【ピアノ】応用的な譜読みテクニック:ダイナミクス記号で読み取るフレージング

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【ピアノ】応用的な譜読みテクニック:ダイナミクス記号で読み取るフレージング

► はじめに

 

楽譜に書かれたダイナミクス記号を、単に「音量の指示」として捉えていませんか。

時には、作曲家が記した f(フォルテ)や p(ピアノ)、アクセント記号には、音量指示以上の重要な意味が込められていることがあります。それは、フレージング(音楽の句読点や息づかい)を示すヒントです。

本記事では、一見すると「なぜここに?」と感じるダイナミクス記号から、作曲家が意図したフレージングを読み解く応用テクニックを、3つの具体例とともに解説します。この視点を身につけることで、日頃読んでいる楽譜がより「語りかけてくる」ようになるでしょう。

 

► ケーススタディ

‣ ケーススタディ①:「重複する f 記号」が示すフレーズの起点

 

ドビュッシー「子供の領分 より グラドゥス・アド・パルナッスム博士」

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、57-64小節)

ドビュッシー「子供の領分 より グラドゥス・アド・パルナッスム博士」57-64小節の楽譜。61小節2拍目に重複する f 記号が記されている。

譜例では、57小節目からクライマックスが始まり、すでに f で演奏しているにも関わらず、61小節2拍目に再度 f が記されています(原典版確認済み)。なぜ同じ強弱記号を繰り返すのでしょうか。

 

解釈のポイント

この「重複する f 」には二重の意味があります:

1. エネルギーの維持
長い f の区間で音楽的なテンションが緩まないよう、「ここでも f で」と念押しする意図

2. フレーズの区切りを明示(より重要)
61小節2拍目から新しいフレーズが始まることを示している

 

演奏への応用

このメロディラインは、スラーを注意深く見ないと、つい1拍目からフレーズを取ってしまいがちです。しかし原曲は意図的に2拍目からフレーズを開始する設計になっています。

実際の演奏では:

・2拍目の出だしからフレーズを改める
・フレーズ終わりの1拍目の4分音符D音よりも、2拍目の4分音符C音のほうがはっきり目に響くように

 

ここでのダイナミクス記号は、このような「見えにくいフレーズ構造」を強調する役割を果たしている点に着目しましょう。

 

‣ ケーススタディ②:「繰り返される pp」が作る音楽の呼吸

 

ベートーヴェン「ピアノソナタ 第14番 月光 嬰ハ短調 Op.27-2 第1楽章」

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、67-69小節)

ベートーヴェン「ピアノソナタ 第14番 月光 嬰ハ短調 Op.27-2 第1楽章」67-69小節。68小節目の2つの2分音符それぞれに pp が記されている。

 

この作品の終結部、68-69小節(最後の2小節)では、68小節目の2つの2分音符それぞれに pp が記されています(原典版確認済み)。

 

なぜ pp を2回書くのか

すでに pp で演奏している文脈の中で、あえて同じ記号を繰り返すのは、単なる「弱く弾きなさい」という指示ではありません。ベートーヴェンは、「この音から新しいフレーズを始めなさい」というメッセージを込めていると考えられます。

 

演奏への応用

この解釈に基づくと、以下のような表現が可能になります:

・68小節目の2つの2分音符の間に、ごく短い音の切れ目(「v」マーク参照)を作る
・2回目の pp の位置で、音を立ち上げ直すイメージ
・2つの2分音符を「同じフレーズの継続」ではなく「独立したため息」として扱う

 

このように、ダイナミクス記号の反復は「フレーズの改め」を示していることがあります。

 

‣ ケーススタディ③:「アクセント記号」が明かす隠れたフレーズライン

 

ショパン「エチュード(練習曲)ホ長調 Op.10-3 別れ」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、1-2小節)

ショパン「エチュード ホ長調 Op.10-3 別れ」1-2小節の楽譜。左手パートの8分音符に規則的にアクセント記号が付けられている。

左手パートの8分音符には、規則的にアクセント記号(>)が付けられています(原典版確認済み、3小節目以降は「simile(同様に)」として省略されていると解釈可能)。

 

よくある問題点

ここでは、「アクセント = その音を強調する」と単純に考えてしまうと、音楽の本質を見失います。

 

推奨する解釈

アクセントが付いている音は、「そこからフレーズが始まる起点」なのです。つまり、この左手パートは:

・各アクセント記号(裏拍の8分音符)から
・次の拍頭に向かって
・フレーズが進行していく

という構造になっています。

 

演奏への応用:自然なアゴーギクの創出

この「裏拍→表拍」というフレーズの流れを理解すると、以下のようなアゴーギク(速度法 / テンポの微妙な揺らぎ)が自然に生まれます:

・裏拍から表拍へわずかに「押していく」動き
・拍頭で「ショートフェルマータ」的な、少しの時間を使う
・これにより音楽的な「息づかい」が自然に生まれる

譜例(Finaleで作成)

ショパン「エチュード ホ長調 Op.10-3 別れ」左手パート分析図。アクセント記号から拍頭への点線矢印でフレーズ構造を示している。

 

ショパンの「別れの曲」では、「裏拍から表拍へ向けたフレーズ」が主要テーマ全体を貫く重要な書法となっています。アクセント記号は、この隠れた構造を演奏者に気づかせるための、作曲家からの親切なメッセージだと読み取りましょう。

 

► 終わりに

 

本記事で見てきた3つの例では、以下の発見がありました:

・重複する記号 → フレーズの区切りや新たな開始点を示す
・意外な位置の記号 → 見落としやすいフレーズ構造への注意喚起
・アクセント記号 → フレーズの起点と方向性を明示

 

楽譜を読む際は、「なぜここにこの記号が?」という疑問を大切にしましょう。一見不要に見える記号、重複する指示には、作曲家の演奏解釈へのヒントが込められている可能性もあります。

本記事で取り上げた内容は、当然、すべてのケースで当てはまるわけではありません。しかし、ダイナミクス記号を「音量の指示」としてだけでなく、「フレージングのガイド」として読み解く視点も持っておくことで、譜読みや楽曲分析をより深い視点から行うことができるようになります。

 

本記事で扱った「フレージング」の概念をより体系的に学びたい方は、【ピアノ】演奏におけるフレージングの深い理解と実践テクニック もあわせてご覧ください。

 


 

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