【ピアノ】楽譜に演奏指示がない曲をどう弾く?解釈と分析の実践ガイド

スポンサーリンク
スポンサーリンク

【ピアノ】楽譜に演奏指示がない曲をどう弾く?解釈と分析の実践ガイド

► はじめに

 

・「レッスンで習った曲だけは音楽的に弾けるけど、新しい曲になるとどうやって解釈していいか分からない」
・「楽譜にあまり指示がない曲の場合、特に困る」
・「レッスンを受けなくても一人で音楽的な演奏までたどり着きたい」

ピアノを学ぶ多くの方が抱えるこのような悩みを解決するには、自分自身の力で楽譜を深く読み取り、適切な解釈と分析眼をもって演奏できる力を育てる学習が必要です。

 

本記事の目的

短くて勉強しやすい楽曲を1曲だけ取り上げて、重箱の隅を突くような細かな解釈と分析を行う様子をご覧に入れます。こういった過程を通して自身の引き出しを少しづつ増やしていくことで、一人で音楽的な演奏までたどり着く力がついてくるでしょう。

今回紹介するような分析や解釈方法は、楽曲が複雑になっても基礎として応用していくことができます。困ったことがあったら本記事を読み返し、そのツボを見直してみてください。

 

► 教材について

 

今回の教材:ツェルニー100番 より 第3番

ツェルニー100番というのは1曲1曲は短くても100曲もあるため、正直トゥーマッチだと感じてしまう方も多いでしょう。しかし、中~上級になってからあえて抜粋で使うのは良い練習になると考えています。

※本記事では、中級以上の学習者がこの楽曲をやり直すことを想定し、やや高度な内容を扱っています。

 

重要な前提

原曲ではアーティキュレーションやダイナミクス記号は一切つけられていません(各種エディションで記載のアーティキュレーションは出版にあたってのものです)。したがって、まっさらということで解釈をするうえでの教材として扱いやすく、なおかつ短く引き締まった楽曲なので、勉強しやすいと思い取り上げました。

 

► 実践例

‣ 楽曲の基本構成

 

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、全曲)

「ツェルニー100番 より 第3番」全曲の楽譜(筆者による演奏指示書き込み付き)

※譜例の演奏指示は、すべて筆者の解釈で書き込んだもの

 

リピートはありますが、楽曲の構成としては「8小節×2」の2部構成です。もう少し細かく切っていくと以下のようになります。

小節 構成 詳細
1-4小節 小楽節 合わせて大楽節(前半部)
5-8小節 小楽節
9-12小節 小楽節 合わせて大楽節(後半部)
13-16小節 小楽節

 

‣ ペダリングの解釈

 

(再掲)

「ツェルニー100番 より 第3番」全曲の楽譜(筆者による演奏指示書き込み付き)

バロック・古典派におけるダンパーペダルの使い方

ダンパーペダルは音を伸ばすためだけに使うのではありません。バロックや古典派の作品におけるダンパーペダルの使い方として、「強拍のビートを出す」使い方があります。

 

具体的なペダリングのテクニック:

1. 強拍でチョンっと踏んで滑らかに離す

こうすることで強拍にビート感が出ると同時に、ベースの音に倍音がついて印象的な耳に残るベース音になります。

2. ベース音の残響効果

例えば、1小節2拍目ではもう1拍目のベース音は消えています。しかし、ペダリングで印象的な耳に残るベース音にしていることで、消えても「耳に残っている」効果を出せます。

3. 2グルーブでの踏み方

3小節目では、一つの小節が2分割(2グルーブ)されていると解釈できるので、ダンパーペダルを2箇所踏みます。

 

重要ポイント

ダンパーペダルはONとOFFしかないスイッチではありません。滑らかに離すことで余韻の残り方が大きく変わります。

 

‣ 最終小節のペダリング

 

最終小節のペダリングは、1拍ずつ余韻をつけるようにします。手はテヌートスタッカートで演奏し、余韻も含めて1拍分の長さになるようにすると音楽的に聴こえます。

 

注意

この箇所に rit. を書き入れましたが、リピートをした後の一番最後のみ rit. します。楽曲が短いので rit. をやり過ぎるとバランスを欠いてしまうことに注意してください。トゥーマッチとならないように、少しだけテンポをゆるめれば十分でしょう。もちろん、8小節目は rit. しません。

 

‣ ダイナミクスの解釈

 

(再掲)

「ツェルニー100番 より 第3番」全曲の楽譜(筆者による演奏指示書き込み付き)

音の「デンシティ(密度)」の分析

ダイナミクスを考える際に大事なのは、音の「デンシティ(密度)」の分析です。

デンシティの変化を読み取る:

・4小節目の右手に和音が出てくる
・7-8小節目には左手の和音が出てくる
・最終小節にも左手の和音が出てくる
・それ以外の箇所では、縦に見たときに同時に鳴っている音は2つのみ(左手1音と右手1音)
・和音が出てきた箇所は、縦に見たときに3音鳴ることとなり、その部分はデンシティが濃くなる

 

音域の分析:

・4,7,15小節目にはこの楽曲で一番低いG音が出てくる
・最終小節にはこの楽曲で一番高いC音が出てくる
・したがって、これらの箇所がヤマになる可能性を疑うのが次の段階

 

ダイナミクスの全体設計

前半(1-8小節):4小節目および8小節目で前半のヤマがきます。

後半(9-16小節)

9小節目からの後半は、雰囲気を変えて弱奏からスタートさせます。各セクションが短い2部構成の楽曲なので、前半の始まり方と後半の始まり方は雰囲気を違うものにしたほうが、構成としてはメリハリの効いたものになると判断しました。

・12小節目に一つのヤマがくるが、最終小節へ向けてまだ mf 程度で抑えておく
・13小節目はまた p のダイナミクスに戻してもいいが、9-12小節と13-16小節を階段のように扱うのもダイナミクスの段階が見えて音楽的だろうと判断したため、mp にしている
・16小節目は最高音のC音が出てくる、この楽曲の堂々締めくくり。一番強いダイナミクスにしている

恥ずかしがらずにしっかり鳴らして終わりましょう。最後も通常の f にしてしまうと、少なくとも譜面上では同じフォルテが3回出てきてしまうことになり、一番の頂点が表現できません。

 

楽譜から読み取る強弱の必然性

前半の締めくくりの8小節目と後半の締めくくりの16小節目の音遣いを比較すると、16小節目のほうにより高いエネルギーがきてクライマックスが作られているのは一目瞭然。メロディはもちろん、左手の和音の多さにも違いが見られます。

よくある問題

音楽に感覚は大事ですが、こういう16小節目で何となく静かにおさめてしまうのは「感覚的な演奏」ではなく「音楽の中身を明らかに読み取れていない演奏」です。楽譜のウラから、はっきりと強弱の差が読み取れるからです。

 

クレッシェンドとデクレッシェンドの鉄則

クレッシェンドは後ろ寄りで

これが多くの場合に共通する鉄則です。クレッシェンドはかけるのを急がないことが重要です。また、フレージングのことを考えるとフレーズごとにカタマリとしてダイナミクスを上げていく「段階的なクレッシェンド」にするのも一つの手。難しければ、グーっと上げていくクレッシェンドでも構いません。

デクレッシェンドの位置

音型的に音楽が閉じていくところにだけデクレッシェンドを書き込んでいます。音楽が開いていくところでデクレッシェンドをすると、音楽的な演奏の逆を行ってしまいます。例えば、9-11小節のように両手の音域が反進行で開いていくところでは、デクレッシェンドは明らかにふさわしくありません。どこでデクレッシェンドをするかの決定に音楽的な理解度が出てしまうことを理解しましょう。

 

‣ 和声の分析

 

(再掲)

「ツェルニー100番 より 第3番」全曲の楽譜(筆者による演奏指示書き込み付き)

次に和声について見ていきましょう。

現状和声の知識がなくても理解できるように、「和声 理論と実習(音楽之友社)」で使われている和声記号を使わずに、もっとシンプルに捉えていきます。トニック、ドミナント、サブドミナントの意味だけ理解していれば、読み進めることができます。未学習の方は、楽典の参考書をご覧ください。

 

前半(1-8小節)の和声進行

小節 和声 備考
1小節目 1~2拍目:トニック / 3~4拍目:ドミナント 1小節2和音
2小節目 1~2拍目:トニック / 3~4拍目:ドミナント 1小節2和音
3小節目 ずっとトニック 1小節1和音
4小節目 ずっとドミナント 1小節1和音
5~6小節 繰り返し 1小節2和音
7小節目 1~2拍目:トニック / 3~4拍目:ドミナント 1小節2和音
8小節目 ずっとトニック 1小節1和音

 

後半(9-16小節)の和声進行

小節 和声 備考
9小節目 ずっとドミナント 1小節1和音
10小節目 ずっとトニック 1小節1和音
11小節目 ずっとドミナント 1小節1和音
12小節目 ずっとトニック 1小節1和音
13~14小節 繰り返し 1小節1和音
15小節目 ずっとドミナント 1小節1和音
16小節目 ずっとトニック 1小節1和音

 

重要な発見:

9小節目以降の後半は、すべて1小節1和音。「和声が変わるということはそれ自体が一種のリズム表現」です。後半は「長い息で最終小節の一番のヤマへ向かっていく」という意味で、細かく和声が変わらないのは理にかなっています。

楽曲によっては、あえて和声チェンジを細かくすることでクライマックスへ向けた咳き込みを作り出す楽曲もあるので、それぞれの楽曲における表現方法を読み取りましょう。

 

・前半では、1小節2和音での細かな和声リズムが、一区切りの4小節目では1小節1和音に落ち着いていて
・5小節目からはまた1小節2和音での細かな和声リズムになり
・一区切りの8小節目では1小節1和音に落ち着いている

シンプルなようでいて、考えられています。

 

注目ポイント

サブドミナントがこの楽曲では一度も出てきません。すべてドミナントとトニックの繰り返しのみで構成されています。

 

‣ テンポの感じ方について

 

(再掲)

「ツェルニー100番 より 第3番」全曲の楽譜(筆者による演奏指示書き込み付き)

音価によるテンポの感じ方

1-3小節では、一番細かい音価として8分音符の刻みがありますが、4小節目では4分音符の刻みになります。ここでテンポの感じ方に差が出てきています。「テンポ」が同じ中で「音価によるテンポの感じ方」を変えていくことでメリハリをつけている点に着目しましょう:

・8小節目では2拍目までで8分音符の刻みが終了し、区切りとしての停滞感を演出
・9-11小節では、一番細かい音価として8分音符の刻みがあるが、12小節目では4分音符の刻みになる
・これは、前半部分1-4小節のやり方と同じ
・13小節目~最終小節も同様

 

作曲法の理解

この楽曲では区切りとしての停滞感が欲しいところで「音価によるテンポの感じ方(音価の細かさ)」を遅くするという作曲法がとられています。

 

‣ 左手のラインと対話

 

(再掲)

「ツェルニー100番 より 第3番」全曲の楽譜(筆者による演奏指示書き込み付き)

左手の美しいメロディを発見する

左手の1拍目と3拍目の音のみを取り出してみてください。ピアノで弾くか、もしくは歌ってみてください。これだけでも美しいメロディになっています。

譜例(全曲、左手の1拍目と3拍目の音のみを取り出したもの)

「ツェルニー100番 より 第3番」:左手の1拍目と3拍目の音のみを取り出した譜例。

練習方法:

・左手だけを取り出して練習するときに、このラインをカンタービレで演奏できるように意識する
・両手で合わせたときには、右手のメロディと左手のこのラインが対話するように練習する
・こうすると、音楽が一気に立体的になる

この楽曲では、和音が出てくる数箇所以外は、縦に見たときに同時発音している音は2つのみです(左手1音と右手1音)。つまり、基本的には2本の線で音楽が進行していくということです。そう考えると、右手のメロディと左手のラインが対話するように演奏することの重要性が分かるのではないでしょうか。

 

反進行のエネルギー

9-11小節に向けて両パートの進行方向が反行しているので、この開いていくエネルギーを演奏の際に意識してクレッシェンドしていきます。9-11小節の各小節頭の音をたどっていくと「H-C-D-E」というメロディが内包されているので、それも見落とさないように注意しましょう。

 

‣ 似ている箇所の比較分析

 

(再掲)

「ツェルニー100番 より 第3番」全曲の楽譜(筆者による演奏指示書き込み付き)

3小節目と10小節目の違い

3小節目と10小節目を見比べてみてください。右手は同じですが、左手の音型が異なります。

・3小節目:Ⅰ度の第一転回形からⅠ度の基本形へ
・10小節目:ずっとⅠ度の第一転回形

似ているようで和声として違いがあります。

 

分析のコツ

分析や解釈をするときには、このように似ている箇所を見つけ出してどう違うのかを分析することが大切です。そうすることで前後関係とのつながりをどう演奏するかといったような音楽の流れを見ていくヒントになります。

ここでは、前後関係を考慮し以下のように解釈しました:

・3小節目:2分割(2グルーブ)にする
・10小節目:1分割(1グルーブ)とする – 同形で次の小節も繰り返すため、1分割継続のほうがいいと判断

14小節目も10小節目と同じです。

 

‣ 繰り返しの法則

 

(再掲)

「ツェルニー100番 より 第3番」全曲の楽譜(筆者による演奏指示書き込み付き)

作曲を学ぶ基礎段階で広く教わる「繰り返しの法則」があります。

「繰り返しは3回まで、そして3回目は少し変えるべき」

実際の楽曲ではもちろん例外はあるのですが、この楽曲では当てはまっています。

 

この楽曲での繰り返しパターン:

・1-2小節:同型の繰り返し → 3小節目:カタチが変化
・5-7小節:メロディも3回目でカタチが変わっている
・13-15小節:メロディも3回目でカタチが変わっている
・9-11小節:唯一、3回とも同じカタチの繰り返しがとられている

 

‣ テンポに関するワンポイントアドバイス

 

(再掲)

「ツェルニー100番 より 第3番」全曲の楽譜(筆者による演奏指示書き込み付き)

Moderato について

原曲には「Moderato」という速度用語が書かれています。このModeratoという速さは「思っているよりも速い可能性が高い」と考えてください。

この楽曲はエチュードなので、ある意味では「フィジカル的な挑戦」をしないとエチュードにはなりません。何でもかんでも速いテンポで弾けばいいというわけではないですが、「最終的に速いテンポまで仕上げることで訓練になる」「速いテンポで弾いたほうが上手に聴こえる楽曲もある」ということを頭の片隅に置いて欲しいと思います。

ここまで細かく解説してきたので、それを踏まえたうえである程度のテンポで演奏すれば、音楽がまとまるはずです。

 

► 終わりに

 

短い楽曲ですが、これだけ多くの音楽的要素が詰まっています。一つ一つの要素を丁寧に分析し、解釈を加えることで、楽譜の奥にある作曲家の意図や音楽の構造が見えてきます。

この分析プロセスを他の楽曲にも応用してみましょう:

・デンシティ(音の密度)の変化を読み取る
・和声進行から音楽の流れを理解する
・音価の変化からテンポ感の違いを感じ取る
・似ている箇所を比較して違いを分析する
・音楽が「開く」「閉じる」を見極める

自分自身で楽譜を深く読み取る力が身につけば、レッスンを受けなくても音楽的な演奏にたどり着くことができるようになります。本記事で紹介した方法を参考に、様々な楽曲で実践してみてください。

 

推奨記事:

【ピアノ】「最新ピアノ講座」演奏解釈シリーズのレビュー:演奏解釈とピアノ音楽史を一冊で学ぶ
【ピアノ】楽曲内比較分析法:類似箇所との比較で考える分析と解釈のコツ
【ピアノ】奏法や解釈を吟味する過程をすっ飛ばさない

 


 

► 関連コンテンツ

著者の電子書籍シリーズ
・徹底分析シリーズ(楽曲構造・音楽理論)
Amazon著者ページはこちら

YouTubeチャンネル
・Piano Poetry(オリジナルピアノ曲配信)
チャンネルはこちら

SNS/問い合わせ
X(Twitter)はこちら

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました