【ピアノ】フレーズ終わりの音を強く弾いてはいけない理由:原則と例外を解説

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【ピアノ】フレーズ終わりの音を強く弾いてはいけない理由:原則と例外を解説

► はじめに

 

ピアノを弾いていて、「何となく非音楽的に聴こえる」と感じたことはありませんか。楽譜通りに正確に弾いているはずなのに、どこか不自然——その原因の一つが、フレーズの終わり方にあるかもしれません。特に、フレーズの最後の音を無意識に強く弾いてしまうことで、攻撃的な印象を与えることがあります。

本記事では、音楽表現の基本である「フレーズ終わりの音はおさめる(強く弾かない)」という原則について、その理由を文章表現との比較を通して解説します。また、この原則に従わない例外的なケースについても、具体的な楽曲例とともに紹介します。

 

► 原則と例外

‣ なぜ、フレーズ終わりはおさめるのが原則なのか

 

「フレーズ終わりの音は大きくならないようにおさめる」

これは、音楽表現の基本です。ではなぜ、このようにすべきなのでしょうか。

 

· フレーズ(phrase / 楽句)とは何か

 

「フレーズのスラー」や、結尾が「休符」で示される、あるまとまりを持つ旋律線のことです。スタッカートなどが中心の場合は、「動機(短い音楽的アイデア)がどのように集まって区切りをつくっているのか」などを参考にフレーズを見分けることができます。

例えば、以下の譜例はショパンのメロディですが、それぞれのスラーの終わりに位置する音(D音とG音)がフレーズ終わりの音になります。

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成)

ショパンのメロディの譜例。フレーズ終わりの音(D音とG音)がスラーで示されている楽譜。

· 文章との比較で理解する

 

これは、文章の組み立てに例えることも可能です。ご存知のように、文章では句読点によって意味を区切ったり段落感をつけたりします。音楽でいうフレーズ終わりは、文章でいう句読点の直前であると考えることもできます。

では、次の2つの例を比べてみましょう。

 

【例1】句読点の直前を強調した場合

フレーズ終わり、句読点の直前であると考えることもできま

このようにしてしまうと、どう考えても不自然と言わざるを得ません。句読点の直前を強調してしまうと、尻もちをついたような、または怒っているような印象になってしまいます。

 

【例2】適切な位置を強調した場合

フレーズ終わりは、句読点の直前であると考えることもできます。

このように強調する場所によっては、その話し方で何を強調したいのかを印象づけることができます。重要なのは、強調しても問題ないところが句読点の直前ではないということです。

 

· 語尾の重要性

 

日常会話を思い出してください。「ありがとうございます↑」と語尾を上げると疑問や皮肉に聞こえ、「ありがとうございます↓」と下げると誠実な感謝に聞こえます。このように、頭や途中よりも、語尾のほうが感情表現にとっては影響が大きいのです。

音楽でも同様に、フレーズの終わらせ方の工夫は感情表現に必要不可欠です。音楽でフレーズ終わりをおさめるべきなのは、このような理由によると理解してください。

 

· 実践のヒント

 

特定の表現効果を狙ってフレーズ終わりの音にアクセントが書かれているケースもありますが、原則は「おさめる」です。口で歌ってみると自然とそのように歌っているはずです。ピアノという楽器を通しても適切なフレーズ表現の感覚を忘れないようにしましょう。

 

‣ 例外①:音楽的に言い切ったように終わるべき場合

 

原則には例外があります。第1の例外は、音楽の文脈上、強く言い切る必要がある場合です。

 

シューマン「リーダークライス Op.39 より 第6曲 美しい異郷」(クララによる編曲版)

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、21-24小節)

クララ・シューマン編曲版の「美しい異郷」21-24小節、クライマックスの表現を解説するための楽譜。

読み取りのポイント:

・21小節目で f になって、ひとやま作られる
・23小節目にさらに cresc. が書かれている
・つまり、真のクライマックスは24小節目の頭であり、原曲の歌詞では「Glück !(幸福)」と言い切る箇所

このように、フレーズの最後の音でも、音楽的に言い切って終わる箇所では、控える必要はありません。むしろ、そこに向かって盛り上げることで、作曲家の意図する効果が生まれます。特にこの箇所の場合は、原曲の歌詞に「!」がついているので、言い切るべき必要性があると考えられるでしょう。

これは文章で言えば、「!」をつけて強い感情を込めて言い切る場合に相当します。

 

‣ 例外②:作曲家がアクセントを書いている場合

 

第2の例外は、作曲家が明示的にアクセント記号を付けている場合です。

先ほど触れた、「特定の表現効果を狙ってフレーズ終わりの音にアクセントが書かれているケース」の例を挙げておきましょう。

 

ベートーヴェン「ピアノソナタ 第2番 イ長調 Op.2-2 第1楽章」

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、58-63小節)

ベートーヴェン「ピアノソナタ 第2番 イ長調 Op.2-2 第1楽章」58-63小節。sfが付いたDis音とフレーズ終わりのD音が示された楽譜。

sf がついている音に注目しましょう。このDis音は「フレーズ終わりのように聴こえる位置にある音」ですが、ベートーヴェンは sf をつけることで、フレーズ終わりがここよりも先にくるように延長しています。レッド音符で示したD音がフレーズ終わりの音です。

このように、作曲家がアクセントおよびそれに準ずる表現を指示している場合は例外と考えてください。

この例外は、音楽的必然性からくる例外①とは異なり、作曲家の明示的な指示による例外です。楽譜に書かれた記号は作曲家からのメッセージなので、細かく読み取りましょう。

 

► 終わりに

 

フレーズ終わりをおさめる原則は、自然な音楽表現のための基礎です。しかし、音楽は生きた芸術であり、常に文脈に応じた判断が求められます。

実践のために:

・まず、楽譜を見てフレーズの区切りを確認する
・そのフレーズを口で歌ってみて、自然な終わり方を体感する
・例外に該当するかどうか(言い切りの表現か、アクセント記号があるか など)を確認する
・ピアノで弾く際も、歌ったときの自然な感覚を保つ

この原則と例外を理解し使い分けるように心がけることで、より音楽的な演奏を目指しましょう。

 

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