【ピアノ】「コンサート・プログラムのつくりかた」(千蔵八郎 著)レビュー
► はじめに
演奏発表会で「何を弾けばいいか分からない」「曲順をどう決めたらいいか悩む」と困った経験はありませんか。本書は、そんな中級以上のピアノ学習者の悩みを解決する実践的なガイドブックです。歴史的背景から具体的な選曲方法まで、プログラム作りのすべてがここに詰まっています。
・出版社:春秋社
・初版:2007年
・ページ数:149ページ
・対象レベル:中級〜上級者
コンサート・プログラムのつくりかた 著:千蔵八郎 / 春秋社
► 内容について
‣ 本書の特徴
1. 歴史的背景から始まる丁寧な解説
ピアノ音楽の歴史、ベネフィット・コンサートの始まり、そしてフランツ・リストによる最初のリサイタルまで、音楽史の流れを踏まえたうえで、プログラム作りの解説に入ります。
2. 実用的な「3つ+α」のタイプ分類
プログラムの組み立て方を以下の「3つ+α」のタイプに分類し、それぞれの特徴と効果が詳しく解説されています:
・タイプA:前半に複数曲を置き、後半に有名な大曲を1曲だけ弾くもの
・タイプB:前半にも後半にもいくつかの曲を並べて構成するもの
・タイプC:作曲家を音楽史に出てくる順に取り上げる形
・そのほかのタイプ
この分類により、自身のレベルや発表の場に応じた適切なプログラム作りが可能になります。本書で学べるプログラム分析方法は、将来的にも応用できる一生もののスキルとなるでしょう。
3. 巨匠たちの実例から学ぶ
ルドルフ・ゼルキン、マルタ・アルゲリッチ、クラウディオ・アラウ、ウラディミール・ホロヴィッツなど、名だたるピアニストたちの実際のリサイタル・プログラムが分析されています。曲順の特徴や、どのような演出効果があるのかが具体的に解説されています。
‣ 読み物としても楽しめる豊富なアドバイス
巨匠の発言の豊富な引用
レシェティツキ、ピリス、チェルカスキーなどの様々なピアニストの発言を引用し、一つの視点に偏らない多角的な解説が展開されています。チェルカスキーの計画的な練習法や、ベラ・ダヴィドヴィチの集中力の保ち方など、マインドセットのヒントが得られるのも良い点と言えるでしょう。
曲集の抜粋方法
組曲や連作曲から一部を抜粋して演奏する際の基本的な考え方についても解説されています。シューマンの「子供の情景 Op.15」では第1曲「見知らぬ国」は外せない、といった具体的な指針が示されています。
演奏会での実践的アドバイス
プログラム作りに留まらず、ステージでの「駆け引き」や衣装選びまで、実際の演奏会で役立つ情報も豊富です。長いコンサートでの休憩時間の取り方など、読み物としても楽しめるアドバイスが印象的です。
► 学習のポイント
本書の大きな価値は、「選曲のコツ」を体系的に学べることです。楽曲が変わっても応用できる考え方を身につけることで、将来的にどのような場面でも自信を持ってプログラムを組めるようになります。
特に重要なのは以下の3点です:
・聴衆の心理を考慮したプログラム構成
・音楽史的な文脈を踏まえた楽曲の配置
・「ピアニスト達がどんな作品を選曲しているか」を細かく分析すること
► 組み合わせ学習の提案
本書のプログラム作成学習をさらに深めるため、同じ著者による「ピアノ音楽史事典」の併読をおすすめします。両書を合わせて読むことで、より説得力のあるプログラム作りが可能になります。
活用方法の例:
・本書で出てきた楽曲の情報を調べる
・実際にプログラムを作る際の楽曲選択の資料にする
・ピアノ音楽の歴史的文脈を把握し、「タイプC」のプログラムを組み立てる参考にする
・ピアノ音楽史事典 著:千蔵八郎 / 春秋社
► 終わりに
「コンサート・プログラムのつくりかた」は、プログラム作りに悩むピアノ学習者にとって有益な実用書です。プログラム作りという一見地味なテーマを、これほど興味深く解説した書籍は珍しく、ピアノを学ぶ大人の方には特におすすめしたい良書です。
コンサート・プログラムのつくりかた 著:千蔵八郎 / 春秋社
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