【ピアノ】ソナタアルバムで2〜3曲やっただけのハイドンに、潔く再入門する方法
► はじめに
ソナタアルバムに入っていた記憶はあるけれど、その後はほとんど弾いていない——ハイドンのソナタには、そんな運命をたどりやすい独特の立ち位置があります。
J.S.バッハのような「必修教材」という印象も薄く、ベートーヴェンのように広く知られた代表曲があるわけでもない。結果として、レッスンで指示されたものを数曲こなしただけで、そのままになってしまう——これは多くのピアノ学習者に共通する経験ではないでしょうか。
しかし、ハイドンのソナタ群が持つ音楽的な奥行きは、決してその「地味な印象」に見合ったものではありません。モーツァルトやベートーヴェンとの影響関係、独特の「驚き」の仕掛け、豊富なユーモアのセンス——これらを知ったうえで弾くと、同じ作品が全く異なって聴こえてきます。
本記事では、ハイドンを途中で止めてしまった学習者が、無理なく、かつ意味のある形で再入門するための具体的な手順を紹介します。
► 再入門のための4ステップ
「知識」「選曲」「再挑戦」「聴取」の4方向から、ハイドンへの再入門ルートを整理しました。
‣ ステップ1:まず最低限の「予備知識」を仕入れる
弾く前に、少しだけハイドンという作曲家のことを知っておくと、学習の手ごたえが全く変わります。
おすすめの一冊は「ハイドン・ピアノソナタ 演奏の手引き」(ヨセフ・ブロッホ、ピーター・コラジオ 共著 / 全音楽譜出版社)。ハイドンのソナタに特化した解説書で、装飾音の処理方法から楽曲分析、音楽史的な背景まで、演奏に直結する情報がまとまっています。
最初からすべてを読む必要はありません。第1章だけでも目を通しておくと、その後の練習の質が変わります。
第1章で扱われているトピックの一例:
・ハイドンのソナタがどのような経緯で書かれたか
・ハイドンが実際に使っていた鍵盤楽器の種類と、それが演奏表現に与える影響
・J.S.バッハ、エマヌエル・バッハ、スカルラッティ、クレメンティといった同時代・前世代の作曲家との影響関係
・ハイドンがベートーヴェンのピアノソナタに与えた具体的な影響
・突然の転調、テクスチュアの急変など「ハイドンらしい驚き」の構造的な仕組み
・対位法の使われ方、メヌエットを多用した理由
これらは入門レベルのソナタを練習している段階でも十分に活かせる内容です。「難しそうな理論書」というよりも、ハイドンへの興味を引き出してくれる読み物として参照してみてください。
より詳しいレビュー記事:
【ピアノ】「ハイドン・ピアノソナタ 演奏の手引き」(ブロッホ、コラジオ 共著)レビュー
‣ ステップ2:「入門ソナタ」を選んで弾いてみる
ソナタアルバムに収録されている作品よりも、さらに取り組みやすく、それでいて音楽的な充実感もある——そんな「入門ソナタ」が複数存在することをご存知でしょうか。
以下の9曲は、いずれもブルグミュラー25番修了前後のレベルから取り組むことができます。
入門最適ソナタ9曲:
・ソナタ ハ長調 Hob.XVI:1
・ソナタ ハ長調 Hob.XVI:3
・ソナタ ニ長調 Hob.XVI:4
・ソナタ ハ長調 Hob.XVI:7
・ソナタ ト長調 Hob.XVI:8
・ソナタ ヘ長調 Hob.XVI:9
・ソナタ ハ長調 Hob.XVI:10
・ソナタ ト長調 Hob.XVI:G1
・ソナタ ニ長調 Hob.XVII:D1
どれも難易度に大きな差はありませんが、初めて手をつけるなら以下の3曲から始めるのがスムーズです。
① Hob.XVI:8(ト長調)
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1楽章 曲頭)

・全4楽章あわせても楽譜3ページ程度というコンパクトさ
・最初の一歩として最も負担が少ない
② Hob.XVI:1(ハ長調)
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1楽章 曲頭)

・音型がソナチネと近い
・ハイドン特有の書き方への「橋渡し」として機能する
③ Hob.XVI:3(ハ長調)
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1楽章 曲頭)

・全体的に落ち着いたトーンで、テクニック的な難所が少ない
・丁寧に音楽を組み立てる練習に向いている
推奨楽譜:紹介9曲完全収録版
上記9曲をすべて収録しているのが、ヘンレ版「ハイドン ソナタ全集 第1巻」です。原典版として信頼性が高く、運指も付いているため、学習に使いやすい一冊です。
ハイドン ソナタ全集 第1巻 ヘンレ版
ハイドンの後期ソナタは音楽的には非常に充実していますが、技術的・構造的難易度も高く、再入門段階では負担が大きめです。まずは短く簡潔な初期ソナタから入るほうが、ハイドン特有の語法をつかみやすいでしょう。
入門ソナタについての詳しい解説記事:
‣ ステップ3:ソナタアルバムの「やり残し」に戻る
入門ソナタで感覚をつかんだら、「ソナタアルバム1」に収録されているやや難易度の高い作品にも改めて挑戦してみましょう。
・ソナタ ハ長調 Hob.XVI:35
・ソナタ ト長調 Hob.XVI:27
・ソナタ ニ長調 Hob.XVI:37
・ソナタ 嬰ハ短調 Hob.XVI:36
・ソナタ ホ短調 Hob.XVI:34
これらは、ハイドンのソナタの中でも音楽的・知識的に学ぶ価値の大きい作品群です。「とりあえず数曲だけ」ではなく、できればすべてに取り組んでみることをおすすめします。ステップ1で得た知識があれば、以前とは異なる視点でこれらの作品を読み解けるでしょう。
現在までにソナタアルバムに触れず、ソナチネアルバム1に収録されている「ソナタ ハ長調 Hob.XVI:35」のみの経験の方もいると思います。その場合も、これらの曲を次の課題にしてみてください。
‣ ステップ4:「流し聴き」でソナタ全体の地図を描く
ハイドンのピアノソナタは全部で62曲(そのうち7曲は楽譜が紛失)あり、端から演奏で学ぶのは現実的ではありません。しかし、「どんな作品があるか」を耳で知っておくと、ソナタの全体像が見えたり、他の作曲家との違いが見えてきたり、音楽に詳しい人物と話ができるようになります。
そこでおすすめしたいのが、日常のBGMとしてハイドンを流しておく「聴き流し」アプローチです:
・特別に集中して聴こうとしなくていい
・家事や作業のBGMとして流しっぱなしにする
・流し聴きの繰り返しで、曲の全体像を何となく覚えてしまうことを目指す
ここでの目的は「真剣鑑賞」ではなく、“作品の地図を頭に作ること” です。気に入った曲が見つかったら、楽譜を見ながら聴き直したり、部分的に弾いてみたりしましょう。
参考にしたい録音:ローランド・バティックのハイドン
音源としておすすめしたいのが、ウィーンのピアニスト「ローランド・バティック」による全集録音です。
解釈に過度な個性がなく、テンポも標準的な設定を維持しているため、学習の参考にしやすい演奏です。「どんな音楽か」を素直に把握したいときにクセのない演奏は大きなメリットになるので、参考にしてみてください。
以下の「ハイドン ピアノ・ソナタ全集 I 」には、本記事で紹介した入門ソナタ9曲が完全収録されています。まずはここから聴き始め、徐々に他の巻へと広げていくのがいいでしょう。
ハイドン ピアノ・ソナタ全集 I ローランド・バティック
► 終わりに
ハイドンを経験すると、「古典派初期の形式感」「ユーモア」といった音楽感覚が自然に身についていきます。特にユーモアに関しては、同じ古典派のモーツァルトの作品よりも顕著に出てくるので、ハイドン学習の面白さを感じることができるでしょう。
ハイドンのソナタを途中で止めてしまった理由は、多くの場合「きっかけがなかった」だけです。
1. まず第1章の解説書でハイドンを「知る」
2. 負担の少ない入門ソナタ(Hob.XVI:8 → Hob.XVI:1 → Hob.XVI:3)から「弾く」
3. ソナタアルバムのやり残しに「戻る」
4. 全集録音を日常に流して「聴く」
この4つのステップを順番に進めていくだけで、ハイドンとの関係はガラリと変わるはずです。難しく考えず、まず一歩踏み出してみてください。
併読推奨記事:
入門ソナタについての詳しい解説記事
【ピアノ】ハイドン 入門最適ソナタ9曲 選曲完全ガイド
初級から上級まで使える、ハイドン学習の良書
【ピアノ】「ハイドン・ピアノソナタ 演奏の手引き」(ブロッホ、コラジオ 共著)レビュー
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