【ピアノ】「ピアノを歌わせる ペダリングの技法」レビュー:音響学からアプローチするペダリング研究書

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【ピアノ】「ピアノを歌わせる ペダリングの技法」レビュー:音響学からアプローチするペダリング研究書

► はじめに

 

ヘルムート・ブラウスの「ピアノを歌わせる ペダリングの技法」は、従来のペダリング指導書とは風変わりな、ノウハウ本というよりは小さな研究書です。

特筆すべきは、著者のヘルムート・ブラウス氏(ピアニスト、アルバータ大学名誉教授)が音響学的な観点からペダリングにアプローチしている点。感覚や経験則だけでなく、科学的な裏付けを持って解説を展開しています。

 

・出版社:全音楽譜出版社
・邦訳初版: 2013年
・ページ数:110ページ(本編が73ページ、充実した参考文献が付けられている
・対象レベル:中級~上級者

 

・ピアノを歌わせる ペダリングの技法 「いつ踏むか」ではなく「どう踏むか」著 : ヘルムート・ブラウス  訳 : 市田 儀一郎、朝山 奈津子 / 全音楽譜出版社

 

 

 

 

 

 

► 対象読者について

 

本書が最適な読者層は以下の通りです:

・中級~上級レベルのピアノ学習者
・すでにペダリングの基礎知識を持っている方
・より深い音楽表現を追求したい学習者
・音響学も含めたペダリングの理論的背景に興味がある学習者

以下の方には合わない可能性があります:

・ペダリングを基礎の基礎から学びたい初心者の方
・ペダリングについての網羅的な知識を得たい方
・完全な手取り足取りのハウツーを求めている方

 

► 内容の特徴と見どころ

 

1. 歴史的考察と現代への応用

著者は楽器の歴史的変遷に着目した指摘を行っています。例えば、ロマン派時代のピアノは現代のものと比べてダンパーのフェルトが柔らかく、消音効果が穏やかだったという事実から、当時の楽曲のペダリングを現代のピアノで再現する際の留意点を説明しています。

2. 実践的な譜例解説

本書では27の具体的な譜例を用いて実践的なペダリングを提案しています。特にベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番における解説は秀逸で、「フルペダル」の使用が必ずしも最適解ではないことを、説得力をもって論じています。

3. 科学的アプローチ

本書の特筆すべき点として、詳細な実験データと分析が挙げられます。例えば、(実験で使った)グランドピアノのダンパー機構について、全可動範囲のわずか20%で弦から完全に離れるという発見は、ペダリングの繊細なコントロールの重要性を裏付けています。

4. 充実した補遺と参考文献

73ページの本編に続く補遺では、実験方法や測定結果が詳細に記載されており、研究書としての価値を高めています。ただし、完璧な条件を整えた実験や測定というわけではなく、今後あらゆる学習をしていく時の判断材料の一つにする程度で読むのがいいでしょう。

 

► 本書の活用方法

 

より効果的に本書を活用するために、以下の書籍との併読をおすすめします:

・「ピアノ・ペダルの技法」(ジョーゼフ・バノウェツ 著) レビュー記事はこちらから
・「ピアノ・ペダルの芸術」(アルガーノン・H.リンド 著) レビュー記事はこちらから
・「ピアノ ペダリング」(ライマー・リーフリング 著) レビュー記事はこちらから

 

► 総評

 

本書は、ペダリングを単なるテクニックとしてではなく、音楽表現の本質的な要素として捉え直す機会を提供してくれます。

実験データに基づく客観的な分析と、著者の豊富な演奏・指導経験に基づく洞察が調和した本書は、ピアノ演奏の新たな視点を開く貴重な一冊と言えるでしょう

 

・ピアノを歌わせる ペダリングの技法 「いつ踏むか」ではなく「どう踏むか」著 : ヘルムート・ブラウス  訳 : 市田 儀一郎、朝山 奈津子 / 全音楽譜出版社

 

 

 

 

 

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

ピアノ音楽(ピアノソロ、ピアノが編成に入った室内楽 など)に心惹かれ、早何十年。
ピアノ音楽の作曲・編曲が専門。
物書きとしては楽譜だけでなく文章も書いており、
音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆を手がけています。
Webメディア「大人のための独学用Webピアノ教室」の運営もしています。
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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