【ピアノ】ベートーヴェン「ピアノソナタ 第4番 変ホ長調 Op.7 第1楽章」演奏完全ガイド
► はじめに
曲の背景
Op.2の3曲を完成させたベートーヴェンは、この様式に大きな自信を持ったようで、第4番にあたる本作では、前作までを大きく上回る形式の拡大が見られます。ただし、第4楽章だけは縮小の傾向を示しています。作曲年代は自筆稿が失われているため正確な月日まではわかりませんが、1796年中には着手され、翌97年には完成されたと考えられています。本作はベートーヴェンのピアノの弟子であったハンガリーの貴族ケーグレヴィッチュ伯の令嬢アンナ・ルイーゼ・バルバラに献呈されており、1797年10月にウィーンのアルタリア出版から刊行されました。
(参考文献:ピアノ音楽事典 作品篇 / 全音楽譜出版社)
演奏難易度と推奨レベル
この楽曲は「ツェルニー40番中盤程度」から挑戦できます。
本記事の使い方
この楽曲を、演奏のポイントとともに解説していきます。パブリックドメインの楽曲なので譜例も作成して掲載していますが、最小限なので、ご自身の楽譜を用意して読み進めてください。
各セクションごとに具体的な音楽的解釈を示していますので、練習の際に該当箇所を参照しながら進めることをおすすめします。
► 演奏のヒント
‣ 事前に押さえておきたい技術的観点
本題に入る前に、この楽章全体を通じて頻繁に登場する2つの技術的ポイントを先にまとめておきます。
同音連打をサポートするペダリング
ダンパーペダルの使い方は多岐にわたりますが、この楽章では「同音連打をサポートするペダリング」という観点が特に重要になります。
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-4小節)

1-2小節を例に取ると:
・2小節目のメロディのEs音は、すでに1小節目で打鍵されているため、同音連打になる
・ピアノの構造上、一度鍵盤をある程度まで戻さないと再打鍵できないため、音響の隙間が生じてしまう
・これを防ぐためにダンパーペダルでサポートする必要がある
・内声のB音も同音連打されるため、ここではペダルが必須(譜例参照)
・指のみのつなぎでレガートに近づけることは現実的ではない
このように「楽器の特性を補うペダリング」という観点を意識しながら、あらゆる部分の譜読みを進めることが大切です。
譜例(39-40小節)

39-40小節などに頻出するアーティキュレーション
・「スラーとスタッカートが同居した音型」は見た目以上に弾きにくい
・この楽章はAllegro molto e con brioでテンポが速く、かつダイナミクスが p であるため、なおさら難しい
・だからといって頑張り過ぎると、大げさな演奏になってしまう
・このような音型では、「指に角度をつけて弾く」のがポイント
・指を伸ばして弾くと、まずうまくいかない
以下の3点を意識して練習しましょう:
・指に角度をつける
・指先をしっかりさせる意識を持つ
・指の動きをなるべく少なくする意識を持つ
「軽いスタッカートを高速で連続演奏するときのテクニック」とほぼ同じ技術を使うということです。
‣ 提示部:1-136小節
目標テンポ:♩. = 100
(1-4小節 再掲)

1-4小節の左手の運指:
・「512121212121」というように指を替えていくのを推奨
・鍵盤のすぐ近くから打鍵することが、音色を揃えるコツ
繰り返しにおける変化の意識:
・1-2小節の繰り返しが3-4小節
・3小節目には sf が書かれており、和音も厚くなっているので、ただ繰り返さずに3小節目への重みを意識する
・この sf は叩くのではなく、ダイナミクスを「一段階上げる」という重み入れのイメージを持つのが有効
5小節目からの音楽表現のコツ:
・5小節目からは拍の感覚を大切に
・1回目が5-6小節、2回目が7-8小節、3回目が9-12小節と、反復の中で3回目のみフレーズが長くなっている
・3回目のみダイナミクスの松葉が書かれている点にも着目する
・1-2回目はサラリと通り過ぎることで、3回目の松葉が活きてくる
譜例(16-17小節)

運指とペダリングの参考
・16-17小節の運指とペダリングは、楽譜の書き込みを参考に設定する
音響の断裂におけるペダリングの検討:
・16-17小節の右手の和音は、運指の工夫のみではどうしても音響をつなげることができない
・オクターヴで動いていくこと、そして同音連打するB音があることがその理由
解釈としては、以下のいずれかが考えられます:
・左手の和音はいっそつなげずに紙一枚分の音響の切れ目をはさむ
・ダンパーペダルを使ってつなぎ目の響きをサポートする
・ペダルを使う場合は「和音のつなぎ目で短く踏むだけ」にし、薄く踏む「ハーフペダル」で十分
ダイナミクス表現:
・21-24小節にはダイナミクスの松葉が書かれている
・これを効果的に表現するには、22-23小節にまたがる右手のメロディ「So La Si La」を明確に発音することが大切
・左手はあくまでハモリの従的要素なので、うるさくならないように注意する
対比表現と奏法:
・25小節目の ff はsubitoで表現する
・直前の p や直後の pp と対比させるために、深い音で表現する
・上から叩かず、鍵盤のすぐ近くから押し込むように打鍵し、ペダルも踏んで音量を充実させる
・26小節目からの pp は、やはり鍵盤のすぐそばで打鍵し、跳ねないように
・手の動きを少なくして、効率よく打鍵することを心がける
譜例(39-40小節 再掲)

指先に角度をつけた効率的な打鍵:
・39-40小節は、大げさにせず、軽さを意識する
・指先に角度をつけて弾く
打鍵後も音を聴き続ける:
・41小節目からは左手が重要
・sf の音をきちんとピックアップする
・sf の音は、打鍵したらすぐに力を解放し、伸びている音を聴き続ける
・そうすることで、続くD音の音量バランスをコントロールできる
・sf のEs音と次のD音が音量・音色的に無関係な音になってしまっては音楽的ではない
音楽的な重み入れ:
・49-50小節の左手は、50小節目の頭のE音に最も重みが乗る
・そうすることで、スラーのニュアンスも強調できる
・同じアーティキュレーションが他の小節にも出てくるが、同様の処理を心がける
譜例(55-60小節)

第2主題への移行:
・55-58小節は、第2主題への移行部
・58小節目付近でゆっくりしてしまいそうになるが、そうせずにサラリと第2主題へ入る
・59小節目の p から第2主題となり、付点4分音符の音楽になる
・したがって、そのまま弾いていてもテンポの感じ方が変わって音楽に柔らかさが生まれる
・その前でわざわざ段落感をつける必要はない
運指とペダリングの参考
・55-60小節の運指とペダリングは、楽譜の書き込みを参考に設定する
音楽の流れと必要な音の抽出:
・59小節目の p から第2主題
・音価が長くなると音楽が縦割りになりがちなので、音楽を横へ引っ張る意識で流す
・小指の音を意識して抽出し、ただの音のかたまりにならないように気をつける
両手の受け渡し:
・67小節目の後半からは、ここまでにも出てきたアーティキュレーションが再登場する
・71小節目の前半まで右手で演奏していた素材が、同小節後半から左手に移る
・これらのつながりを意識する
cresc.の開始位置:
・76小節目のcresc.は、始めるのが早くなり過ぎないように後ろ寄りで表現する
・77小節目の頭で mp、そこから「mp → mp-mf → mf → f」とおおよそ均等に上げていき、ff へ到達させる
オクターヴの連続
・85小節目からのオクターヴの連続は、手首を柔らかくして軽く弾く
ダイナミクスの松葉の加減:
・89-90小節のダイナミクスの松葉はやり過ぎずに
・この後に大きな表現が待っているから
譜例(97-98小節)

運指の参考
・97-98小節の運指は、楽譜の書き込みを参考に設定する
明るい表現:
・99-100小節は、活き活きと
・右手の音は、鐘が鳴っているかのようなイメージで明確に弾く
101小節目からの攻略:
・101小節目からは ff だが、頑張り過ぎず、左手をしっかり出すイメージを持つと演奏しやすくなる
・拍の感覚も忘れずに
・小節頭のバスが鳴る瞬間だけ、短くペダルを踏むと音楽的
譜例(105-110小節)

運指や装飾音の奏法:
・105-110小節の運指や装飾音の奏法は、楽譜の書き込みを参考に設定する
・109-110小節の装飾音符は、3連符として弾くのが慣例
速いパッセージの攻略:
・111小節目からの右手は、まず和音でつかむ練習をする
・何の迷いもなく探らずにポジションをつかめるようにしておく
・16分音符を口で言いながら練習するのも効果的
・口で転んでいる箇所は、実際の演奏でも大抵転んでいる
sf を響かせるために:
・111小節目から何度も出てくる「左手の5の指で弾くことになる sf の音」は響かせる必要がある
・そこで、太い音を出すために「5の指と4の指を束ねて」打鍵するのも一案
譜例(127-131小節)

127小節目からのテンポとペダリング:
・127小節目に入るといきなり音価が長くなるが、テンポは変わらないように注意する
・この箇所は、各小節の真ん中の拍が前の拍からタイで結ばれており、新しく打つ音がない
・したがって、テンポを正確に取るのが難しく感じるはず
・食ってくる sf のところではペダルを踏まず、その後のダウンビートの位置でペダルを踏む(譜例参照)
・そうすると、その動作がダウンビートの代わりになり、演奏しやすくなる
‣ 展開部:137-188小節、再現部+コーダ:189-362小節
この楽章では、提示部で解説した素材が展開部(主に第1主題を使用した小規模なもの)や再現部でも応用されています。したがって、基本的な注意点は提示部のそれと同様に考えてください。以下では運指やペダリングのヒントを中心に補足します。
sf の表現方法:
・205小節目の sf は、左手のみで表現する
・右手はパッセージの流れの中にあるため、急に強調するとコブを作ってしまう
譜例(235-238小節)

運指の参考
・235-238小節の運指は、楽譜の書き込みを参考に設定する
譜例(277-278小節)

運指の参考
・277-278小節の運指は、楽譜の書き込みを参考に設定する
譜例(285-290小節)

運指や装飾音の奏法
・285-290小節の運指や装飾音の奏法は、楽譜の書き込みを参考に設定する
書き譜トリルを含む伴奏形:
・355小節目からの左手は、バスの音を強く弾いたら、そのバウンドの中で他のトリルの音を弾くイメージで
・1と2の指で弾くこのトリルはあくまでも持続音なので、うるさくなり過ぎないよう注意する
・もしここでトリルが速く弾けないと気づいたら、ハノンのトリル練習を逆引き的に活用するのが有効な使い方
アクセント・ペダル:
・最後の和音の連続は、しっかりと鳴らしたい
・すべての和音に対してアクセント・ペダルとして、発音と同時に短くペダルを踏む
► 終わりに
この楽章は、ベートーヴェンが自らのソナタ様式への自信を持って書き上げた意欲作です。提示部だけでも相当な規模を持ちますが、各素材が展開部・再現部でも有機的に活かされています。ペダリングや運指といった技術的な視点と、フレーズの方向性や音楽の流れへの意識を両立させながら、丁寧に仕上げてみてください。
他のベートーヴェン作品の演奏解説は、以下の記事を参考にしてください。
【ピアノ】ベートーヴェン作品の演奏ポイント解説集:譜例付き実践ガイド
► 関連コンテンツ
著者の電子書籍シリーズ
・徹底分析シリーズ(楽曲構造・音楽理論)
Amazon著者ページはこちら
YouTubeチャンネル
・Piano Poetry(オリジナルピアノ曲配信)
チャンネルはこちら
SNS/問い合わせ
X(Twitter)はこちら

コメント