【ピアノ】ハキム&デュフルセ「音楽アナリーゼのための実践ガイド」レビュー

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【ピアノ】ハキム&デュフルセ「音楽アナリーゼのための実践ガイド」レビュー

► はじめに

 

校正協力として携わった金澤正剛氏が述べているように、本書は「音楽史でも、音楽辞典でもなく、音楽作品を分析するにあたって何をすべきかを具体的に示してくれるガイド」です。

フランスで長く音楽教育に携わってきた原著者の意向を汲んだきめ細かな注釈も充実しており、独学で学ぶ学習者も教科書として使用しやすい作りになっています。

 

・日本語版監修:野平一郎
・訳 : 野平多美、伊藤靖浩、横川晶子
・出版社:音楽之友社
・邦訳初版:2022年
・ページ数:208ページ
・対象レベル:初中級〜上級者

 

音楽アナリーゼのための実践ガイド 実習 図説・音楽用語集 図表 著:ナジ・ハキム、マリ=ベルナデット・デュフルセ

 

 

 

 

 

► 著者について

 

ナジ・ハキムは作曲家として活躍し、マリ=ベルナデット・デュフルセは古楽の専門家です。本書は、ハキムがブローニュ=ビヤンクール音楽院でアナリーゼのクラスの教鞭をとり始めた頃、初級の生徒たちに講義の理解を助ける教科書が必要だと感じて執筆を開始したものです。1991年の出版以降、現在でもフランスの各音楽院で広く使用されており、多くの教員や学生から信頼を寄せられている定番の手引書となっています。

 

► 内容について

‣ 本書の対象者

 

本書の対象者は概ね以下のようになります:

・ピアノ演奏の初中級者〜(概ね入門が終わった程度から使用可能)
楽曲分析の入門者〜

内容は専門的ですが、楽曲分析の入門者にとっても活用できる内容となっています。難しく感じる場合は、「第2部 図説・音楽用語集」「第3部 図表」を辞書的に活用することから始めるといいでしょう。

 

‣ 本書の特徴

 

本書の注目すべき特徴は、その構成にあります。「第1部 実習」での具体的な分析方法の解説が約70ページとコンパクトにまとめられている一方で、「第2部 図説・音楽用語集」「第3部 図表」「追補」が合わせて130ページ近くを占めており、これらが分析作業において非常に強力な資料となる点です。

 

· 第1部 実習(約70ページ)

 

楽曲分析というと、和声記号をつけることばかりを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし本書の第1部では、和声分析はもちろんのこと、それ以外にも様々な観点から何に着目して分析すればいいのかが、譜例を用いて丁寧に解説されています。

具体的には以下のような章立てとなっています:

・第1章 分析の方法
・第2章 形式の分析
・第3章 主題による分析
・第4章 旋律の分析
・第5章 和声の分析
・第6章 対位法的楽曲の分析
・第7章 リズムの分析
・第8章 楽器法、管弦楽法についての分析
・第9章 ダイナミクス(強弱)、アゴーギク、特色についての分析
・第10章 フィギュラリズム(音型表現法)

 

一つの楽曲をこれほどまでに様々な角度から分析できるのかと驚くことでしょう。また、作品の周辺情報や知識についても、どういった視点から集めるべきなのかが明示されており、ただの技術的分析に留まらない包括的なアプローチが示されています。

 

· 第2部 図説・音楽用語集(約700語収録)

 

通常の音楽事典とは異なり、分析に役立つ用語とその意味に特化して解説されています。

例えば、「Carrure カリュール〔4小節法〕」や「Modulation 転調」の様々な実例など、実際の分析作業で必要となる用語が実践的に説明されています。分析のための心強い事典として、分析実施中に何度も参照することになるでしょう。日本語索引も完備されているため、必要な情報に素早くアクセスできます。

 

· 第3部 図表(12の図表を収録)

 

区別に迷いやすい様々な用語や概念を図表で一覧化してくれています。これは本書の非常に優れた点で、一般的な従来書では個別に解説されていた内容が一目で見渡せる良い資料となっています。

収録されている図表は以下の通りです:

【表1】主要形式
【表2】調性語法の主要和音
【表3】終止形
【表4】旋法と音階
【表5】和声外音
【表6】リズム型
【表7】13世紀のリズム・モード
【表8】13世紀から15世紀初頭の主要リズム
【表9】主要舞曲
【表10】オーケストラの楽器
【表11】主要声域
【表12】音名

 

例えば、様々な形式の違い、主要和音、終止形、和声外音、主要舞曲などが体系的に整理されており、分析中に迷った際の参照資料として有用です。

 

► おすすめの使い方

 

1. まずは序文と前書きを熟読する

楽曲分析の目的とは何であって、意味のない分析とはどんなものであるのか、ということがしっかりと書かれています。必ず「序文」「前書き」の両方を熟読してから本編に入るようにしましょう。これにより、本書全体の方向性と意図を正しく理解することができます。

 

2. 第1-3部を行き来しながら分析を進める

一つの楽曲を分析するときには、第1〜3部の内容を行き来しながら分析していくと効果的です。具体的には以下のような使い方が考えられます:

・基本的な分析の視点を第1部で学ぶ
・その中で難しい用語などが出てきたら第2部を参照する
・楽曲情報を集めるときにも様々な用語が出てくるはずなので、第2部を辞書的に活用する
・分析で和声外音が出てきて区別が怪しくなったら第3部で頭を整理する

このように、本書を有機的に活用することで、より深い理解が得られるでしょう。

 

3. 2週目以降は選択的な学習を

まずは一通り学習してみることをおすすめしますが、2週目以降は、ある程度選択的に深い学習をするといいでしょう。自身の関心や必要に応じて、重点的に学ぶ部分を決めていくことが効果的です。

 

► 注意点

 

ピアノ曲の分析も取り上げられており、ピアノ奏者にとっても非常に有益な一冊です。しかし、すべての内容がピアノ音楽で統一されているわけではなく、オーケストラの内容や、バロック以前の内容も分析対象に含まれています。これは、著者の一人が古楽の専門家であることも影響しているでしょう。

ピアノ音楽に特化した学習を望む方にとっては、若干の戸惑いがあるかもしれませんが、深い分析視点を鍛えるという観点では、むしろこの幅広さが利点となります。

 

► 終わりに

 

楽曲分析という行為を理解し、実践的なスキルを身につけたいすべての音楽学習者にとって、本書は座右の書となるでしょう。どの章も、分析作業において何度も参照することになる貴重な資料です。

1991年の出版以降、長年にわたってフランスの音楽院で使用され続けてきた実績が、本書の価値を何よりも物語っています。日本語版の登場により、日本の音楽学習者もこの優れた教材にアクセスできるようになったことは、大きな意義があると言えるでしょう。

 

音楽アナリーゼのための実践ガイド 実習 図説・音楽用語集 図表 著:ナジ・ハキム、マリ=ベルナデット・デュフルセ

 

 

 

 

 

 


 

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