを言っていたのです。
ピアノへ話を戻しましょう。
まったくのピアノ入門者に「打鍵速度と打鍵角度を…」などと言ってもおそらく分かりません。
反対に、上級者に「鍵盤シールを貼る位置は…」などと言っても簡単過ぎます。
それなのに、なぜか書籍などの教材になると、こういう自分とレベルが離れているようなものに対して、せっかく買ったのだからと中断を繰り返しながらもとらわれ続けてしまうケースが散見される。
これをやめてふっきり、うなずける解説をしてくれるものを見つけると一気に学習が加速します。
‣ 13. モーツァルトも、本当の意味の完璧な天才では無かった
中々上達していかないことに落ち込んでいる方には、「モーツァルトも、本当の意味の完璧な人間ではなかった」ということを腑に落として欲しいと思います。
モーツァルトの天才ぶりは誰もが知るところで、作品から伝わるもの意外にも数々の人間離れしたエピソードが言い伝えられていますね。
ところが、「Deutsche Tänze KV 509」というオーケストラ作品の「手書き譜」を見ると目を疑います。
1984年の映画「アマデウス」などでも、呼吸をするかのようにスラスラと楽譜を書いていく様子が描かれていましたが、このオーケストラ作品では珍しく、ペンでグチャグチャに消しまくった跡が見られるのです。
前項目で取り上げたアシュケナージの事故もそうですが、天才と言われている音楽家にだって、うまくいかないことはあります。
つまづくようなことがあるのは当然だと思ってください。
‣ 14. 天才の神話を超えて、努力の価値を知る
タルコフスキーによる名作映画「ストーカー」(1979年)。
登場人物の一人である作家が、「入ると願いが叶う部屋」についてコメントを出すシーンに、以下のようなセリフがあります。
私が部屋に入った結果、天才作家になっても何の意味もない。
ー中略ー
自分が天才だとわかったら何のために書くんです?必要ありません。
(抜粋終わり)
作曲においてもピアノ演奏においても、天才である必要はありません。筆者も天才ではありません。
どんな作品でもすぐに完璧に音楽的に弾ける天才になったら、我々が知り得ない世界を見れることになるのでしょう。しかし、音楽で達成感を味わう喜びはないはずです。
‣ 15. 大きな音に憧れを持つことは悪いことではない
「大きな音が出たり指が速く動けば良い演奏になるわけではない」という、まるで自分の弱点をかばうような意見をよく目にしますが、その度、「どうして?」と疑問に思ってしまいます。
良い(とされる)演奏を求めていき、そのうえで指が動いたり大きな音が出せるのであればそれに越したことはないわけです。
表現したいことを音にするためにはテクニックが必要だから。
「大きな音に憧れを持つことは決して悪いことではない」と理解してください。
筆者自身、まだ専門的に学び始める前に、その当時習っていた先生が目の前で弾いてくれたチャイコフスキー「ピアノ協奏曲 第1番 第1楽章」の迫力を忘れられません。
目の前でその音を聴いて、「迫力のある大きな音」というのも憧れの一つとなり、もっとピアノが上達したいと本気で思ったものです。
‣ 16. 体操界レジェンドの名言から学ぶ
塚原光男さんをご存知ですか?
1972年に「月面宙返り(ムーンサルト)」という難しい技を生み出した、体操界のレジェンドです。
塚原さんが以下のような名言をのこしています。
ピアノ上達のカギもここにあります。
言い換えれば、この考え方がない人は:
・コンクールからの刺激
・周りの人物からの刺激
これらが無くなった途端に、モチベーションが続かなくなってしまう。
画期的なモノを発明してきた人物も、塚原さんと同じような考え方をしているケースが多いでしょう。
・楽しくて仕方がない
・知りたくて仕方がない
・できるようになることを想像するとワクワクする
こんなことばかり考えて、いつもウズウズしていたのだと思います。
決して目標の焦点を間違えないように注意し、日々ピアノへ向かっていきましょう。
そうすれば、結果的に ”より遠く” へ行けることは先人が証明しています。
‣ 17. モチベーションを保つことに逃げない
ピアノ練習は日々の積み重ねなので、どうやって練習のモチベーションを保つかどうかは重要です。
マンネリ化してしまうことを変更してモチベーションを維持するのはおすすめできますが、「モチベーションを保つことに逃げること」には気をつけないといけません。
言い換えると、
「何とかカタチにしないとモチベーションが保てないためにモデルに走ってしまい、その中でやってしまう」
具体的には:
・新しい楽曲に取り掛かる時に、自分で解釈を考えるとなかなか仕上がらなくてモチベーションが保てない
・そこで、CDで聴いた感じの雰囲気だけを真似してしまう
・その結果、自分で考えることをあまりしていない
・奏法の見直しの時間をゆっくりとると、その間、楽曲が進まなくてモチベーションが保てない
・そこで、奏法の見直しをせずに楽曲だけを進めたがる
などといった内容です。
‣ 18. 自分が深く掘り下げたい分野を見つけよう
上級を目指す方は、音楽以外の分野でも何か一つ興味のあるものを追求してみましょう。
上級者になってくると、音楽ができるのは当たり前とも言えます。
そんな時に音楽以外の分野で何か興味のあるものを追求していると、それがその人のアーティストとしてのカラーになってくれます。
► B. 学習継続のテクニック
‣ 19. ベテランピアニストが語る、継続の秘訣
以前に、とある伴奏ピアニストと通話していて、軽率な質問だと分かっていながらも、「いつもそこまで音楽に真剣なのは、何が突き動かすのでしょうか」などときいてしまいました。
返答はシンプルで、「40代のときに目の病で失明しそうになり、70代になった今でもピアノが弾けていることにこの上ない幸せを感じているから」というものでした。
ピアニストの中でも伴奏ピアニストは、基本的に、共演者がいて頼まれた仕事をこなすピアニスト。
楽譜を自由に変えることはできないので、当然、間違いなく譜読みをしなくてはいけないうえ、ステージ上でも楽譜を見て演奏します。
一晩の歌曲のリサイタルで15曲程度はあるので、一度に何人もの伴奏を引き受けていれば、同時に持っている曲数は膨大な数になります。
目が見えなくなって楽譜が見えなくなるかもしれないと考え、ずいぶんと不安な日々を過ごしたそうですが、その経験から、音楽を続けるためであれば伴奏を続けるためであれば何でもやろうと思ったそうです。
目が見えなくなるのは伴奏ピアニストに限らず誰にとっても怖いものですが、上記の話はその方の経験談が含まれているものだったので、納得させられてしまいました。
継続の秘訣を、身の回りの学習に熱心な方にきいてみてください。心の広い方であれば快く教えてくれるはずです。そこから刺激を受けるのは間違いありません。
‣ 20. 手の大きさでマウントをとられたときに落胆しないヒント
手が大きくないことをコンプレックスに感じている学習者は非常に多いと感じます。筆者も、その一人でした。
他人から指摘されたり、手の大きさでマウントをとられたりすると、余計に悩んでしまいますね。
実際に、そういうことを平気でやってくる人は本当に多いですし。
落ち込まないヒントがあります。
とにかく、ピアノ曲の圧倒的な数の多さを今一度認識して、選曲の自由があるということを心の底から腑に落とすということ。
特定の作品に「憧れ」をもつのも無しとは言いません。しかし、どうしても自分の体格に合わないような楽曲に対しては「憧れ」よりも「諦め」を持ってください。
そして、自分の体格に合った山ほどある楽曲の中から、最高の作品を見つけ出して最高の演奏をすればいいのです。
自分が生まれもっているものの中でやっていくのが一番自然だし、楽しいし、上手くもいきます。こういったやり方は、四畳半へ近付く行為ではありません。
その中で最大限の挑戦をすれば、一生かかっても終わらないくらい多くの経験ができます。
加えて、多く存在するクラシックピアノ作品でレパートリーを作るだけでなく、作曲やピアノアレンジに挑戦してみたい方は積極的に学んでみて欲しいと思います。
自分の体格に合った作品を自らへの「当て書き(オーダーメイド)」で作り出すことができるようになり、なおさら、手の大きさマウンティングがどうでも良くなります。
‣ 21. とにかく音楽学習を続けるコツ
読書でも何でも、とにかく音楽学習を続けるコツは「使うものを出したままにすること」に限ると思い、実践してきました。結果、少なくともズボラな筆者の性格には合っていました。
あらゆることにおいて、開始するまでのハードルを少しでも下げておかないと、数秒の手間がやる気を無くす原因になってしまいます。
どうして「出しっぱなし」に目覚めたのかというと、理由があります。
知り合いの机が滅茶苦茶汚かったんですよ。
それを見たときに、「良く使う音楽書籍は出しっぱなしにしておけばすぐ開けるかも」と思い、マネをしてみたわけです。
筆者の場合、持ち物の総数はかなり少ないので、放置してもタワーにはなりません。
きれいにしまって出すのが面倒で学習しないくらいであれば、それよりはいいのではと考えています。
さらなるポイントは、自分の居場所の定位置から手を伸ばせば届くくらい邪魔になる場所へ出したままにすること。
例えば、ピアノ音楽を作曲をしていて、何かの専門書を参考にしたいと思った時に:
・あの本棚の
・あの辺りにある
・あの本の
・確かあの辺りにあれが書いてあったような…
というのはもう遅くて、立ち上がろうとしたときには創作の集中が切れてしまっています。
そして面倒になり、その書籍を開くことはありません。だから、良く使う書籍は目の前に出したままにしておく。
このやり方がうまくいくかどうかは、性格にもよるかもしれません。
筆者のように面倒くさがりの傾向が強い方は一度お試しください。
今まで続かなかったことが続くようになるはずです。
‣ 22. 始められない練習の始め方
解決法、結論から言います。
練習の中身に関係ない部分はあらゆる工程を省きまくってください。
【毎日使う楽譜は出したままにする】
毎日必ず使用する楽譜は出したままにしておき、丁寧に楽譜棚へしまわないでください。
大人が片付けをしないと子供の教育上良くないと思う方は、ピアノの上にまっすぐ置けばいいだけのことです。
逆に、めったに使わない楽譜は、今すぐにピアノの上から追放しておいてください。
全ては、ムダなく素早く使いたい楽譜へたどり着き、練習開始までのハードルを下げるためです。
【メトロノームもICレコーダーも出したままにする】
メトロノームやICレコーダーのような、練習の際に最低限必要なものはピアノの上へ出したままにしてください。
また、楽譜に書き込みをする方は、シャーペンなども「ピアノ練習用」を用意してしまい、置いたままにしましょう。
ちなみに、グランドピアノの場合は、あまりにも細い胴体のシャーペンだとフタの隙間からピアノの中へ落ちてしまう可能性が出てきます。
別の意味でやる気が喪失しますので、そういったタイプのものは避けるべきです。
【蓋を閉めるのであれば、鍵盤カバーはかけない】
練習後、日常的に鍵盤部分のフタを閉めるのであれば、鍵盤カバーは不要です。
ちょっとした手間でもひとつひとつ減らしてみると、それだけ腰が軽くなります。
一方、アップライトピアノの場合は譜面台が倒れてきて黒鍵を傷つける可能性もゼロではありません。
そういった理由があって鍵盤カバーをかけたいのであれば、表裏を気にせずバッと被せてください。
何と言っても、見た目を気にしないことがポイント。
見た目の良さばかりに一生懸命になって、ちょっとしたことでもやることを増やしまくると、腰が重くなります。
筆者は面倒くさがりで無理だったので:
・そもそも整頓しないといけないものは捨てる
・捨てられないものは、見た目を気にし過ぎず出したままにする
というやり方で重い腰を上げています。
他にも、電子ピアノをお使いの方は:
・節約のためだからといって、コードを抜かない
・できる限り、ピアノを置く部屋はすぐ行ける部屋にしておく
こういったことも考慮に入れてみましょう。
‣ 23. PCを使った音楽学習の継続ポイントも同様
音楽学習の一部をPCを使ってやっている方もいるはずです。
筆者もPCによる学習を取り入れているのですが、色々と試してみた結果、継続のために一番効果的だったのは、あらゆるものをデスクトップへ出したままにすることでした。
とにかく、「今やろう」と思ったときに即座に開始できないと、面倒臭くなってやらなくなります。出したい教材へ即座にアクセスできるようにしておかなければいけません。
例えば:
・YouTube動画のURLショートカットをデスクトップへ置いたままにする
・Kindleアプリをデスクトップへ置いたままにする
・楽譜浄書ソフトのファイルをデスクトップへ置いたままにする
デスクトップという、いつでもアクセスできる目の前にある一面をフル活用して、学習開始までのハードルをガン下げしましょう。
‣ 24. なぜ、出したままにする学習は挫折しにくいのか
出したままにする学習が挫折しにくい理由はシンプルで、その方法を今後ずっとやり続けられるからです。
極端な例を挙げます。
筆者の知り合いに、一気に痩せるテクニックで急激に痩せた方がいるのですが、一気に戻っていました。
理由としてはおそらく、その方法が極端過ぎてやり続けられなかったからです。
「一気に痩せたら、適度なものに切り替える」などといった都合のよいことができれば戻らなかったのかもしれませんが…。
音楽学習でも同様で、とにかく、「そのやり方を今後ずっとやり続けられるか」という観点で方法を選択していかないと、絶対にどこかで挫折してしまいます。
‣ 25. 誰かに見られている意識が生む学習モチベーション
出したままにすることの重要性と同時に、もう一つ重要な継続方法は、常に、誰かに見られていると思うことです。
練習や学習の記録として音楽ブログを始めて本当に見られるのもいいですし、見られていると思うだけでもOK。
見られていると思うだけの場合に有効なのは、練習のはじめからICレコーダーを回してしまうこと。
そうすると、誰かに見張られているような適度な緊張感をもって練習を開始することができます。
不思議なのですが、少し練習しているとICレコーダーを回していること自体を忘れるのです。
その録音を聴き返せば、素の状態でどんな状態になっているのかを知ることができます。
もちろん、重い腰が上がりにくいのは取りかかりだけなので、途中から忘れても特に問題はありません。
ブログに挑戦してみたい方は、以下の記事を参考にしてください。
‣ 26. 心理的ハードルを下げる練習の整理術
多くの楽曲には、リピートマークを使ったものや、使わずに横続きで全部書かれているものも含め、「繰り返し」がたくさんあります。
それらを整理し把握しておくと、練習すべき部分が思ったよりも限られていることに気が付き、心理的ハードルを下げることができます。
例えば、ショパンの最難関エチュードとして知られる「エチュード Op.10-2」。
この楽曲では同じ繰り返しが多く、はじめの4小節と共通している部分が他に12小節もあります。
全曲が49小節なので、単純計算すると「49 ÷(4+12)」で、おおよそ1/3もの部分をはじめの4小節で学んだことに匹敵するのです。
ショパンの他の作品でも、ショパン「ワルツ 第3番 イ短調 Op.34-2」をはじめ、リピートマークを使わずに繰り返しが横続きで書かれている作品は多くあります。
とうぜん、繰り返しをそれぞれどう表現するかはよく考慮するべきで、譜面上がまったく同じ繰り返し、もしくは、ほとんど同じ繰り返しだからといって、そっくりそのままコピーしたように演奏すべきではありません。
しかし、少なくとも譜読みの初期段階の心理ハードルを下げることは、継続の面で意味のあることです。
‣ 27. タスク量を減らして、学習への敷居を下げる
また、音楽書籍を使った学習でも、やらないといけないと思い込んでしまう分量を減らすことができます。
例えば、「楽式論 石桁真礼生 著(音楽之友社)」という書籍では:
・第1編 楽節
・第2編 基礎楽式
・第3編 応用楽式
と大きく3編に分かれていますが、このうちの第1編が最重要。
しかし、一番読み進めやすいのは、実は第3編なのです。重要だけれども地味な第1編を学習する気になれない。実際にそのように話す方は多くいます。
では、どうするかというと、いったん、第2編と第3編は無視すると決めてしまえばOK。
後で学習しなくてはいけないと思わず、「第1編さえ学習できれば、とりあえずこの書籍からの収穫アリ」などと思って、気楽にやり始めるのです。
そうすることで、目の前にある学習すべき部分が思ったよりも限られていることに気が付いて、心理的ハードルを下げることができます。
‣ 28. 譜読みにガッツを入れる方法
譜読みという過程は新しい作品をひも解いていく楽しみがあるものですが、場合によってはやる気になれないケースもあるのではないでしょうか。
おおむね弾けるようになってからはスラスラと通して弾ける楽しさもある一方、譜読みの過程にそれはありません。
譜読みでは、ちょっとした工夫次第でガッツを入れることができます。
やり方はいたって簡単。
「とりあえず一通り読んだ」という事実を作ってください。
頭からしっかりと弾けるようになってから順に進んでいこうとすると気持ちが保たれにくいため、暫定の運指を決めるだけでもいいので、一度最後までざっと読んでしまうということ。
以前の筆者は、音楽的なことのできる限りの全てを譜読みの段階から丁寧に見ていくのが最善だと思っていました。今でも、原則はそうするべきだと思っています。
しかし、そのやり方では気持ちが保たれない方が多くいるのも分かってきました。
そこで、「ガイドライン(方向性)」のみを一通り見てしまって、それから詳細を見ていくやり方も選択肢の一つだと感じるようになりました。
今では筆者自身でも取り入れることがある方法です。
このやり方を使うと、「一通り全部目を通した」という事実ができるので、ちょっと安心するのです。
「人間は終わりの見えないことはできない」とよく言いますが、このやり方では一度終わりまでを見ることになります。
そうすると、「まだ未知の読んでないところがたくさんあるのに、こんな序盤で時間を使っていられない」という気持ちを吹っ切ることができます。
いったん詳細はぶん投げておいて、運指を決めたり構成に線入れをする程度でいいのでガイドラインだけを見ていく。
それが終わったら、腰を据えてはじめから丁寧に譜読みしていく。
このやり方で終わりを見えるようにして、譜読みにガッツを入れてください。
‣ 29. 余計なことを考え出したら、譜読みに専念する
あらゆる分野で言われていることですが、我々人間は暇になったり少し時間ができたりすると余計なネガティブなことを考え出します:
・全然上達していかないな…
・あの人はすごいけど、自分は…
・こんなことやっていて意味があるのだろうか…
などといったように。
2020年に自宅待機を強いられた際、多くの方が自分の趣味について見直したり仕事のキャリアについて必要以上に悩んだりしたはずです。
必ずしも悪いことばかりではなく、自分を見つめ直す良い機会になりましたね。
しかし、これがいつもいつもでは人間は前へ進んでいけません。
おすすめは、「余計なことを考え出しそうな時ほど、譜読みの時間に充てる」というやり方。
すでにおおむね弾けるようになっている状態に対してさらに磨きをかけていく「弾き込み」は、言ってみれば「反復状態」なので余計なことを考えてしまいがち。
とりあえず、読んだ分だけ確実に前へ進んでいく譜読みの方が、こういった時期の練習には適しています。
時間はある程度あったほうがいいのですが、度が超えると人間を苦しめます。筆者は、暇なほど辛いことはないと思っています。
ちょっとした時間を味方につけて、ガンガン譜読みを進めてしまいましょう。
‣ 30. 萎えた時は、受動的な学習へシフト
前項目で、「余計なことを考え出しそうな時ほど、譜読みの時間に充てるべき」と書きました。
しかし、何かしらの理由で萎えている場合はそれすら出来なかったりするはず。
そんな時は、マスタークラスなどのレッスン動画を流し観してください。
有料のものはもちろん、質の良い無料のものもかなりたくさん公開されています。
ピアノへ向かったり音楽書籍を読んだりするのは能動的な時間なので、動画を観ている受動的な時間の過ごし方よりもハードルが高い。だからこそ、気をつけないと丸一日を動画でつぶしてしまうわけですが。
しかし、考えてみてください。
同じことを読書でやろうとしても無理ですね。能動的な行為なので単純に疲れるからです。
動画視聴のような受動的な内容の方が負荷が軽いのは確か。
やらないよりいいですし、こういった時間を経て再びピアノへ向かったり音楽書籍へ向かったりする気持ちになるのは、筆者自身、経験しています。
この時には、「受動的な学習をなるべく能動的に吸収しよう」などと考えなくてOKです。とにかく、音楽のそばにいるだけで十分。
本来、プロアマ問わず:
・音楽でどこを目指していて
・なぜ目指していて
・どうやってそれを実現していこうか
という3つのことが明確になっていれば、やる気のない状態ってあり得ないのですが、これが、なかなか難しい。
今は、そういったことを明確にしていく過程でしょうから、本記事で書いたようなちょっとしたコツも使いながら継続していけるといいでしょう。
‣ 31. 音楽仲間を作って巻き込んで続けていく
筆者が思う、楽しく気持ちよく音楽を続けるコツは、決して、ひとりで気楽に好きなようにやることではなく、仲間を作って巻き込んで続けていくことです。
人と関わることで確かに面倒ごとも起きます。
しかし結局、一人プレイと言われるピアノ演奏でも作曲でも、人と関わらないと充実した音楽はできないというのが何十年も続けてきて分かりました。
一人では色々な意味で内へ向いた音楽しかできません。
仲間を増やす方法は、とにかく、”自分から” 声をかけることです。
イヴェントなどで気になった人に、思い切って声をかけてみましょう。
必ずしも知り合ったみんなと深く関わろうと思わなくても、会ったときに気持ちよく挨拶を交わすことを続けているだけで親しく関わる人達が増えていきます。
よく、「中途半端な知り合いが増えると面倒だから人と関わりたくない」というのを耳にしますが、それではいい人と知り合えません。
将来「音楽を続けていて良かった」と思う時に、自分の上達だけでなく周りの音楽仲間も思い浮かぶことを考えるとそれだけでワクワクしてくるはずです。
‣ 32. 年齢を忘れて音楽に没頭する3つのコツ
・「この年齢から始めても…」
・「数十年ぶりに再開したけど、年齢的に上達するのかどうか…」
などという、年齢を理由にしたピアノを始めたり続けたりすることに対する不安は根強いようです。
筆者も、あれよあれよという間に年齢が上がってきていますが、筆者なりに数値なんて忘れて音楽に没頭するコツを踏まえているので、3つ紹介します:
・まず、生活に余裕をもつ
・積極的に幅広い年齢の音楽仲間をつくる
・音楽仲間と一緒にみんなで歳をとっていく幸せを感じる
【まず、生活に余裕をもつ】
まず前提として、年齢に関わらず、生活に余裕を持ってください。
余裕があることで、音楽に関する何か新しいことを始める時に思い切って踏み込めるようになります。
また、余裕さえあれば、すでに継続していることになかなか結果が伴わなくても焦らず構えていることができます。
【積極的に幅広い年齢の音楽仲間をつくる】
付き合っている音楽仲間が同年代ばかりになっていませんか。
自分から積極的に話しかけに行って、できる限り幅広い年齢の音楽仲間を作ってください。
筆者の経験からすると、幅広い年齢の人物と付き合った方がむしろ、自分の年齢を考えなくなります。少なくとも、悪くとらえることがなくなります。
おそらく、それぞれの年齢に応じた楽しみや幸せが共有されてきて、どの年代もいいものだと感じるようになるからでしょう。
音楽という共通の取り組みを通じて仲良くなると、年齢が結構離れていても問題なく付き合えることに気が付きます。
ある程度、お互いの性格の相性はありますが、音楽が好きという時点で考え方に共通点があるからでしょう。
結局、自分の年齢も相手の年齢も大した問題ではないのです。
【音楽仲間と一緒にみんなで歳をとっていく幸せを感じる】
「幽☆遊☆白書」という、アニメ化もされている名作漫画をご存知でしょうか?
その登場人物の男性で、老いを恐れて永遠の若さと力を手に入れるために妖怪へ転生した人物がいます。
転生する前に、仲間の一人の女性が以下のような言葉をかけます。
結局、その言葉は届かず、男性は妖怪に転生してしまいました。
先ほど、幅広い世代の音楽仲間を作りましょうと書きましたが、
良い仲間を作って、みんなで一緒に幸せに歳をとっていけばいいのです。
そう考えたら、歳をとるのもたいして怖いものではなくなりますし、むしろ、歳をとるほど音楽生活が楽しくなっていくでしょう。
年齢を理由にしてやりたい音楽にブレーキをかけることも無意味だと気づける。
実際、筆者も、長年音楽を続けてきた中で一番年齢が上がった今が、一番楽しい時間を過ごしています。
‣ 33. 年齢を重ねることをネガティブに考えずに音楽を続けるコツ
前項目では、筆者なりの年齢の数値を忘れて音楽に没頭するコツを3点紹介しました:
・まず、生活に余裕をもつ
・積極的に幅広い年齢の音楽仲間をつくる
・音楽仲間と一緒にみんなで歳をとっていく幸せを感じる
本項目では、もう少し実技の中身の話をしましょう。
この視点から見た「年齢を重ねることをネガティブに考えずに音楽を続けるコツ」というのは、「期間の長さに関わらず、今まで丁寧に学習を進めてきたのであれば、音楽的には今が一番充実している」というのを腑に落とすことです。
仮に、若い頃のようにバリバリ弾けなくても、音楽の中身に関しては若い頃に分からなかったことが分かる、という状態のこと。
この状態へもっていくつもりで学習しながら年齢を重ねていくと、毎日がもっと楽しくなります。
少し極端な例を出しますが、マスタークラスなどで教えている著名な音楽家も、今までたくさんの経験を積んできて音楽を見抜く力が圧倒的に磨かれているからこそ、どんな作品でも的確に指導できるわけです。
中には、現役の演奏活動を退いている方もいるので、その場合は、ただ単にバリバリ弾くという意味だけで言えば、受講生の方が達者のこともあるでしょう。
しかし、文章やひとつひとつの言葉というのはその人物が今まで積んできたものも一緒に持ってくるので、経験を積んで年齢を重ねてきた人物の指導というのは、内容の充実度はもちろん、それ自体に重要な意味があるのです。
趣味で演奏している場合でも同様。
若い頃に分からなかったことが分かる、という状態にもっていくつもりで学習しながらピアノ音楽の世界をひも解いていく。
そうすることで、仮に年齢を重ねて技術的にできないことが出てきた時にも、気持ちをダウンさせずに音楽へ向かうことができるでしょう。
‣ 34. 音楽参考書の翻訳書を挫折せずに読むコツ
ピアノ関連のものをはじめ、音楽参考書をあさり続けると必ず翻訳書へたどりつきます。
例えばピアノ分野では、ネイガウスやガートの書籍など評価の高いものがいくつかありますが、いずれも日本語訳されて出版されているものですね。
翻訳された専門書籍でいつも頭を悩まされるのは、内容のつかみにくさ。
翻訳者が最善を尽くしてくれていても、中々理解に苦しまされることがあります。
こういった翻訳書を挫折せずに読むコツは、とにかく、目の前の言葉を単体で理解しようとしないこと。
音楽という分野を言葉にしているだけでも分かりにくいのは当然なのに、それをさらに翻訳しているわけです。一つの言葉だけに注目してしまうと意味不明なことも少なくありません。
もう少し全体を見て著者の言いたいことを考えるようにすると、少し前の部分の意味が理解できることもあります。
完璧主義が本当に足を引っ張るので、少しくらい分からなくてもとりあえず読み進めてください。
‣ 35. 1年後の継続には、同じ繰り返しだと思わないことに限る
一度入った職場を短期間で離脱する理由のうち、
「その職場にいても、これからずっと同じ繰り返しでただ年齢を重ねていってしまうと思い暗くなり、転職を考えた」
というものは随分と根強いようです。
これは、楽器練習や音楽学習の継続においても考えるべきところ。
これからずっと全く同じ繰り返しをしていくのかと思うと絶対に気が重くなり、近いうちに辞めてしまいます。
学習は音楽を続けている限りずっと続いていくものですが、同じ繰り返しにしなければいいのです。
やり方自体を変えるのもOKですが、むしろ、「常に自分で何かを見つけられるようになる」という部分がより大事。
例えば:
・同じ作品を繰り返して弾き込む期間であっても、その楽曲から毎日一つ何か小さな発見をするつもりでやる
・1日1曲でいいので、新しい作品を聴くか、初見演奏して知っている楽曲を増やす
このようにして、毎日を発見の連続にするようにすれば、同じ繰り返しの毎日になる可能性はあり得ません。
日々、刺激や発見があり、日々、知的好奇心が満たされるので、1年後も音楽を続けていることができるでしょう。
‣ 36. ピアノが大好きなサラリーマン
今から20年近く前のことです。
現在ほどブログを書く方は多くなかった2000年代のはじめ頃、とあるサラリーマンがピアノの練習日記をブログにしていました。
そのブログでは:
・f の箇所は赤く塗り
・p の箇所は青く塗ると
・ドビュッシーの月の光は全体的に青い楽譜が出来上がります
などと、楽しそうに自身の練習の工夫と成果を報告されていました。
ショパン「バラード第4番」に挑戦する記事では、難易度的にまったく手が届かない楽曲に対して:
・楽譜を拡大コピーする(私用のためだけに)
・色塗り
・もう一方の手で取れるところは取る運指の工夫
など、本当にさまざまな練習アイディアを考えて難曲に挑戦する様子を発信されていました。
ピアノが好きで好きで仕方ないのが伝わってくるブログでした。
このブログの思い出と共にお伝えしたいことは、「今現在がどんな状態であっても、ピアノというものを諦めないで欲しい」ということです。
今は演奏の力や様々なことがまだでもいいのです。
紹介したブログの男性のように本当にピアノが好きであれば、音楽をずっと続けていけます。
「ピアノの練習日記」をつけるのもいいですね。
ブログに挑戦してみたい方は、以下の記事を参考にしてください。
‣ 37. 自分に合った継続方法を見つける①
伸びている人にはある共通点があることに気が付きました。
それは、「自分に合った継続方法を見つけた」ということです。
このWebメディアでは練習のヒントも紹介していますが、当然ながら、そういった攻略法やノウハウはあくまで学習サポートに過ぎません。
それらを活かして練習を継続していき、はじめて成果が出るわけです。
したがって、どうやって継続していくかが大切になってきます。
適切な継続方法というのは人によりけり。
筆者の場合は、良い意味でもそうでない意味でも真面目な節があるようなので、体系的な積み上げ式の学習をして環境や教材も絞りこんだ方がやる気が出て継続できます。
しかし、これは筆者の場合のこと。このやり方では窮屈に感じてしまい、かえって継続できない方も少なくないはずです。
だからこそ、自分に合った継続方法を見つけるためにいろいろなやり方を試していただきたいのです。
よく、「どうすればいいか分かりません」と決まり文句のように口にする方がいますが、分からないのはやらないからです。
やっていないことなんて、筆者にだって分かりません。
「失敗を恐れずに」と言いますか、失敗を面倒臭がらずに、仕入れた継続方法や学習方法などをやってみる。
上手くいかなかったときには反省して改善する。これしかありません。
トライアンドエラーを繰り返して、自分に合った継続方法を見つけてください。
‣ 38. 自分に合った継続方法を見つける②
ミニマリストの方の発信が目に入ってきたのですが、その方の発信に書いてあったのは、以下のようなミニマリストになるまでの長い道のりについてでした:
・必要ではないと思った物を手放ところから始まり
・やっぱり必要になった物だけを買い直す
・その中でも一定期間使わなくなったものを再度手放す
この繰り返しだったそうです。
ここだけを見ると無意味な浪費のように感じてしまいそうですが、
その過程の中で:
・自分にとって何が本当に必要なのか
・自分が大切にしていきたいものは何なのか
ということに向き合える大事な時間になり、その繰り返しがあったので、理想の状態になるまでにものすごく長い時間がかかったのだそうです。
「物を手放すだけなら1日」という考えではなくて、自分と向き合う時間が大事だったわけです。
筆者は、この発信を目にした時、ピアノ練習で自分にあった学習方法を見つけることと似ていると思いました。
試行錯誤しながら長い時間をかけて自分の練習スタイルを見つけていくことが、一番自身のためになります。
‣ 39. 自分に良い圧をかけて、モチベーション問題を打破する
「モチベーションが保てなくて練習が続かない」という大人の独学の方は多いようです。
独学だからこその難しさがあることは否めません。
しかし、考えてみて下さい。
あまりにもお腹が空いたら、”食べるな” って言われても食べますよね。
換気中に窓からヘビが入ってきたら、昼寝なんてやめて大騒ぎしますよね。
つまり、自分にとって極めて重大なことに直面すれば、やる気やモチベーションなんて関係ないのです。
そこで有効なのは、やはり「本番の予定を入れてしまう」というやり方です。
本番は刻々と近づいてきます。自分に「良いプレッシャー」をかけましょう。
独学の方でも参加できる本番はたくさんあります。例えば:
・ピティナ・ステップに応募する
・外部参加者を募集している教室発表会に応募する
・知人の本番に混ぜてもらう
・アマチュアピアノコンクールに応募する
・ピアノサークルの弾きあい会に参加する
・ストリートピアノに登場する
・調律師が来るたびに、一曲聴いてもらう
近めの本番を決めて期限を作ってしまう。そうすれば、「モチベーションが…」などと言っている場合ではなくなります。
重要なのは、「一度決めたことは最後までやる」という最低限の責任感を持つこと。
時々散見されますが、「やっぱり大変そうだからキャンセルしよう」などというのは無責任ですし、周りに迷惑です。
最後までやり遂げて初めて達成感と上達を感じられることでしょう。
‣ 40. かなり弾ける奏者が辞めていってしまう理由
学習段階それぞれにおいて、テクニックの悩みはつきもの。
それに、その悩みというのは無くならない。
筆者自身も、例えば「10年前」にもっていたテクニックに関する悩みがあります。
その当時は、「テクニック面が改善されれば、もう少し楽になるかも」と思っていましたが、一向に楽にならないんです。
もちろん、好きな音楽におけることなので苦痛ではありません。
しかし、当時の悩みはとっくに解決しているのに、テクニック面での「新しい悩み」が常に出てくる。
その時々のレベルに応じて自分に必要なものがあらわになるので終わりはないということです。
「テクニックはいくらつけても足りないと感じる」というのは事実。
テクニック面をサポートしてくれる人物や書籍などはいくらでも存在するので、日々のピアノ学習の中ではテクニックを磨くことと同時に、「見栄、比較以外の面で音楽を続けている理由をはっきりさせておくこと」を必ず修めるべきだと考えています。
専門かどうかは関係なく、真剣に音楽を続けている全ての方が意識するべき。
これがあるかないかで、困難なことへ向かい合ったときに続けていけるかどうかが変わってくるのです。
例えば、音楽大学での例を出しましょう。
音大を出てから音楽を続けているピアノ奏者には、大きく2パターンいます:
① 見栄、比較以外の面で音楽を続けている理由がはっきりしている人物
② 何かしらの要因であまりにも知名度が上がって、依頼が絶えない人物
②は特殊な例なので、話題にしたいのは①の方です。
音大の在学中、やたらコンクールに夢中になる人物がいます。悪いことではないのですが、見栄、比較以外の面で音楽を続けている理由がない状態でこれをやると少し問題。
在学中は十分な練習時間もあり、毎週1-2回以上も高度なレッスンを受けられる環境なので、何かのコンクールにとりあえず入賞する。
ここまでは、多くの学生が到達します。
しかし、問題は学生ではなくなってから。
音大生ではなくなると:
・実技試験はありませんし
・定期的にレッスンを受けるためには自分で動かなければいけませんし
・周りにコンクールをやっているような学生もいなくなります
そういった時に、見栄、比較以外の面で音楽を続けている理由がある人物は、自分のやるべきことを見つけてそこに活路を見出します。
しかし、無い人物はどこへ向かって音楽をやっていけばいいか分からなくなり、モチベーションが続かなくなってしまうのです。
「コンクールの常連で成績も出していて知られているピアノ奏者が、いつの間にかいなくなってしまう」
こういったことが起こる理由は、上記のようなことに起因するケースが多いと考えています。
‣ 41. 独学が辛くなってきた場合の対処法
独学の方による「ピアノを辞めたいと思っている」という言葉も度々耳にします。
独学が辛くなってきた時にまず考えるべきなのは、「どういったところが辛いのかをしっかり自己分析する」ことです。例えば:
・練習するのが面倒に感じる
・周りに独学をしている友人がいなくて刺激がない
・周りの上達の速さに落ち込んでしまう
・いつまで経っても上達を感じない
・学習の仕方が分からない
・練習環境を確保するためにかかる費用が負担に感じる
・自宅で練習する際のお隣さんとの人間関係不穏
・自宅で練習する際の家族とのすり合わせの煩わしさ
・人前で披露する機会をつかめない
・上達の進み具合が把握できず練習がマンネリ化する
・ピアノを続けることでの先の目標がなくなった
・手を痛めてしまった
・ピアノを弾くと過去の負傷を思い出してしまう
・調律師さんに持っているピアノの嫌味を言われた
・いい独学教材と出会えない
この中には、「独学の場合」だけでなく「ピアノ教室に通っている場合」にも当てはまる内容を含めています。
「どうして練習を辛く感じるのか」について自身で把握することで、適切な解決法が見つかるかもしれません。
「練習環境のトラブル」であれば:
・費用さえあれば解決できるのか
・そうではないのか
を把握することから始めてください。
「手の負傷のトラブル」であれば、音楽家の専門外来の受診をして専門家の意見を取り入れるかどうかの検討。
「本番の確保」であれば:
・「ピティナ ステップ」をはじめとした申込型のイベントを探したり
・ピアノ教室で外部からの発表会参加者を募集しているケースに目をつける
・知人の本番に混ぜてもらう
・アマチュアピアノコンクールに応募する
・ピアノサークルの弾きあい会に参加する
などを検討しましょう。
‣ 42.「音楽知識」と「勇気」を与えてくれる一冊を見つける
筆者自身、今まで山のような音楽関連書籍を読んできました。
本棚に残しているものは数冊のみで、その中でも本当に出会って良かったと思えるものはほんの数冊のみです。
それらをよく眺めてみると特徴が見えてきました。筆者の場合、大きくは次の2パターンです:
・圧倒的に有益な、分野特化型専門書
・「音楽知識」と「勇気」を与えてくれる書籍
【圧倒的に有益な、分野特化型専門書】
筆者にとっての一冊は、「楽式論 石桁真礼生 著(音楽之友社)」です。
こういったタイプの専門書は、「いますぐ使える小技」というよりは、「音楽を根本から理解し、総合的な力をつけるためのバイブル」といったところでしょう。
筆者の本棚から離れることは一生ないと断言できる一冊です。
【「音楽知識」と「勇気」を与えてくれる書籍】
どんな音楽書籍でも一定水準以上のものであれば、それなりの「音楽知識」は与えてくれるはずです。
しかし、中にはそれだけでなく「勇気」も与えてくれる名著があります。
筆者にとっての一冊は、「斎藤秀雄 講義録(白水社)」です。
非常に厳しい指導をしたことで知られている、故 斎藤秀雄氏のよる講義録。
音楽的な内容の充実度はもちろん、この書籍を読むと背筋がピンと伸び、勇気をもらえます。
自分の音楽がふらついたら必ずこの書籍に戻ってくるようにしています。
ホームポジションになるような一冊、「音楽知識」と「勇気」の両方を与えてくれる一冊を見つけて欲しいと思います。
► C. 本番と経験に関する心構え
‣ 43. 作曲家の自筆譜ファクシミリ版を眺めることは、最高の自己啓発
手稿譜や初版楽譜などをそのまま写真製版して再現し、出版した版。
知って得するエディション講座 著:吉成 順 音楽之友社 より抜粋
さまざまな作品の作曲家自筆譜ファクシミリ版は、比較的容易に手に入ります。
書籍に収載されているそれでも構わないので、頻繁に眺めるクセをつけてみましょう。
中途半端な自己啓発本を読むよりもよっぽど、音楽へ向かう意欲や力が生まれてきます。
作曲家がその作品を「書いた」という事実からパワーをもらえるような感覚。
まずは、好きな作曲家の仕事から知っている作品や学習したことのある作品のものを見てみてください。
美しく浄書された出版楽譜を見ていても感じなかった感動や深い感情を持つことができるでしょう。
自筆譜ファクシミリ版を眺めるのは、最高の贅沢であり自己啓発。
音楽へ触れる毎日がさらに幸せになります。
◉ 知って得するエディション講座 著:吉成 順 音楽之友社
‣ 44. 楽譜をめくることに喜びを感じる
まだ音楽歴が浅かった頃、当時習っていたピアノの先生に、市販されているショパンのエチュードの自筆譜ファクシミリ版を見せてもらったことがあります。
それを一緒に見ながら「素晴らしいね」と言われたのですが、正直、当時は素晴らしさが分かりませんでした。歴史上、極めて大切な作品だということも気付いていませんでした。
しかし、自分が専門的に作曲をはじめて:
・作曲の喜び
・大変さ
・作品がずっと残ることの難しさ
などのあらゆることを知ったら、クラシック作品をもっと大切にできるようになったのです。
また、純粋に「楽譜」というもの自体がより好きになったことも大きいと思っています:
・便利なツールであることを改めて感じたり
・書法として「自分の譜面」に見える方向へもっていけるような哲学的な面もあったり
・楽譜に書けないこともある不完全さを知ったり
そういった面全てを含めて、楽譜というものの魅力は大きいですね。
普段作曲をしなくても、演奏を通して似たようなことを感じることもあるのではないでしょうか。
・大昔の作品の手書き譜が見れること
・そういった作品の美しく浄書された楽譜が手に入ること
・紙の質や厚さを感じながら楽譜をめくれること
こういった、小さなことのようで、当たり前のことのようで、実はものすごく恵まれたものを享受していることに、毎日もっと喜びを感じるべきです。
‣ 45. ピアノの力が伸びる時期
譜読みを始めてから「ある程度弾けるようになるまで」は早いけど、「その段階から仕上がるまで」は時間がかかる楽曲はありますね。
例えば、ショパンの場合:
・ある程度弾けるようになるまではスムーズだったとしても
・アゴーギクのつけ方がなんだかギクシャクしてまとまらず
・そうこうしている内に同時に始めた他の古典派作品の方が先に仕上がった
なんてこともよくある話。
この場合に上達を妨げているのは、「音符を読む」という行為の先にある要素です。
ピアノの力は総合的についてきてはじめて1mm成長するもの。例えば:
・基本的な演奏技術
・楽譜を正確に読む力
・音楽のあらゆる知識と、それらから判断する演奏解釈
・舞台の経験
など、様々な要素が積まれてきてようやく少し伸びるのです。
‣ 46. 進歩の原則
以下の進歩の原則を踏まえましょう:
・伸び悩んでいる間は、根を土の中に張っている時期
・まだ伸びているように感じないけれど、下には伸びている
・下には伸びていて、見えないところ、分からないところで進歩している
・下に伸び終わって土台がしっかりとすれば、あとは上に伸びていける
はっきりと上達を感じない時期があっても、決して焦らずにコツコツ練習することが重要です。
学習成果における停滞期の踏ん張り方があります。
短期的に後退するのは当たり前として、短期でなく中長期で伸びていれば十分と割り切ること。
短期で上手く弾けなくなっても、短期で覚えたことを忘れても、短期で何かのテストの点数が下がっても、中長期でプラスになっていれば成長していることになります。
と言いますか、学習におけるものごとの上達ってジグザグしながら少しずつ上がっていくのが当たり前。
その下がる短期間だけに気持ちを左右されないでください。
‣ 48. 弾き込みを辛く感じる気持ちの追いやり方
・譜読みも弾き込みも楽しく進めることができる
・譜読みはたいへんに感じるが、弾き込みは楽しく進めることができる
・譜読みは楽しく進められるが、弾き込みはたいへんに感じる
「どれも辛い」という方はピアノを弾いていないと思いますが、以上の3つだとどれに当てはまるでしょうか?
②が多いと思いきや、少なくとも筆者の知っている学習者の中では③の方が多い印象です。「弾き込みがたいへんに感じてしまう」というもの。
これは、減量(ダイエット)に似ているのではないかと感じています。
筆者は、階級制のスポーツをやっていた時に減量を経験したことがあります。
減量を開始した頃は着実に体重が落ちていくので楽しいのですが、あるところまでいくと中々落ちなくなり、その後、維持すべき時期に入ります。
分かっていただける方も多いと思いますが、この維持させるのが辛いんですよ。
普通にしていたら増えてしまうので、維持するためだけであってもアクションを起こし続けなければいけません。
減量で例えると:
・譜読みは、みるみる落ちていく期間
・弾き込みは、中々落ちない期間と維持期間とさらなる追い込み期間
やっただけ進んだ感を強く感じる譜読みとは異なり、弾き込みというのは、進んだ感を感じにくい。
弾き込みを大変に感じてしまうのは、こういった部分から来ているのではないかと感じます。
大変に感じる気持ちを追いやるために必要なのは、弾き込みの中でその作品から1日1個だけでも何か新しいことを発見しようと思って楽しむこと。
弾き込みのときほど、思考停止しやすいと思ってください。
弾き込みが「大変」もしくは「意味のない時間」と思うのは、思考停止してしまって楽しく学ぼうとしていないからです。
「弾き込みの段階になってからでも、まだまだ発見がある」ということを踏まえてやれば、譜読みから弾き込みまでひとつながりで楽しく作品を紐解けるでしょう。
それでも辛いのであれば、楽曲を変更してください。
‣ 49. ひとつ終わったら、即座に次へ行く
最近、やけに身の回りのモノが増えたと思っていたのですが、それが気のゆるみからきているということにすぐに気づきました。
ピアノ学習においても以下のようなことはありませんか?
・ずっと準備してきた演奏発表会が終わった途端、部屋が散らかって、なおかつ、太った
・ずっと準備してきたコンクールが終わった途端、しばらく休みたくなった
「燃え尽き症候群」などという言葉も耳にしますが、こういう時こそ「ずっとやってきたんだから、ちょっとくらい気を抜いてもいいかも」と思わず、即座に次に取り組むべきことを決めるべきだと考えています。
そうしないと、筆者みたいにモノが増えたり、または、何のためにやっているのか分からなくなって大きなブランクをつくってしまったりすることになりかねません。
‣ 50. 本番から学べる経験は100回のレッスンより大切
【ステージに立つことで見えるもの】
どんなに小さな本番でも、人前で演奏できる機会があるのは素晴らしいこと。
舞台によってその経験はさまざまです:
・「今まではただ単にピアノが好きだったけど、人前で弾くことも楽しいと思えるようになった」
・「たくさん練習したのにうまく弾けなくて、悔しい思いをした」
・「本番に合わせてモチベーションやコンディションを調整する大変さを知った」
・「人生で初めて、自分一人に対して大きな拍手をもらった」
など、これらすべて大事な経験です。
教室で100回レッスンするよりも1回の本番から学べるものは大きく、そのステージでの経験は時間が経っても忘れません。
‣ 51. テクニックを必要とする環境を作る
練習方法以外の面から言うのであれば、テクニックを必要とする環境をつくるのが、テクニックをつけるために必要なことです。
使わないテクニックは具体的な使用用途がイメージできないので、身に付くスピードが遅いですし、仮に身についたとしても使わないのですぐに忘れてしまうでしょう。
「ピアノの発表会」はもちろん、独学の方であっても申し込み形式で出演できる演奏会は山ほどあります。
これらのような舞台に出演することで、自身が身に付けたテクニックを人前で使う機会をつくりましょう。
少し極端な例ですが、オリンピックでメダルを獲得したオリンピアンも、オリンピックという具体的な「身に付けた能力を使用するシチュエーション」が無かったとしたら、力の付き方は当時の地点まで到達していないはずです。
小さな舞台でもまったく構いません。身につけた能力を使用するシチュエーションを作ってしまいましょう。
‣ 52. 本番で良く弾けなかったときの涙目の乾かし方
「本番で上手くいかない部分をチェックできる音源が手に入った」という大きな収穫を喜んで、乾かしてください。
本番では:
・いつもと異なる心境
・異なるピアノ
・異なる会場
など、他にもあらゆることがイレギュラーな環境に置かれるので、予想外のトラブルが起こる可能性もあり得ます。
トラブルとまでいかなくても、細かな不注意点があらわになるかもしれません。
だからこそ、本番では自分の演奏がどんなことになっちまうのかということを、録音して確認しなければいけません。
自分の弱点を知れる有益資料が手に入るわけなので、本番の演奏は必ず録音すべきです。
録音が手に入ったからには有益な上達のヒントを手にできたのですから、次また頑張ればOKと割り切りましょう。
‣ 53. 本番での失敗を、学びに変える心構え
本番で失敗してしまった時に、「気持ちをダウンさせないで次に向かえるかどうか」が重要。
巨匠アシュケナージは、指揮者としてのステージ中に指揮棒が自分の手に約3cmも刺さり、血が吹き出してやらかしたそう。2004年、NHK交響楽団定期演奏会の最中のことです。
プロでも失敗することはあるのです。
本番でうまくいかないことは誰にでもあります。
一方、せっかくの経験なので、うまくいかなかった理由だけは考えてみるべきでしょう。
例えば:
・防寒をおろそかにして手が冷えた状態で本番になってしまい、動かなかった
・身体だけで覚えていたために、暗譜が飛んでしまった
・出始めのテンポが速くなってしまい、そのまま最後まで行ってしまった
このように原因さえ分かれば、それに対する対策は次回以降とることができます。経験がプラスになります。
一番良くないのは、失敗してしまった時に必要以上に落ち込んだり、または、失敗の原因を考えずにその経験を無駄にしてしまうことです。
それに、失敗したときに知り合いに聴かれていて恥ずかしくても、練習が実らず悔しくても、「ひとつの本番を積み重ねた」ということには自信を持っていいのです。
‣ 54. 結果を出す、練習における目標設定の方法
一般的に「目標」が話題に上がる時は、「大きな目標と小さな目標を持ち、小さな目標で成功体験を積み上げて大きな目標へ向かっていく」というやり方を耳にしますよね。
本項目の内容はそれと似ていますが少し異なります。
ピアノ練習において「練習時間の長さ」ばかりを重視して目標設定するのはよくありません。
しかし、それは「ある程度、自分でコントロールできる要素」なので、コントロールできない大きな目標と共に掲げるのであればアリです。
例えば:
・〇〇コンクールで入賞する
・〇〇歳までに、〇〇ホールで演奏する
などといった目標は、自分ではコントロールできません。
その目標に向かって何かしらの行動や努力をすることはできますが、自分以外の要素に影響されて決まるものだからです。
大きなモチベーションのタネになるのは確かですし、将来への期待を持つことができます。
しかし、期待度が高いだけに達成できなかったときに気持ちがダウンしてしまう可能性があります。
一方、以下のような目標は自分でコントロールできます:
・毎日、〇時間練習する
・〇〇時から〇〇時までは必ず練習する時間にする
達成したときに自分の中に残るものがあるので、何か落ち込むことなどがあった時に自身とピアノを結びつけていてくれる要素になるのです。
・自分でコントロールできる目標
・コントロールできない目標
これらはどちらか片方のみではなく、両方掲げるからこそ意味があるということを意識してみましょう。
‣ 55. 思うだけでなく、必ず書き出す
ピアノを練習していく中で:
・練習メニュー
・レパートリーまわりのあれこれ
・目標
などについて「ああしたい、こうしたい」と思うことはあるでしょう。
思うだけでなく、必ず書き出して下さい。
書き出すことであらゆる「効果」があります。効果というのは例えば:
・手を動かしている過程で、頭が整理される
・見渡せるカタチで可視化されるので、実行しやすくなる
・書き出したりながめたりする過程で、モチベーションが向上する
書き出しながら深く考えたり自分と向き合うためには、スマホなどの端末で文字入力するのではなく、手でペン書きするといいでしょう。
‣ 56. 練習内容を簡潔に書き出し、見える化する
練習が終わった後に、その日に行った内容を書き出してみるのも手。
練習によってどれくらい進歩したかは分からなくても、メニューを「見える化」すれば、その日のうちにやったことが積み重なっていくという実感は得られます。
練習メニューが毎日同じような内容になってしまっても問題ありません。それが目に見えると達成感を得られます。
もし恥ずかしくなければ、毎日ためていった用紙を、ピアノの先生や、独学の方であれば力のある知り合いに見てもらってアドバイスを受けるのもいいでしょう。
ピアニストの川上昌裕 氏は彼の著書の中で、
と語っています。
‣ 57. 基礎練習をやるべきという気持ちと重い腰との折り合いの付け方
基礎練習としてハノンやコルトーなどの指練習的な意味合いの強い作品をさらうことは、決して不要とは言えず、うまく取り入れれば効果が上がります。
しかし、「やらないといけないな」という気持ちと「正直やりたくない」という気持ちとが混じり合っていて、どう折り合いをつけていいのか分からなくなることもあるのではないでしょうか。
当面は、以下の解決策で乗り切りましょう。
「楽曲に基礎練習を組み込んでしまう」という方法。
もっと具体的に言うと、「練習曲的側面の強い、しかしレパートリーになる楽曲に取り組む」という折衷案です。
「練習曲的側面の強い、しかしレパートリーになる楽曲」とは、例えば:
・J.S.バッハ 「2声のインヴェンション」(初級者から上級者まで使える楽曲として)
・ベートーヴェン「エロイカ変奏曲」(上級者向け)
などが良い教材になるでしょう。
・家事を多くこなすと、実はものすごい運動になっている
・体力づけのために朝ダッシュばかりやっていた柔道部が、テニス部よりも足が速くなった
などという話を耳にしたことがあります。
つまり、運動が目的でない家事でエネルギーを消費したり、足が速くなることを目的としていないダッシュ訓練で走力がついていたりと、それ以外の日常へ組み込んで間接的に訓練してしまうと、気づかないうちに力になっていることがあるという例。
基礎練習で重い腰が上がらない理由はシンプルです。
教材の単調さによるというよりは、むしろ、終わりが見えないことによる。
ハノンやコルトーなどは「仕上げて終わり」ではなく、譜読み要らずだけれども、その代わり、原則合格がなく、終わりになる期限が決まっていないのです。
だからこそ、先が見えなくて嫌になってしまう。
とりあえずは、取り組みの終わりも見える、「練習曲的側面の強い、しかしレパートリーになる楽曲」に取り組んでみるのはどうでしょうか。
‣ 58. やりたくない曲のやり通し方
以下のようなケースがあるはずです:
・あまり好きになれない作品をピアノの先生にもらった
・イヴェントなどの課題曲として、やりたくない作品に向き合うことになった
やりたくないけれどもやり通すためには、どうすればいいのでしょうか。
まず第一に考えるべきなのは、どういったことが原因でやりたくないのかをきちんと自己分析することです。
いろいろな理由があるでしょう。例えば:
・知らなかった曲だから、食わず嫌いの抵抗感がある
・曲が長すぎて譜読みの負担が大きく、腰が重い
・メロディや和声などが好きになれない
・前にやったことのある曲だから、さすがに新鮮味が薄れてきている
・友達がやっている曲だから、真似されたと思われたくない
・内心、やらされ感が気に入らない
いくつかの理由はどうしようもないものですが、ほとんどのものは以下の考え方で解決できます。
それは、「結局 “そのうち終わる“ という事実を理解すること」です。
人間は終わりの見えないことはできません。
例えば、最初の1回は好意で始めた無償の手伝いも、何回か頼まれると嫌になってしまいます。
単純に面倒くさいだけではなく、ずっと続くのかと思うと先が見えなくて不安になるため、抜け出したくなるのでしょう。
ピアノの練習にも似たようなところはあります。
やりたくない楽曲をやり通すためには、「とりあえず期限が来れば、ひと区切りにできる」という事実をしっかりと認識することが大切。
そうすれば、仮に楽曲自体を好きになれなかったとしても期限までやり通すことは可能。
教室で与えられた楽曲であれば、マルをもらえたらいったん終わりにすることができます。
イヴェントなどの課題曲であれば、そのイヴェントが終わればいったん終わりにすることができます。
期限がなく弾き続けなければいけない楽曲なんて、そうそうありません。
楽曲によっては、スルメのように取り組んでいる中でうまみが出てきて好きになれる可能性もあるので、とりあえずやってみてから考えればいいのです。
‣ 59. ピアノ練習を通して生きていく力をつける
ピアノを練習していると様々な課題にぶつかります。例えば:
・毎日練習する気になれないなあ
・練習しているのに上達しないなあ
・練習メニューの作り方はどうしようか
・本番に合わせてどのように標準を合わせればいいだろうか
・連弾の共演者と、どうやってコミュニケーションをとればいいだろうか
などといったように、学習者によって千差万別の課題があることと思います。
ピアノは技術の習得だけではありません。 上達する過程で たくさんの試行錯誤が必要になります。
独学の方も ピアノ教室に通いに行っている方も:
・直面している課題を解決するためにはどうしたらいいか
・将来出てくるであろう課題を克服するためには、今何をしておくべきか
ということを、自分自身で考える習慣をつけましょう。
必ず、将来のピアノ演奏のために、 そして、将来の自分が生きていく力になります。
‣ 60. 練習とは決断の連続
練習をしている時に、その時弾いた一部分を自分で「よし」としても、その「よし」は、まだ未確定なもの。
次の日に同じようなクオリティで弾けたとしても、その時は「もう少し何とかしよう、やり直し」と思うかもしれません。
この繰り返しで演奏を仕上げていき、本番に標準を合わせていく。
無意識ではあっても多くの方はこのようにしているはずです。
このことから言えるのは、練習とは決断の連続だということ。
決断をしなければ先へは進んでいけません。
だからといって、ある程度は自分に厳しく接する必要があり、何でもかんでも「よし」にしてしまっては上達が見込めません。
つまり、「決断の質を高めなければいけない」ということ。だからこそ学習する必要があります。
► D. 実践的な学習アプローチ:朝学習に本腰を入れる方法
‣ 61. 自分へ寝起きのリセットとなる行為を与える
洗顔でも何でもいいのですが、自分にとって寝起きのリセットとなる行為を見つけてそれを自らへ与えてあげてください。
毎日の習慣にするとそれがきっかけとなり、朝に好スタートを切ることができます。
誰でもやっていると思うかもしれませんが、ポイントは、寝起きのリセットだと強く意識しながらそれを行うことです。
‣ 62. 一度、短時間でも外へ出る
上記「寝起きのリセット」にもなり得ます。
人によっては、一度外へ出て短時間であっても散歩などをすると気分が上がってスイッチが入るという方もいます。
筆者はどちらかというとこの傾向が強いですね。
「1日を健康に良いことから始めて気分を上げる」ということ。
‣ 63. 負荷が軽めな内容や楽しいことから始める
朝の学習に比較的負荷の軽めのものや楽しいものを用意しておくと、重い腰が上がりやすいでしょう。
例えば:
・今取り組んでいる作曲家の生涯について書かれた書籍を読む
・未知の作品を聴いてみる時間にする
・弾きたくてたまらないと思っていた作品のコソ練をする
‣ 64.「みんチャレ」に類するものへ参加する
常に誰かを巻き込むというのは、継続のうえでとても効果的。
必ずしも会わなくてもOKです。
「みんチャレ」などが話題に挙がることもありますが、一緒に学習する仲間とオンライン上でつながることも可能です。極端な話、私淑でもいいでしょう。
こういった「みんチャレ」に類する他者巻き込み型学習を、朝学習に取り入れてみてはどうでしょうか。
‣ 65. 強制起床を促す、ホームベーカリーのタイマーセット
ホームベーカリーの炊飯器と大きく違うところは、強制起床を促されること。
どういうことかというと、焼き上がったらすぐにパンケースから取り出さないと耳が厚くなったり湿気を吸ったりして美味しくなくなります。
だからこそ、焼き上がりの時間になってピーという音がしたら強制的に起きないといけないのです。
一度、美味しくなくなったパンを経験しているので、これ、想像以上にすごい起床効果。
前日の夜に準備するといっても、慣れさえすれば材料を入れたりする過程を全て含めて5分もかかりません。
‣ 66. 翌朝のアクティビティリストの作成
朝起きたときに「何やろう?」という状態だと、「よし、もう少し寝よう」になってしまいます。
前日の夜に起きたらやることを3つ決めて、アクティビティリストにしておきましょう。
そうすることで起きる動機ができて、モノを考えるのも嫌なボヤけた頭の状態でも動き出すことができます。
► 終わりに
音楽学習では、上り坂、下り坂、時には行き止まりに感じる分岐点もあるでしょう。
このヒント集は「方向づけ」に過ぎません。
大切なのは、これらのヒントを暗記することではなく、トライしていく中で自分なりの音楽との向き合い方を見つけることです。
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