【ピアノ】ヴァルター ゲオルギイ「ピアニストの手帖」レビュー
► 概要
ヴァルター・ゲオルギイ著「Klavierspeilerbüchlein: Winke für den Klavierspieler」(1953年)の日本語訳は、ピアノ演奏に関する知識と実践的なアドバイスを提供する有益な教材です。著者は演奏家でもあり教育者でもあったゲオルギイの豊富な経験と深い学識が、この一冊に凝縮されています。
・出版社:音楽之友社
・邦訳初版:1996年
・ページ数:143ページ
・対象レベル:中級~上級者
・ピアニストの手帖 ムジカノーヴァ叢書 20 著:ヴァルター ゲオルギイ 訳:友利修 / 音楽之友社
► 内容について
‣ 本書の特徴
1. 体系的な構成
全18章にわたり、基礎的な練習方法から高度な演奏技術まで、段階的に解説されています:
・練習の質に関する詳細な指導
・体系的な指使いの解説(特に音階と分散和音)
・ペダリングの実践的アプローチ
・暗譜と初見演奏の効果的な学習法
2. 独自の視点
本書の特筆すべき点は、一般的なピアノ教則本ではあまり触れられない話題を掘り下げている点です:
・ポリリズム(2:3、3:4など)の具体的かつ詳細な練習方法
・古い時代の楽曲における和声の補充は許されるかどうかに関する考察
・演奏技法の簡略化に関する実践的なアドバイス
・J.S.バッハ作品におけるペダル使用の指針
・J.S.バッハの作品などで、alla breveと別の拍子記号の両方が同時に書かれている意味
・付点の伸び縮み(直後の短い音符が短くなるか、それとも長くなるか)についてのヒント
3. 実践的価値
本書は単なる理論書ではなく、実践的な演奏技術の向上に直結する内容を提供しています:
・効率的な練習方法の具体的な提案
・テンポと拍子に関する詳細な考察
・連打や両手の交替など、特定の技術的課題への対処法
また、単に事実の提示をしているだけではありません。例えば、同音連打における話題では:
・多くの新しい版でも ”ゆっくり” としたテンポにおける同音連打でさえ、指を替える運指が指示されている
・ではなぜ、かねてからそのような運指がとられてきたのか
・その理由を、一昔前に定番だった腕や手の使い方をもとに解説
‣ 特筆すべき教育的アプローチ
1. 歴史的背景との関連付け
・フランツ・リスト、レオポルド・モーツァルトなど著名音楽家の言葉を度々引用
・古典的教則本からの重要な知見の紹介
・歴史的な演奏慣習と現代的解釈の橋渡し
2. 技術的な考察の深さ
・同音連打における指使いの歴史的背景と理論的根拠の解説
・速いパッセージにおける運指の重要性の具体的な説明
・演奏技法の簡略化に関する詳細な考察と限界点の提示
3. 実践的な学習方法
・集中力を要する効果的な練習方法の提案
・暗譜力向上のための具体的な訓練法
・初見演奏能力の段階的な向上方法
基本的には真面目に展開していく書籍ですが、時々、クスッと笑ってしまうようなユーモアのある言い回しが出てきたりと、著者の人間性が見て取れます。
► 結論
本書は特に、実践的な演奏技術の向上と音楽的成長を目指す中級以上の学習者にとって、貴重な指針となるでしょう。ただし、譜例が比較的少ないため、若干取っつきにくい可能性があります。この「制限」により、書かれていることをきちんと頭で整理しながらの集中した学習が必要になります。
著者が強調するように、音楽の本質的な理解と効率的な練習方法の習得は、長期的な音楽活動の基盤となることを踏まえて、丁寧に読み進めてみてください。
・ピアニストの手帖 ムジカノーヴァ叢書 20 著:ヴァルター ゲオルギイ 訳:友利修 / 音楽之友社
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