【ピアノ】「区切る」を応用する学習:あらゆる場面で使えるシンプルな練習原則

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【ピアノ】「区切る」を応用する学習:あらゆる場面で使えるシンプルな練習原則

► はじめに

 

ピアノの練習をしていると、「どうしてもこのパッセージが弾けない」「テンポが上がらない」「譜読みが進まない」といった壁に何度もぶつかることでしょう。そのたびに違う解決策を探し求めてしまいがちですが、実は多くの問題を貫く、シンプルかつ強力な原則が存在します。

それが「区切る」です。

速いパッセージの練習でも、大曲の譜読みでも、耳コピでも、録音チェックでも、練習時間の管理でも「区切る」という発想を持ち込むだけで、学習の質と効率は驚くほど変わるもの。本記事では、この「区切る」という原則がいかにあらゆる場面で有効かを、具体的な応用とともに解説します。

 

► A. 譜読みへの応用:インクリメンタル・リーディングという考え方

‣ 細切れ譜読みの魔法

 

学習法の世界に「インクリメンタル・リーディング(Incremental Reading)」という考え方があります。「少しずつ読み進め、少しずつ積み上げる」という学習アプローチで、一度に大量の情報を処理しようとするのではなく、小さな単位に分割して確実に定着させていくもの。

ピアノの譜読みに置き換えると、これはまさに「細切れ譜読みの魔法」そのものです。

80小節の楽曲を譜読みするとき、「全体をゆっくり読む」を繰り返すよりも、「8小節をしっかり読んでから次の8小節へ進む」を10回繰り返すほうが、はるかに早く、正確に譜読みが完了します。もっと細かく区切っても構わないくらいでしょう。重要なのは「今読んだ内容を忘れないうちにもう一度読む」という反復の密度です。

インクリメンタル・リーディング的に言えば、「前の単位が定着してから次へ進む」という積み上げ式の設計こそが、長い楽曲の譜読みでも崩れにくい理解を生み出していきます。

 

‣ 区切りの「長さ」を設計する

 

区切る単位は短過ぎても長過ぎても効果が落ちます。運指やペダリングを決めながら読む場合は特に、前後の文脈が影響するため、1-2小節では短過ぎることも。8小節前後を基本の単位として、楽曲の構造に合わせて柔軟に変えていくのがいいでしょう。

「8小節間を練習する場合、9小節目の頭の音まで弾く」という習慣も大切にしたいところ。音楽は常に流れており、小節のつなぎ目には音楽的な意味があります。この一工夫が、区切られた練習箇所を音楽的にひとつながりにしてくれるのです。

 

‣ 近現代作品の譜読みのコツ

 

近現代の作品のうち、ある程度凝ったものの場合、「両手でゆっくり合わせる」だけの譜読みでは正誤の判断すら困難になりがちです。「今弾いている内容は果たして合っているのだろうか?」などと疑問に思ったこともあるのではないでしょうか。

こういった作品の譜読みでは、まず「一段ずつ」などの短い単位に区切り、その単位を「片手のみで・暗譜で・テンポで」弾けるようにしてから、両手合わせへと移っていきましょう。片手がピカピカになっていれば、両手合わせの段階で混乱する可能性を大幅に抑えられます。

 

ラフマニノフ「音の絵 Op.39-9」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、6-9小節)

ラフマニノフ「音の絵 Op.39-9」6-9小節の楽譜。複雑な和音進行と臨時記号が多用された現代的なピアノ楽譜。

 

► B. テクニック練習への応用

‣ 難所は「直前」から区切る

 

うまく弾けない箇所だけを繰り返し練習しても、なかなか改善しないケースがあります。その理由の一つは、うまくいかない原因が「その箇所の直前」にあることが多いからです。

・難しいパッセージの直前で、すでに体が固まっていないか
・直前のパッセージでつまずいた影響が後まで尾を引いていないか
・直前から運指を見直すことで問題が解消しないか

「弾けない箇所」のみを切り出すのではなく、直前を含めた少し広い単位で区切り直すことが、突破口になることも少なくありません。

 

‣ 両手での急速ユニゾンスケールの攻略法

 

ブラームス「2つのラプソディ 第1番 Op.79-1」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、62-66小節)

ブラームス「2つのラプソディ 第1番 ロ短調 Op.79-1」の楽譜、62-66小節。

譜例に見られるような両手の急速ユニゾンスケールは、多くの演奏者が悩む箇所の一つです。テンポを上げると左手が遅れる、あるいはダンパーペダルでごまかしているだけ、という状態に陥りやすいことでしょう。

こうした箇所への有効なアプローチが「1オクターブずつ区切って、速く力強く弾けるようにする」練習です。

1オクターブずつピカピカにしてからつなぎ合わせることで、どのオクターブでつまずいているかが明確になり、技術的な課題も浮かび上がってきます。ポイントは、区切って練習する場合でも、実際の指遣いで練習すること、そして「左手のみ・右手のみ・両手」の3パターンを実施すること。

ゆっくり練習(拡大練習)は大切ですが、速く弾けるようになるためには速いテンポでの練習も欠かせません。全体のテンポで崩れてしまうからこそ、区切った短い単位で速く弾く練習を取り入れる意義がある。そう理解しておきましょう。

 

‣ 複雑で細かいパッセージ:「拍頭止め」練習

 

臨時記号が多く、かつ速いパッセージというのは、ただゆっくりさらっていても弾けるようにはならないもの。こうした場合に有効なのが、「区切れる単位を見つけて、その単位で速く弾けるようにしてからつなぎ合わせる」やり方です。

具体的な練習方法として「拍頭止め」があります。細かいパッセージを拍単位に区切って、各拍の頭で止めていく練習方法で、これは通常の「リズム練習」よりも段違いの学習効果があるので、ぜひ取り入れてみてください。→ 詳しいやり方を学ぶ

この練習を繰り返して各拍頭の音を「運指ごと」覚えてしまうほどさらうと、暗譜の助けになるうえ、頭の中で拍が整理されるため音楽的な理解も自然と深まっていきます。

 

‣ 2小節単位での徹底仕上げ

 

ある楽曲が「2小節単位」で構成されているのであれば、この単位で完璧に仕上げてから次に進む練習が効果的です。「完璧」の基準は「ゆっくり間違えずに弾けた」ではありません。美しく音楽的に歌えていること、ミスタッチがないこと、目標テンポで演奏できること——この3点をすべてクリアしてから次の単位へ。

できていないのに先へ進む習慣が、上達を妨げる最大の原因の一つです。区切った練習ポイントを徹底的に仕上げてから結合する、という設計を意識してください。

2小節単位では完璧でも、つなげるとうまくいかない場合は、4小節など「少しだけ長い単位」を織り交ぜながら練習バランスを調整していきましょう。

 

ショパン「エチュード Op.10-1」

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、曲頭)

ショパン「エチュード Op.10-1」の楽譜。曲の冒頭部分が掲載されている。

 

► C. 耳コピへの応用

 

耳コピ(採譜)は、音楽理論の知識があるほど効率よく進みますが、その力はすぐには身につかないもの。テクニック的な観点から言えば、「区切る」の発想が耳コピでも大きく役立ちます

採譜の順序としては、まずメロディを採ること。バスラインが明確な楽曲であれば次にバスを採りましょう。4声の聴音指導で「まずソプラノとバスのみを採る」と教えられるのには理由があります。最も聴こえやすい部分から着手すると取りかかりやすく、両端(メロディとバス)が採れていれば、他の声部が聴き取れなくても和声が推測しやすくなるのです。

そして、区切って採ることが大切です。8小節など、短いひとかたまりを見つけて進めていきましょう。難しければ、1-2小節などさらに短く区切っても構いません。慣れていない方は、スローテンポで聴ける環境(音楽プレーヤーのスピード調整機能やスロー再生アプリ)を活用しながら、短い単位を繰り返し聴くことで、徐々に音が見えてきます。

 

► D. 録音チェックへの応用

 

通し練習での録音チェックは効果的ですが、区切って短い単位で行う録音チェックも、同じくらい強力なアプローチです。

例えば、8小節で大楽節が作られている部分であれば、次のサイクルを回していきましょう:

1. 9小節目の頭までを録音する
2. 聴いてチェックし、課題を見つける
3. 細部の練習をする
4. 再度、録音チェックする

このサイクルを何度も何度も回します。

限られた練習時間の中で、何度もPDCAを回せること——これが、区切って行う録音チェックの最大のメリット。1ページ単位程度まで広げても構いませんが、あまり長い単位にすると1サイクルに時間がかかり過ぎ、効果は薄れます。「短く区切ってたくさん回す」。これが録音チェックを活かすポイントです。

 

► E. 練習時間管理への応用

‣ 休憩も「区切る」

 

練習中の休憩するタイミングは「時間」で区切りましょう。ピアノを弾くという行動は、我々が思っているよりずっと身体への負担が大きく、自覚していなくても手や腕への疲労は着実に蓄積されています。また、本当に密度の濃い集中力は40-50分程度しか続かないとも言われています。

目安として、初級者は15-30分に1回、中級者以上は最低でも50分に1回の休憩を挟んでください。休憩は短くても、必ず「上半身」と「頭」を休める時間にすることが大切です。

たくさん練習したい場合は、この時間を「セット」として組みます。25分×複数回、あるいは45分×複数回といった形で。大人の初中級者であれば、15〜25分のセットから始めるのが現実的な出発点でしょう。

 

‣ タイマーに怒られることで習慣をつくる

 

ぶっ続け練習のクセを断ち切る実践的な方法は、タイマーを使うことです。ワンセット45分の練習をするつもりであれば「50分後」に鳴るよう、やや長めにセットしてみましょう。慣れてきたら、タイマーが鳴る前に自分で切り上げる習慣へ。何度も「鳴らされる」うちに、経過時間の感覚が自然と身についてきます。

この感覚が定着すれば、タイマーを使わなくても自分で区切れるようになるのです。その頃には「タイマーに怒られるかも」という雑念も消え、練習への集中力がさらに高まることを実感できるでしょう。

 

‣ 休憩にピアノ音楽を活用する

 

激しい音楽や歌詞のある曲よりも、シンプルで穏やかな曲が脳と身体をリセットしやすいと言われています。練習の休憩時に穏やかなピアノ音楽を取り入れることで、メリハリのある練習リズムを生み出しましょう。

例えば「25分集中 → 5分休憩」のサイクルを回す場合、休憩中に2-4分程度の静かなピアノ曲を1-2曲聴くだけで、気持ちよくリセットできます。「ショート動画を1曲(40-50秒)だけ聴く」マイクロブレイクを挟むのであれば、「次の曲まで頑張ろう」という小さな目標が集中力の維持に役立ちます。

筆者が作曲と運営をしている癒やしのピアノチャンネル「Piano Poetry」のような穏やかなコンテンツを、BGMや休憩の合図として活用するのも一つの手。ロング動画で静かに流したり、ショート動画を切り替えのきっかけにしたりと、取り入れ方は色々と工夫できます。

 

► F. 気持ちが萎えたときにも「区切る」

 

大曲の譜読みを始めてもすぐ挫折してしまう理由の一つは、「ここでこんなにつまずいているのに、まだ先がこんなに長い…」と、楽曲全体と現状を比較してしまうことです。先が見えない不安が、諦めに似た感情を呼び込みます。

そんなときこそ「区切る」の出番。「今日は大譜表2段分だけでいい、その代わり、その2段はしっかり学習しよう」と自分で決める。区切っても楽曲の総小節数は変わりませんが、「今日はここまで」と割り切ることで、全体への漠然とした不安ではなく、目の前の区切りへの集中が生まれます

一方で、「本番を入れてしまう」「単発レッスンを入れてしまう」など、やらざるを得ない状況を意図的に作るアプローチも有効。どちらが自分の性分に合っているかを見極めながら、使い分けていきましょう。

 

► 終わりに:「区切る」は万能原則

 

本記事で見てきた通り、「区切る」という発想はピアノ学習のあらゆる場面に応用できます。

譜読み:インクリメンタル・リーディング的に、少しずつ定着させながら積み上げる
テクニック練習:短い単位でピカピカにしてからつなぎ合わせる
耳コピ:短いかたまりを繰り返し聴いて、少しずつ採る
録音チェック:短い単位でPDCAを素早く何度も回す
練習時間管理:時間で区切り、休憩を意図的に設計する
メンタル管理:「今日はここまで」と割り切ることで前へ進む

 

大事なのは「一気に全部やろうとしない」こと。一点に集中し、着実に積み上げていく姿勢が、難曲の攻略にも日々の練習の質にもつながっていきます。区切って、丁寧に、徹底的に——この原則を軸に、練習を組み立て直してみてください。

 


 

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