【ピアノ】表現力と暗譜を向上させる2つの「通り過ぎる」テクニック
► はじめに
ピアノを弾くうえで、「通り過ぎる」という考え方は見過ごせない要素です。本記事では、音楽表現と譜読みという2つの側面から、この「通過」のテクニックを掘り下げていきます。
本記事の対象者:ピアノ演奏の初中級〜上級者(入門が終わってからの学習を推奨)
► 2種類の「通過」アプローチ
‣ 表現ハック:「通り過ぎる」だけにすべき音の見極め
· モーツァルト「ピアノソナタ 変ロ長調 K.570 第3楽章」より
モーツァルト「ピアノソナタ 変ロ長調 K.570 第3楽章」
譜例(PD作品、Sibeliusで作成、9-10小節)

10小節目に登場する32分音符のような「突然現れる細かいパッセージ」は、つい力が入って重くなりがちです。このような箇所では、「通り過ぎるだけ」と意識し、軽やかに弾くことを心がけましょう。
一般的に音楽的表現というと、すべての音を歌い込んだり、間を取ったりすることだと思われがちですが、「通り過ぎるだけ」というのも立派な表現手段です。
例外もありますが、特に「唐突に現れる細かい音の連なり」には注意を払いたいところです。
· ドビュッシー「前奏曲集 第1集 亜麻色の髪の乙女」より
ドビュッシー「前奏曲集 第1集 亜麻色の髪の乙女」
譜例(PD作品、Finaleで作成、2-3小節)

2-3小節目を見ると、Ges音が5回繰り返されています。この5つのうち、最も強調すべきはどれでしょうか。
答えは④です。
直感的には⑤と考えてしまいそうですが、以下の楽譜の指示から、④にアクセントが置かれると読み取れます:
・④から⑤へのデクレッシェンド記号
・④に付けられたテヌート記号
①②はフレーズ途中の短い音符として経過的に「通り過ぎるだけ」なので、それほどの重みは必要ありません。③はフレーズの終止音なので、音量を抑えて収束させるのが自然です。
‣ 譜読みハック:ページ送りを意識しない「通り過ぎる」体験の価値
暗譜が途切れやすいポイント
暗譜でつまづきやすい場所には、ある程度の共通性があります:
・段落の切れ目
・ページの切れ目
中でも「ページの切れ目」は、最も代表的なつまづきポイントと言えます。
ページ境界で記憶が途切れやすい理由
・楽譜を見ながら練習する際、ページの切れ目では必ず譜面をめくる動作が入る
・素早くめくったつもりでも、確実に演奏以外のことに意識が向いている
つまり、「ページ送りを意識せずに演奏し続ける」という体験が、暗譜完成まで一度も得られていないのです。これが主要な原因と考えられるでしょう。
解決策
効果的な2つのアプローチ:
・早期段階で、ページ境界部分だけでも楽譜なしで演奏できるようにする
・ページが切り替わる直後の箇所から弾き始める練習をする
使用している楽譜によってレイアウトは異なるため、「自分の楽譜での位置」で練習することが重要です。
前者はもちろんですが、後者の練習も欠かせません。ページ境界が不安定であれば、その直後から演奏を開始できるようにしておけばいいのです:
・具体的には「ページが変わった直後の最初の小節から」演奏できるようにしておく
・音楽的な区切りとは無関係な位置であっても、そこをスタート地点にできるようにしておく
・J.S.バッハのフーガなどの暗譜において、特に効果を発揮する練習法
この2つをマスターしておけば、ページ境界での不安はほぼ解消されるでしょう。
► 終わりに
「通り過ぎるだけ」という概念は、表現技術・譜読みの両面で重要な意味を持ちます。
すべてを際立たせようとするのではなく、適切に「通り過ぎるだけにする」ことで、演奏はより自然で美しくなります。また、暗譜練習においても「ページ送りを意識しない通過体験」を意図的に組み込むことで、より安定した演奏が実現します。
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