【ピアノ】ファインマン・テクニックをピアノ学習に応用する方法
► はじめに
多くのピアノ学習者が「弾けているから分かっている」という錯覚に陥りやすく、この見えない落とし穴が上達の壁になっていることがあります。
本記事では、ノーベル物理学賞を受賞した物理学者リチャード・ファインマンが実践したとされる学習法「ファインマン・テクニック」に着目し、これをピアノ学習に応用する具体的な方法を紹介します。書くこと、教えること、仲間と議論すること——このテクニックを学習の中心に置くことで、「分かっているつもり」の曖昧さを着実に解消していきましょう。
► ファインマン・テクニックとは
ノーベル物理学賞を受賞した物理学者リチャード・ファインマンが実践したとされる学習法です。そのコアにあるのは、「誰かに教えられるレベルまで理解できていなければ、本当に理解しているとは言えない」という考え方です。
具体的なプロセスは:
1. 学ぶ:テーマを選び、自分なりに理解する
2. 教える(アウトプット):子どもや初心者に説明するつもりで、シンプルな言葉で書き出す
3. 詰まった箇所を特定する:うまく説明できない部分=まだ理解できていない部分
4. 再インプット:不明箇所に戻り、もう一度学び直す
5. 繰り返す:シンプルに説明できるまでこのサイクルを回す
「理解しているつもり」が最も怖いと言えるでしょう。ファインマン・テクニックはその「つもり」を容赦なく暴き出します。
► なぜ、これがピアノ学習に効くのか
ピアノの学習者がよく陥るのが、「弾けているから理解している」という錯覚です。
楽曲の理解が深まると解決されるテクニックもありますが、指が動いていることと、楽曲を理解していることは一部別物です。例えば、J.S.バッハのインヴェンションを弾けるようになった学習者に「なぜ、ここで声部がこう動くのか」と問うと、多くの場合は言葉に詰まってしまうことでしょう。つまり、指は動いていても、音楽は理解されていないわけです。
また、音楽理論学習で「裏コード」を暗記するのではなく、「なぜ、裏コードと呼称するのか」「なぜ、裏コードに置き替えることができるのか」の理解も不可欠です。それができないと、忘れたときに自力で導き出せませんし、人にも説明できません。
ファインマン・テクニックは、こういったギャップを埋めるための強力な武器になります。
Piano Hack の記事執筆は「実践そのもの」
筆者自身、当サイト「Piano Hack」の記事執筆を「自身の再学習」と位置づけています。これはファインマン・テクニックの実践を意識しています。
その日に書く内容を、まるでもう一度自分が初めて学ぶかのように向き合い直す。アウトプットとインプットを同時に行うことで、「分かっているつもり」の部分が何度も浮き彫りに。専門的な内容であればあるほど、読者に伝わるシンプルな言葉を探す過程で、自分自身の理解が深くなることを実感してきました。
► ピアノ学習への具体的な応用 5選
‣ 1. 楽曲分析を「説明文」として書き出す
今学んでいる曲の構造を、音楽を知らない友人に説明するつもりで文章にしてみましょう。「ここのモチーフは冒頭のモチーフが拡大形になっている」などといった内容を、できる限りシンプルな言葉で書き出します。
詰まった瞬間が重要です。例えば「このモチーフは何となく既出の雰囲気がある」とは言えても「どことどう関連しているのか」を説明できなければ、そこが今の自分の理解の限界だと思ってください。そこを起点に楽曲分析を深め直しましょう。
‣ 2. 練習の「気づき」を毎回言語化する
練習後にその日気づいたことを一言でいいので書き出す習慣をつけましょう。「3小節目の左手の動きが重くなる」「テンポが上がると第2主題の音量バランスが崩れる」などといった具体的な観察を言葉にすること自体が、ファインマン・テクニックの第一歩です。
言語化できない気づきは、まだ自分の中で整理されていないサインです。
‣ 3. 音楽理論をアウトプット前提でインプットする
和声法や対位法を学ぶとき、「理解したら誰かに教える」という前提で学ぶのとそうでないのとでは、定着率が大きく変わります。例えばドッペルドミナントについて学んだのであれば、「これを音楽歴がまだ浅い友人に説明するとしたら?」と自問し、書き出してみましょう。
当サイトの「コードネーム学習の完全ロードマップ」などの記事を読む際にも、読んだそばから自分の言葉で要約する癖をつけると効果が倍増します。
‣ 4. マウンティングではない教え合いの活用
一部の音大では、選択科目として「ピアノの教え方」に関するクラスも開講されています。筆者が学んだ学校では、学生同士でペアを作り、生徒役と指導者役に分かれて模擬レッスンを行い、担当教員や他の履修者からフィードバックをもらうという形式でした。
このとき重要なのは、「改善すべき点を探す」だけでなく「良い点を評価する」こと、そして「なぜそのようにしようと思ったのか」という素朴な疑問を投げかけることです。
指導者役を担当した学習者に特に大きな学習効果が生まれます:
・一人で弾いていると気づきにくいことを、客観的な視点で把握できる
・指摘したいのに言葉にできない部分が浮き彫りになる
・生徒役からの質問に答えられず、自分の理解の限界を知る
・学習者がプライドを持っていることへの気づきも得られる
この方法は独学者でも取り入れられるので、まずは「レベルが近い友人」とペアを組んでみましょう。力が大きく離れていると、どちらかが無意識に相手の意見を軽視してしまったり、マウンティングのようになってしまう可能性があるためです。
音楽仲間同士で了解のうえ行えるこの方法、ぜひ積極的に活用してみてください。
‣ 5. 机を囲んで騒ぐ学習は超有益
筆者の指導では、数人でピアノや机を囲みながら一つの作品についてひたすら分析し、意見を出し合うゼミ形式の授業を行うことがあります。筆者自身も大学院時代に経験した学習方法で、非常に効果的だと感じました。
このスタイルで生まれる学習効果は以下のようなものです:
・自分では疑問に思わなかった箇所でも、他者の話を聞くことで考えの甘さに気づける
・一人では解決できなかった疑問が、他者の意見で解決される
・何となく分かりかけていたことが、ディスカッションを通じてさらに深まる
ファインマン・テクニックの本質は「説明することによる理解の深化」ですが、一人でノートに書くだけでなく、仲間と話すことでそのプロセスがよりダイナミックになります。
ピアノの演奏上達には一人で楽器に向き合う時間が不可欠ですが、楽曲分析やピアノ音楽史の学習においては、音楽仲間とこのスタイルを積極的に取り入れてみてください。「みんなで」楽しく進めることが、長く続けるための鍵でもあります。
► 終わりに
ファインマン・テクニックをピアノ学習に取り入れる意義は、「弾けているつもり」「分かっているつもり」という曖昧な理解を、確かなものへと変換していく点にあります。
アウトプットは、ただの成果発表ではなくインプットの一部です。書き出すこと、友人に教えること、仲間と議論すること、あるいはブログ記事として発信すること、これらすべてが学習そのものです。
Piano Hackの記事を読む際にも、ぜひ「読んだ内容を自分の言葉で説明してみる」ひと手間を加えてみてください。それだけで、同じコンテンツから得られる学習効果が大きく変わるはずです。
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