【ピアノ】ボリス・ベルマン「ピアニストからのメッセージ」レビュー:教育現場に基づいた指導内容
► はじめに
イェール大学音楽学部教授として、また演奏家として活躍するボリス・ベルマンによる本書では、長年の教育経験と演奏活動から得られた深い考えが、実践的なアドバイスとして結実しています。冒頭の「喜びと迷いと発見の多くの時間を分かち合った私の生徒たちに」という献辞からも、著者の教育者としての真摯な姿勢が伝わってきます。
・出版社:音楽之友社
・邦訳初版:2009年
・ページ数:286ページ
・対象レベル:中級~上級者
・ピアニストからのメッセージ 演奏活動とレッスンの現場から ボリス ベルマン (著), 阿部 美由紀 (翻訳) 音楽之友社
► 内容について
‣ 本書の特徴
1. 実践に基づいた具体的な指導内容
本書の最大の特徴は、著者の教育現場での実体験に基づいた具体的なアドバイスの数々です。「こういう学生にこうアドバイスしたら上達した」という実例を交えながら、理論と実践の両面から論じています。
2. 豊富な引用と幅広い視点
ジョセフ・レヴィーン、ブレンデル、ウィリアム・ニューマン、ネイガウスなど、著名なピアニストや音楽家の言葉を適切に引用しながら、多角的な視点から演奏技術や音楽表現について考察を深めています。
3. 音楽性とテクニックの統合的アプローチ
本書では、テクニックを単なる指の動きとしてではなく、音楽表現の手段として捉えています。著者は「『美しい音』があるのではなくて、それぞれのスタイル、曲、パッセージに合った音があるのだ」と述べ、楽曲理解の重要性と、技術と音楽性の不可分な関係を強調しています。
‣ 主要なテーマ
練習法について:
・本番を想定した練習の重要性
・機械的な練習の危険性と、意識的な練習の必要性
・身体の不要な緊張への注意喚起
・レパートリーからの技術的課題の抽出と活用
音楽表現について:
・フレージングにおけるダイナミクスとタイミングの微妙な関係
・音楽における句読点の重要性と、その表現方法
・ルバートの適切な使用法と「基準となるテンポ」の概念
実践的なテクニック:
・ペダリングの詳細な解説(特に半踏みの効果的な使用法)
・指使いの選択基準
・暗譜の方法論
・本番でのミス対処法
‣ 特に印象的な指摘
著者の「テクニックというものは、そのピアニストの音楽の好みや理想、親しんでいるレパートリーの結果である」という指摘は、学習の本質を突いています。
また、「作品の中で最も重要な感情とその表れている箇所を見極める」という解釈へのアプローチは、作品研究の基本的かつ重要な視点を提供しています。
► 終わりに
本書は、深い音楽的視点と実践的なアドバイスの宝庫です。特に中級以上の学習者にとって、技術と音楽性の両面での成長を促す貴重な指針となるでしょう。
・ピアニストからのメッセージ 演奏活動とレッスンの現場から ボリス ベルマン (著), 阿部 美由紀 (翻訳) 音楽之友社
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