【ピアノ】ショパン「エチュード Op.25-7」演奏完全ガイド

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【ピアノ】ショパン「エチュード Op.25-7」演奏完全ガイド

► はじめに

 

曲の背景

「エチュード(練習曲)嬰ハ短調 Op.25-7」は1835年に完成した作品です。この曲は、緩やかなテンポで奏でられる無言歌的なスタイルを採用しており、音楽的な表現力の向上に重点が置かれています。楽曲全体を通して、上声部と下声部に独立した2つのメロディーラインが配置され、その間を内声部が和音の伴奏で埋めるという構造になっています。フルート(あるいはクラリネット)とチェロによる二重奏を思わせるような、外声部同士の美しい対話を存分に味わうことができるでしょう。曲の構成としては、低音域のメロディーのみで始まる導入部を経て、二重奏的な主要部分へと展開していきます。

(参考文献:名曲事典 ピアノ・オルガン編 著:千蔵八郎

 

演奏難易度と推奨レベル

この楽曲は「ツェルニー40番修了程度」から挑戦できます。

 

本記事の使い方

この楽曲を、演奏のポイントとともに解説していきます。パブリックドメインの楽曲なので譜例も作成して掲載していますが、最小限なので、ご自身の楽譜を用意して読み進めてください。

各セクションごとに具体的な音楽的解釈を示していますので、練習の際に該当箇所を参照しながら進めることをおすすめします。

 

► 全体の構成を把握する

 

まず楽曲の「形式」を理解しましょう。大きく分けると次のような構造になっています:

・序奏(小節線がないため、小節数にカウントしない)
・A(1-20小節)8小節+12小節
・B(20-44小節)1小節+8小節+8小節+4小節+4小節
・A’(45-68小節)8小節+7小節+7小節+2小節

全体としては大きく3部に分かれています。

 

► 演奏のヒント

‣ 曲頭:小節線のない記譜の扱い

 

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲頭)

ショパン「エチュード Op.25-7」の楽譜。曲の冒頭が示されており、小節線がない部分でも音価を意識することの重要性について解説している。

序奏部分は小節線が省かれています。

 

記譜の意図

カデンツァやレチタティーヴォ的場面でよく見られる書法で、「拍節に過度に縛られないで欲しい」という意図があります。

演奏の落とし穴

しかし、完全に自由に変形させてしまうのは問題です。ショパンは小節線を書かなかったものの、音価は明確に指定しています。

適切なバランス

4分音符のカウントを体内で意識しながら、骨格を保ったうえで多少自由に演奏するのが正解です。この順序を逆にしてはいけません。まず骨格を把握し、そのうえで表現の自由を加えるのです。

 

‣ 曲頭:装飾音符の役割

 

譜例(曲頭)

ショパン エチュード Op.25-7 1-3小節 小音符によるフレーズ接続を示す譜例

3/4拍子になってすぐに現れる小音符のE音には特別な意味があります。

 

構造的理解:

・小音符E音 → 先行する序奏フレーズの終止音
・直後のオクターブ上E音 → 3/4拍子で始まる主部の開始音

ショパンは時折、このような装飾音符を使って2つのセクションを有機的につなぐ手法を用いました。これにより音楽に自然なうねりが生まれます。

 

演奏上の留意点

小音符E音の音色を、それまでの序奏部分と統一することが重要です。うっかりすると次のフレーズの一部として扱いがちですが、それでは3/4拍子への移行が唐突に聴こえてしまいます。小音符は「前の部分の最後」として捉え、そこまでの音色を保ったまま演奏しましょう。

 

‣ 6-8小節:3連符の連続を歌わせる

 

譜例(6-8小節)

ショパン エチュード Op.25-7 6-8小節の楽譜 左手3連符が連続する箇所

左手にチェロのような旋律が現れ、3連符が連なる箇所です。

 

グルーピングの考え方

3連符が2つ続く場合、「3×2」と数えると刻んだ印象になり、スムーズな歌が損なわれます。6音を一つのまとまりとして感じることで、自然なフレージングが可能になります。

特にルバート気味に歌うこの場面では、音の塊として捉える意識が効果的です。他の楽曲でも連符が続く際は、フレーズ線などを参考に適切なグルーピングを検討してください。

 

‣ 16-17小節:分散和音でも歌を失わない

 

譜例(16-17小節)

ショパン「エチュード Op.25-7」16-17小節の譜例。

分散和音でも、一つ一つの音を丁寧に歌う

カギマーク部分では和音構成音内での単純な動きになりますが、ここで急に表情が平板になる演奏をよく耳にします。伴奏的な分散和音では、バス音以外を控えめに弾くことも多いですが、ここは明確に旋律線なので扱いが異なります。

すべての音に軽いテヌートがついているイメージで、一音ずつ丁寧に指圧をかけて弾きましょう。

 

‣ 18-19小節:付点リズムの柔軟な解釈

 

譜例(18-19小節)

ショパン「エチュード Op.25-7」18-19小節の付点リズム部分

「付点16分音符+32分音符」のリズムが登場します。

 

機械的な正確さの落とし穴

この箇所を厳密に譜面通りのリズムで演奏すると、柔らかい曲想に合わず、むしろ不自然に聴こえます。

適切なアプローチ

32分音符をごくわずかに長めに演奏します。ただし、基本的なリズムの骨格が崩れない程度に留めることが肝心です。「鋭さを和らげてはいるが、記譜するならやはり付点16分+32分しかない」という程度の微調整です。

変な間が空いたような不自然さが出ないよう、録音で確認しながら最適な加減を探ってください。別の音価で記譜できるほど崩すと、音楽の本質が変わってしまいます。

 

‣ 22-25小節:臨時記号が密集する高速パッセージ

 

譜例(22-25小節)

ショパン「エチュード Op.25-7」の22-25小節の楽譜。複付点と付点のリズムが混在している部分。

非常に多くの臨時記号が付いた、技術的に難しい箇所です。

 

効果的な練習法

このような複雑なパッセージは、ゆっくり通して練習するだけでは習得できません。「8分音符単位で区切り、各単位を高速で弾けるようにしてから接続する」方法が有効です。

 

「拍頭止め」練習

譜例(22小節目のパッセージにおける、拍頭止めの練習)

ショパン「エチュード Op.25-7」の練習方法を示した楽譜。拍頭止め練習法を図解した楽譜。

1. 次の拍頭まで速く弾く
2. そこで8分音符分停止
3. また次の拍頭まで速く弾く
4. これを繰り返す

短い単位であれば、複雑なパッセージも速く弾くのはさほど困難ではありません。各単位を完璧にしてからつなげれば、スムーズに演奏できるようになります。

付加的効果:

・拍頭の音を覚えることで暗譜が強化される
・拍子感が整理され、音楽理解が深まる

この練習は譜読み段階から有効に機能します。

 

付点と複付点の混在に注意

22-25小節では付点と複付点が細かく使い分けられています。複付点を通常の付点で弾いてしまうミスが多く見られるため、譜読み時に十分注意してください。使用楽譜の版による違いも確認し、整理しておきましょう。

 

‣ 27小節目:58連符と右手の合わせ方

 

譜例(27小節目)

ショパン エチュード Op.25-7 27小節目の楽譜 58連符と右手6打点の合わせ方の分析譜例

左手に58音、右手に6打点という複雑な組み合わせが登場します。

 

数学的解決の限界

58÷6=9.666…で割り切れません。厳密な等分は不可能ですし、その必要もありません。

実践的アプローチ

「9-9-9-9-9-13」の配分を推奨します。

この配分の利点:

・9を「3+3+3」で数えられるため、練習しやすい
・最後の13音は次小節へ突き込む勢いが音楽的に自然
・小節頭の riten. と矛盾しない

riten. は「その場所から即座にテンポを落とす」指示ですが、音数が多く自然と遅くなるので、意識的に減速する必要はありません。

 

楽譜の視覚的配置に惑わされない

出版社の浄書状態で音符間隔は変わります。視覚的に縦が揃って見えるところで合わせる必要はありません。

この練習で身体が合わせどころを覚えれば、最終的に「大体のところで合わせて始終のみ揃える」本来の演奏法に戻しても、スムーズに弾けるようになります。

 

‣ 28-29小節:左手のカンタービレライン

 

譜例(28-29小節)

ショパン エチュード Op.25-7 28-29小節 左手カンタービレラインのつなぎ目に丸印

伴奏的な動きの中からウタを見つける

ここでは右手のトップノートが主役ですが、左手も非常に歌謡的なラインを形成しています。

伴奏として流すのではなく、積極的に歌わせましょう。特に譜例で示したような「つなぎ目」が歌いどころです。このバルカローレ風の箇所では、副次的な声部に隠れたウタが潜んでいることが多いのです。

 

‣ 33-36小節:伴奏リズムの変化の意図

 

譜例(33-36小節)

ショパン「エチュード Op.25-7」の33-36小節の楽譜。35小節目の内声のリズムが変化している部分。

35小節で右手内声の打点数が減少します。

 

作曲上の意図

36小節のフェルマータで音楽が大きく変化しますが、急激過ぎる転換を避けるため、前もって伴奏の密度を下げていると考えられます。これにより、フェルマータでの休止が自然に感じられます。

このような作曲技法は、演奏解釈を考えるうえでもヒントになるでしょう。

 

‣ 39-41小節:「沈黙」への溶け込み

 

譜例(39-41小節)

ショパン「エチュード Op.25-7」の39-41小節の楽譜。「沈黙」の意味を考えるための譜例。

沈黙における空気感

音が途切れた後の休符への処理が重要です。

この箇所では、直前からの自然な流れで余韻が休符へと溶け込んでいきます。急激な断絶ではなく、響きが徐々に消えていくイメージ。

休符の性格はその前後の文脈で変わります。様々なタイプの「沈黙」を考えることで、余韻処理のニュアンスを洗練させましょう。

 

‣ 52小節目:半音階の運指選択

 

譜例(52小節目)

ショパン「エチュード Op.25-7」の楽譜。52小節目が記されており、半音階の運指におけるコルトー版と一般的な運指が比較されている。

コルトー版と一般的運指の比較:

・一般的運指:1-2-3の指のみ使用
・コルトー版:4の指、5の指も活用

 

運指習得の本質

コルトー版のほうが最終的に高速演奏を実現できますが、初めは弾きにくく感じるでしょう。それは「覚えにくさ」が原因です。しかし、「覚えやすいが速度に限界がある運指」より、「慣れればより速く弾ける運指を、慣れるまで練習する」のがベストです。

運指を完全に記憶することが、どれほど演奏を前進させるか、改めて認識してください。

 

‣ 55-57小節:声部交差への対応

 

譜例(55-57小節)

ショパン「エチュード Op.25-7」の楽譜、55-57小節。

56小節下段では大きな跳躍が繰り返され、声部交差も発生します。

 

ピアノ演奏の限界

アンサンブルであれば異なる音色で各声部を明確化できますが、ピアノでは音色とダイナミクスの差のみで表現するしかありません。

 

「グラズノフ編曲によるデュオ版」 からのヒント

譜例(PD楽曲、55-57小節)

ショパン「エチュード Op.25-7(グラズノフ編曲によるデュオ版)」の楽譜、55-57小節。

チェロとピアノのデュオ版では、跳躍はチェロが担当し、「チェロの高音域による緊張感ある独特な響き」が実現されています。この演奏を参考に、ピアノでも同様のイメージを持つことが理想です。

 

現実的対処法

巨匠たちの演奏でも声部分離は完全ではありません。各声部への意識を最大限持ちながらも、「気は心」でベストを尽くしたと割り切ることも必要です。

 

‣ 60-62小節:タイでつながれた音を聴き続ける

 

譜例(60-62小節)

ショパン「エチュード Op.25-7」の楽譜、60-62小節。

下段がメイン旋律となる箇所です。

 

よくある問題

丸印で示したタイでつながれた拍頭の音を聴くのをやめてしまう演奏が多く見られます。なぜ分かるのかというと、直後の音が無関係な音色で出てくることで、意識の断絶が露呈しているからです。

正しいアプローチ

伸ばしている音を最後まで聴き続け、タイの到達点でもしっかり意識していれば、その響きと調和した音色で次音を出すことができます。指先のコントロールに集中しましょう。

 

► 終わりに

 

本作は、技術的課題と音楽的表現が密接に結びついた作品です。各箇所の意図を理解し、適切な解釈や練習を用いることで、この美しい作品を説得力を持って演奏できるようになります。

録音を活用して客観的に自分の演奏を確認しながら、丁寧に仕上げてみましょう。

 

推奨記事:

【ピアノ】コルトー版の魅力と実体験レビュー:使い方と注意点を詳しく解説
(練習方法をさらに学ぶための教材 /「コルトー版 ショパン 12のエチュード Op.25」の併用を推奨)

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

作曲の視点からピアノ学習者の学習的自立を支援/ピアノ情報メディア「Piano Hack | 大人のための独学用Webピアノ教室」の運営/音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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