【ピアノ】ドキュメンタリー映画「グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独」レビュー
► はじめに
グレン・グールドを題材としたドキュメンタリー映画は数多く存在しますが、「グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独(Genius Within: The Inner Life of Glenn Gould)」は108分という上映時間を活かし、極めて充実した内容となっています。構成としては、前半51分までが31歳でコンサート活動を引退するまでの時期を扱い、後半がそれ以降のスタジオ録音やラジオ制作に専念した時期を描いています。この時間配分により、グールドの人生を丁寧に追うことができます。
・公開年:2009年(カナダ)/ 2011年(日本)
・監督:ミシェル・オゼ、ピーター・レイモント
・ピアノ関連度:★★★★★
► 内容について
‣ デビュー前から晩年までを網羅
本作の特徴は、デビュー前の時期にも20分程度を割いている点です。実は、デビュー盤として当初勧められていたのはJ.S.バッハの「インヴェンションとシンフォニア」だったという興味深い事実や、彼が作曲家になることを真剣に考えていたエピソードなど、一般にはあまり知られていない情報が豊富に盛り込まれています。
また、グールドのトレードマークとも言える低い椅子についても詳しく触れられており、座面が床から30センチという具体的な数値や、師匠のゲレーロも椅子が低かったという関連性も明かされます。
‣ 貴重な未公開映像とプライベート資料
本作の最大の魅力は、公開当時まで公にされてこなかったプライベート映像や資料の豊富さです。グールドの奇行として語り継がれてきた数々のエピソードが、ただの伝説ではなく、実際の映像や本人直筆の手紙によって裏付けられています。この信憑性の高さが、視聴者にグールドという人物をより深く理解させてくれます。
1957年のソ連ツアーでのエピソードや、コンサートでの度重なるキャンセルとその理由についても、関係者の証言を交えながら丁寧に描かれています。
‣ 音楽的洞察の深さ
音楽ファンやピアノ学習者にとって必見なのが、モーツァルトの「ピアノソナタ イ長調 K.331 第1楽章」を弾きながら、グールド自身が解説を行う映像です。彼がただ風変わりな解釈で演奏しているのではなく、明確な音楽的意図に基づいていることが理解できる貴重なシーンとなっています。
また、レナード・バーンスタインとの共演におけるエピソードでは、世間からの批判も含めて取り上げられており、当時の音楽界におけるグールドの立ち位置が浮き彫りになります。ウラディーミル・アシュケナージをはじめとする著名音楽家たちのインタビューも、専門的な視点からグールドを評価する内容として価値があります。
‣ ラジオ制作への情熱と人間性
60年代以降、グールドはラジオ番組の制作に情熱を注ぎますが、その制作現場でのディレクションの実際の映像も含まれています。ストイックで妥協を許さず、細部にまでこだわるコントロールフリークぶりは、関係者にとって大きな負担でした。
しかし、一緒に仕事をしていたエンジニアのローン・トークとのエピソードからは、グールドの義理深い一面が垣間見えます。夜中の1時半か2時にパブを出て歩いて行くと、必ずグールドが座って待っていて車で家まで送ってくれたという証言は、彼の人間的な温かさを物語っています。70年代のエピソードからも、そうした義理深さが随所に感じられます。
‣ プライベートな側面
60年代以降の恋愛事情についても、本作では当事者たちが証言しています。グールドを愛した女性たちの言葉は、天才ピアニストとしてではなく、一人の人間としてのグールドを理解するうえで貴重な資料となっています。
さらに、ペトゥラ・クラークのポップスを運転中に大音量で聴いていたことや、長電話で有名だったことなど、親しみやすい小ネタも数多く紹介されており、グールドの人間味あふれる日常が伝わってきます。最初で最後となったポップス企画への関わりについても触れられています。
‣ 苦悩と晩年
70年代の偏屈症などの苦労についても正直に描かれており、天才ゆえの孤独や葛藤が浮き彫りになります。晩年のゴルトベルク変奏曲の録音に関するエピソードでは、デビュー盤と対をなす完成された芸術への到達過程が語られます。
そして50歳という若さでの死に至るまでのエピソードは、感動的であると同時に、才能が失われることの悲しさを感じさせます。
‣ 豊富な特典映像
本編だけでも十分な情報量ですが、22分間の特典映像も見逃せません。グールドと親交の深かった音楽家ルース・ワトソン・ヘンダーソンや、当時の恋人たち、仕事のパートナーなどの本編未使用インタビューが収録されており、コーネリア・フォスがグールドの音楽、哲学、イメージについて語る内容など、さらに深い理解を得ることができます。
► 終わりに
本作では、エキセントリックな言動の奥にある真摯な芸術家としての姿勢、人間としての温かさと孤独、音楽への飽くなき探求心が、豊富な資料と証言によって多角的に描かれています。
生誕80周年・没後30年を記念してリリースされた本作は、グールドという天才ピアニストの本質に迫る決定版ドキュメンタリーと言えるでしょう。
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