【ピアノ】ベートーヴェン「悲愴ソナタ 第2楽章」演奏完全ガイド
► はじめに
曲の背景
・タイトル:ピアノソナタ 第8番 悲愴 ハ短調 Op.13 より 第2楽章
・作曲年:1798-1799年
・献呈:リヒノフスキー伯
・ベートーヴェンが作曲したピアノソナタの中で、特に広く知られた作品の一つ
・ヴァルターのピアノを使って作曲していた時期の作品とされている
演奏難易度と推奨レベル
この楽曲は「ブルグミュラー25の練習曲修了程度」から挑戦できます。
本記事の使い方
この楽曲を、演奏のポイントとともに解説していきます。パブリックドメインの楽曲なので譜例も作成して掲載していますが、最小限なので、ご自身の楽譜を用意して読み進めてください。
各セクションごとに具体的な音楽的解釈を示していますので、練習の際に該当箇所を参照しながら進めることをおすすめします。
► 全体の構成を把握する
この楽曲は「ロンド形式」で構成されています。ABACAの単純ロンドです。
・A(主題):1-16小節
・B(第1エピソード):17-28小節
・A(主題再現):29-36小節
・C(第2エピソード):37-50小節
・A + Coda:51-73小節
ロンド形式について基礎から学びたい方は、ソナタ形式・ロンド形式を最後に学び直す方法 を参考にしてください。
► 演奏のヒント
‣ A:主題(1-16小節)
· 1-4小節
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-4小節)

テンポ設定
テンポは「♪=70程度」を目安にしてみましょう。
メロディラインの処理:
・2小節目のレッド音符で示したDes音から次のC音へ向かって少しデクレッシェンドする
・そうすることで、その後の開き(メロディ上行、バス下行)の表現が活きてくる
・4小節目のレッド音符で示したEs音は、フレーズを細分化した場合の一つの区切れ
・したがって、直前の音よりも強くならないようにおさめる
・ただし、あくまでフレーズは続いていることを踏まえて、次のE音への音色的つながりを作る
内声の16分音符の弾き方:
・1小節目を見ると、「メロディ」「内声のハーモニーの動き」「バス」という役割分担がされている
・内声の16分音符は「メロディやバスの響きの中に入れるように」柔らかく静かな音で演奏する
・そのために必要な技術は、鍵盤から指を離さないで演奏するということ
・鍵盤から指を上げてしまうと高くから打鍵することになり、結果的に音色が硬くなったり不揃いになったりする
メロディとバスラインの対話:
・メロディとバスラインだけを取り出して練習してみる
・バスラインだけでも魅力的な「ウタ」になっている
・メロディと、このカンタービレなバスラインを「対話」させるように音楽を作っていく
・この2つのラインがどこで「反行」しているか、どこで「並行」しているかなどを細かく読んでいく
メロディとバスラインだけでも音楽が成立していると思いませんか。では、足りないものは何かと考えると、「リズム」が思いつきます。16分音符の内声が「リズムを転がしていくサポート」と「ハーモニーを明確にするサポート」をしているわけです。このことからも、内声を大きな音で演奏しない理由を理解できることでしょう。
· 3小節目
(再掲)

3小節目の大きな変更点:
・ここまでは4分音符単位で和声が変わってきたが、3小節目は8分音符単位で和声がチェンジしている
・「和声が持つリズム」があり、和声が変わることも一種のリズム表現
・つまりここでは、和声リズムが細かくなっていることで「直前よりも大きな感情表現」をしている
・シンプルな楽曲だからこそ、こういった作曲上の細かな工夫点を注意深く読み取る
· 4-8小節
譜例(5-8小節)

ゼケンツ(同型反復):
・音型が装飾されているので少し分かりにくいが、5-7小節ではゼケンツが含まれている
・各ゼケンツの低いメロディ音(5小節目のB音、6小節目のA音)が急に強くならないように注意する
32分音符の扱い
・5小節目などに出てくるメロディの32分音符は、ゴツゴツしたり重くならないように注意する
緩やかなテンポの楽章は楽譜が真っ黒です(「悲愴ソナタ 第1楽章」の序奏も同様)。テンポがゆっくりだからこそ細かな音価の音符がたくさん入るわけですが、32分音符などが出てくると譜読みの際にリズムを読み間違える危険性が出てくるので、注意して読んでいきましょう。
(再掲)

メロディラインの骨格:
・5-8小節の右手メロディをよく見ると、レッド音符で示したF音からAs音までの音階が隠れていることが分かる
・メロディは装飾されているが、このように「軸となる音」があるケースはかなり多い
・こういった軸の音が分かれば、そのうちの一つの音だけ飛び出て大きくなったりしないように注意できる
· 7小節目
スラースタッカート:
・7小節目の右手には「スラースタッカート」が出てくる
・これは「音を切る」という意味で解釈しないほうがベター
・ダンパーペダルを使用して音はつなげて、手は「スラースタッカート」で演奏する
・音はつながっているけれど軽い音にしたいという意図があると考えられる
作曲家は、「切ってください」という意味ではなく、「軽い表現が欲しい」という意味でもスタッカートを使用することがあるということを覚えておきましょう。
· 8小節目
(再掲)

3連符のテンポ:
・8小節目の3連符でテンポが変わってしまわないように注意する
・「テンポママ」と書いておく
主音上のV7:
・8小節1拍目はバスが既にAs音に来ているが、その上に属七の和音が乗っている
・「主音上のV7」と呼ばれる和声
・単純なV7からⅠに行く場合と比較すると、バスの移動がない分、進行感が「弱く」なる
・「主音上のV7」とはいえ、上に乗っている和声は移り変わるので、2拍目でダンパーペダルを踏み変える
8小節2拍目のスラースタッカート:
・8小節2拍目の右手には、また「スラースタッカート」が出てくる
・ここもダンパーペダルを使用して音はつなげて、手は「スラースタッカート」で演奏する
・ただし、稀にダンパーペダルを使用しないで切って演奏している演奏家もいる箇所
・最終的には自身の表現したい内容によって決定すべき
· 9-12小節
オクターブの響き:
・メロディの要所だけで、内声の音と合わせて「オクターブの響き」を作っている
・「オクターブの響き」というのは、空虚で非常に特徴的なサウンドがする
・メロディのすべての音でオクターブにしているのではなく、要所だけオクターブの響きなのがポイント
・まずは右手だけを取り出してしっかり響きの違いを確認すべき
内声の変化:
・他の変更点として、9小節目からは内声の16分音符の動きが2つの音での「ハモリ」になったことにも注目する
・内声が作るハーモニーが充実した
・ただし、内声の16分音符は鍵盤から指を離さないで鍵盤の近くから打鍵するという注意点は同様
・このように、9小節目からは内声が充実しメロディも1オクターブ上がるので、音楽的には充実する
・しかし、ダイナミクスとしてはまだ「p(弱く)」のままであるという点に注意する
· 12-16小節
12-13小節の左手:
・左手の運動が他の周囲の小節と変わっている
・バス音のみを深く演奏し、他の音は響きの中に隠すように静かに演奏する
16小節の和声とペダリング:
・16小節目にも、8小節目と同様に「主音上のV7」と呼ばれる和声が出てくる
・2拍目にはⅠに解決するのでダンパーペダルを踏み変える
・このときに、バス音のAs音を2拍目裏までしっかりとフィンガーペダルで残しておく
・そうしないと、ペダルを踏み変えたときに音響の断裂が起き、バスの響きが消えてしまう
・解釈をするときには、あるハーモニーがどこまで続いているのかということを細かく見ていくべき
16小節目の最後(17小節目のアウフタクト)の32分音符:
・音量が大き過ぎたりリズムが鋭過ぎると滑稽に響いてしまう
・次のオクターヴ上の音へ向かうためにつけられた音として、柔らかく演奏する
‣ B:第1エピソード(17-28小節)
· 17-19小節
左手パートの処理:
・17小節目からの左手はつぶやくように、遠く鳴っているかのように
・18小節目からは和音伴奏になるため、大きくならないようにしないと、音楽が急激に変わってしまう
· 20-22小節
譜例(20-22小節)

ここでハードルになるのは、以下の2点についてです:
・20-21小節のターンの入れ方
・22小節目の装飾音
20-21小節のターンの入れ方:
・これらのターンは、「5連符で弾く」といい
・難しく感じる場合は64分音符4つで弾くのもアリだが、それではどことなくモタモタして聴こえる
・5連符で入れるほうが軽さが出るし、割り切れる数で入れたときのような硬さもない
・機械的に弾くのではなく「ターンもウタにする」という意識を持って弾く
22小節目の装飾音
22小節目の装飾音は3音もあるうえに前後が共に32分音符で動いているため、うまく弾かないと拍の感覚が分からなくなってしまいます。
練習のコツは、以下の2点です:
・装飾音を取っ払って練習する
・「装飾音の直後の32分音符C音」を意識する
・まずは、装飾音を取っ払って弾いてみることで、1拍目を意識して練習することができる
・このやり方で骨格と拍の感覚を身体へ入れておき、その後に装飾音を戻して楽譜通り演奏する
・戻した後は、「装飾音の直後の32分音符C音」を意識して練習する(そこが1拍目の頭だと意識する)
・はじめのうちは、このC音をやや強めに弾いて意識するのもアリ
· 23-25小節
8分音符の処理:
・23小節目の頭の8分音符は、手だけでやると音の切れ際が割とバッサリいってしまう
・手での離鍵(リリース)を気をつけつつ、短くペダルも添えることで音響の切れ際がフワッとする
・25小節目の頭なども同様
メロディを見失わない
・23-24小節を弾いているときに、メロディを見失わないように、常にメロディがどこにいるかを意識して弾く
24小節目のペダリング:
・24小節目は16分音符ごとにすべてペダルを踏み変える
・ここでのペダルはハーフペダルで薄く踏む程度で構わない
· 26-28小節
16分音符の受け渡し:
・26小節目から27小節目への16分音符の受け渡しをスムーズに
・この小節の変わり目で変なタメや揺れをつけてしまうと、受け渡しがギクシャクしてしまう
‣ A:主題再現(29-36小節)
主題の再現:
・29小節目からは主題の再現
・基本的な演奏方針は1-16小節と同様だが、再現であることを意識する
‣ C:第2エピソード(37-50小節)
· 37-41小節
譜例(37-38小節)

37小節目のアウフタクト:
・37小節目から pp になる
・そのアウフタクトの8分音符Es音は孤独な音を出す
・カツンという現実的な音を出すと、夢から覚めてしまう
・この音では、それ以外の声部はすべて休符なので、しっかりとペダルを踏み変え、きちんと無伴奏のソロにする
ペダリング:
・37-38小節のペダリングは、基本的に和音が変化するときだけ踏み変える
・39-40小節も同様だが、39小節目は左手が8分音符なので、8分休符の部分でも踏み変える
フレーズ終わりの音
・フレーズ終わりのDes音は、直前のG音よりも弱く聴こえるようにする
· 42-43小節
42-43小節のペダリング:
・42-43小節は、この楽曲で最も盛り上がり、また、最も明るさを持っている箇所
・和音が変化するときだけペダルを踏み変え、しっかりとペダルを使って構わない
· 44小節目
濁らなくても考慮すべきペダリング:
・44小節目の頭のバス音は8分音符なので、8分休符の箇所でペダルを踏み変える
・和声は同じであるため踏み変えなくても濁らないが、このような細かな処理にも気を配る
・66小節目のメロディの処理も同様に考え、8分休符を表現する
· 47-50小節
譜例(47-50小節)

運指やペダリング:
・47小節目のレッド音符は通常右手で演奏するが、左手でとっても構わない
・ペダリングは、譜例へ書き込んだようにするのが一案
ダイナミクスの解釈:
・48-49小節は強く弾いてしまいがちで、実際にそのように解釈しているピアニストもいる
・ただし、楽譜上のダイナミクスは一応 pp
・初めから強く弾くと決めてしまうのではなく、まずは pp であることを踏まえたうえで解釈を決定する
‣ A:主題+Coda(51-73小節)
· 51-54小節
譜例(51-52小節)

51小節目からの2音単位のフレージング技法:
・内声部に注目すると、2つの音をひとまとまりとするスラー記号が付けられている
・ペダルを使用して全体の響きを保ちながら演奏する場合、音そのものは途切れることなく連続することになる
それでは、このフレージング指示をどう実現すればいいのでしょうか。
解決策:音量バランスによるアプローチ:
・解決策は音の強弱にある
・各グループの最初の音にわずかなアクセントを与え、続く音は控えめに演奏する
・そうすることで、音が物理的につながっていても、2音のまとまりを聴き手に伝えることができる
・実践的には、後の音を「軽めのタッチで」処理するだけでも効果が得られる
他の箇所への応用
この技法は51小節目以外にも適用できます。24小節目や26-28小節といった16分音符が連続する箇所でも、同様の2音1組のスラーが記されています。これらすべてに同じ原理を適用しましょう。
テンポキープ
・51小節目からはテンポが変わってしまわないように注意
· 55小節目
55小節目の最後に出てくる32分音符と左手をどう合わせるか:
・32分音符のはじめの音と、左手パートの最後の音を同時に弾いてしまう演奏家が多い
・左手は楽譜通りのリズムで弾き、その左手の最後の音に、32分音符のはじめの音を合わせる
· 66-69小節
66小節目の同音連打
・66小節目の同音連打は、17小節目を思い出しつつ、遠くで鳴っているようなイメージで極めて柔らかく演奏する
68小節目のターン
・68小節目のターンはコブができたように大きく飛び出ないように
69小節目のメロディ:
・69小節目のメロディは、F音とEs音のつながりを感じて弾く
・伸びている音の後は音色のつながりがなくなってしまいがちなのでよく注意する
· 70-73小節
譜例(70-73小節)

rf の扱い:
・70-72小節に rf が3回出てくるが、これらはあくまで p の世界の中でのこと
・現実的な強過ぎる音が求められているわけではない
アーティキュレーション:
・70-72小節では、アーティキュレーションを正しく表現する
・特に、スラーがスタッカートの音にまでつながってしまわないように注意する
72小節目の左手:
・72小節目の頭の左手は「32」の指で弾くことで、直前をペダルに頼らずに左手パートをレガートにできる
・ここでは手だけで8分音符を表現するのではなく、チョンとダンパーペダルも踏んであげる
・そうすることで、音響を滑らかに消すことができる
最終小節:
・最終小節は音符の音価と休符の位置を正しく読み取る
・最終和音は、「左手1音 右手3音」で弾くことが多い
・ただし、手の大きさ的に小指でメロディ音を抽出しにくい場合は、「左手2音 右手2音」で弾いても構わない
► 終わりに
部分的な表現やペダリングなどを細かく見てきましたが、こういったことをしっかり理解したうえで、最終的には「横の流れ」を意識し音楽が流れないといけません。
練習の際は、「狭い範囲を細かく見ていく視野」と、「全体を広い範囲で見ていく視野」を両方持つようにしましょう。
推奨記事:
・【ピアノ】「最新ピアノ講座」演奏解釈シリーズのレビュー:演奏解釈とピアノ音楽史を一冊で学ぶ
(演奏解釈をさらに学ぶための教材 /「悲愴ソナタ」も全楽章分収載)
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