【ピアノ】サティ「3つのジムノペディ 第1番」演奏完全ガイド

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【ピアノ】サティ「3つのジムノペディ 第1番」演奏完全ガイド

► はじめに

 

曲の背景

エリック・サティが1888年に作曲した「3つのジムノペディ」は、近代ピアノ音楽の重要な転換点となった作品です。

曲名の由来は古代ギリシャの祭典「ジムノペディア」にあります。この祭典では、若者たちが神々を讃えて裸身で踊り、合唱や詩の朗読を何日間も続けたと伝えられています。サティはギリシャの壺に描かれたこの祭典の様子からインスピレーションを得たとされ、また愛読していたフローベルの小説「サランボー」の影響も指摘されています。

3曲にはそれぞれ「ゆっくりと苦しみをもって」「ゆっくりと悲しさをこめて」「ゆっくりと厳粛に」という指示が付けられ、ギリシャ詩の韻律を思わせるゆったりとしたリズムの中で、繊細な旋律が展開します。この作品の和音は従来の和声進行の役割から解放され、独立したリズム単位として機能している点が革新的です。ドビュッシーはこの独創性に魅了され、第1番と第3番を管弦楽に編曲しています。

(参考文献:ピアノ音楽事典 作品篇 / 全音楽譜出版社

 

演奏難易度と推奨レベル

この楽曲は「ブルグミュラー25の練習曲中盤程度」から挑戦できます。

 

本記事の使い方

この楽曲を、演奏のポイントとともに解説していきます。パブリックドメインの楽曲なので譜例も作成して掲載していますが、最小限なので、ご自身の楽譜を用意して読み進めてください。

各セクションごとに具体的な音楽的解釈を示していますので、練習の際に該当箇所を参照しながら進めることをおすすめします。

 

► 演奏のヒント

‣ 1-39小節

 

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-12小節)

サティ「3つのジムノペディ 第1番」の楽譜、1-12小節。

伴奏の提示:

・冒頭の右手和音パートに注目
・楽譜の上段には「全休符」が明示されている
・これはサティが作曲段階からこの和音を「伴奏」として位置づけていることを示している

・初めてこの曲を聴く人は、冒頭の和音それ自体を旋律だと感じるはず
・しかし5小節目でメロディが現れた瞬間、「伴奏だったのか」と気づく仕掛けになっている
・旋律かと思わせる伴奏、そして後から伴奏だったと明かされる構造

 

ハーモニーの秘密

曲頭からの気だるい雰囲気の秘密はハーモニーにあります:

・1小節目:G major 7th(G△7)コード
・バス音のG音と長7度でぶつかる音が含まれ、この不協和が「くすんだ響き」を生み出す
・2小節目:D major 7th(D△7)コード
・同様の構造で気だるいサウンドを作り出す

 

Fisの持続:

・曲頭からの伴奏部分は、Fis音がトップノートに配置されている
・この音が16小節まで継続的に鳴り続けるため、均等に響かせることが重要(フォルテになった瞬間は例外)
・一つでも飛び出したり鳴り損なったりすると非常に目立つ

 

繰り返しというのは、音が動いていても「スタティック(静的)」:

・最初の2小節で提示された伴奏パターンが16小節まで繰り返される(2小節×8回=16小節)
・この繰り返しは音楽的に「スタティック(静的)」な効果を生む

 

響きのバランス:

・バランスとしては、1拍目のバスよりも右手の伴奏が強くなると不自然
・バスの響きの中に右手のハーモニーが溶け込むようなバランスで弾く

柔らかいサウンドを実現するには:

・打鍵速度をゆっくりと
・指の腹を使って打鍵
・鍵盤のすぐ近くから打鍵

 

(再掲)

サティ「3つのジムノペディ 第1番」の楽譜、1-12小節。

メロディの登場:

・5小節目からメロディが現れる
・伴奏とははっきり区別できるよう、pp だが少し骨太の音で弾く

 

松葉の解釈:

・サティはメロディに「松葉(クレッシェンド・デクレッシェンド記号)」を書き込んでいる
・これは演奏解釈が分かれる箇所
・サティが指示したダイナミクスと、音型の上行下行が持つ自然なエネルギーが必ずしも一致していないため
・最初の段階としては、サティが書き込んだ指示を忠実に表現してみることを推奨

 

フレージングの注意点:

・8小節目のメロディA音でフレーズが切れていないかに注意する
・この音でメロディが終わったと思いがち
・実際には、このフレーズは9小節目のメロディFis音まで続いているため、ここまで一息でレガートに

バランスについて:

・7小節3拍目のメロディD音 > 8小節目のメロディA音(大きくならないように)
・8小節目のメロディA音 > 9小節目のメロディFis音(さらに大きくならないように)
・これは「フレーズのおさめどころ」と「書かれているデクレッシェンド」の両面を考慮した判断
・音数が制限された作品だからこそ、こうした細かいバランスが非常に重要

 

ブリッジセクション:

・9-12小節は、「ブリッジ(つなぎ目)」のような役割を果たす
・9小節2拍目から f になるが、これは一種のサプライズ
・ただし、楽曲の性格を考えると「ガツン」という強い f ではない
・鍵盤のそばから押し込むように打鍵し、重みを入れるイメージを持つ

 

メロディの再登場:

・13小節目はsubitoで pp に戻る
・ここから再びメロディが出てくるため、13小節1拍目の4分休符で「空気感」を演出できると効果的
・この休符を気持ち長めにとることで、メロディが出てきた瞬間を印象的に聴かせることができる

 

フレージングの確認:

・16小節目のメロディA音でフレーズが切れていないかに注意する
・この音でメロディが終わったと思いがち
・実際には、このフレーズは19小節目のメロディE音まで続いているため、ここまで一息でレガートに

 

ハーモニーの変化:

・17小節目からハーモニーが変化する
・17-19小節は短三和音となり、雰囲気が少し切なくなる
・書かれていることを弾くだけに留まらず、色の変化を感じ取る

 

エネルギーの高まり:

・見落としがちだが、22小節目からダイナミクスが「ピアノ(弱く)」に変わる
・メロディが動き出すため、エネルギーも少し高くなったと考えられる

 

メロディの反復構造:

・22-26小節2拍目までのメロディが、26小節3拍目から繰り返される
・ただし、単なる繰り返しではなく、2回目ではメロディの頂点の位置が高くなっている
・全体的なエネルギーも高まっていることに着目

 

バス音の保続:

・23-31小節目まで、バス音がずっとD音で保続される
・23小節目が保続音の始まり
・上のハーモニーが変化していてもバス音が保続されている箇所は音楽的に「スタティック(静的)」
・そのため、淡々と演奏するほうが雰囲気が出る

 

フレーズの流れ:

・33小節目のメロディFis音よりも34小節1拍目のメロディH音が大きく飛び出さないよう注意する
・フレーズは続いているが、エネルギー的には少しおさめ、それが上行していく

 

カデンツへ向けて:

・38-39小節目は、機能和声とは異なるが「一種のカデンツ」と考えて良い
・それを踏まえて37小節目を見ると、この小節だけ伴奏が4分音符になっていることに気づく
・つまり、この4分音符の伴奏はカデンツに向かうために音価を細かくしたと解釈できる
・4分音符の伴奏は、決して縦割りで刻まないように注意する
・あくまで音楽は横に流れているので、フレーズを横に引っ張っていくイメージを持って演奏する

 

カデンツの演奏:

・38-39小節目は付点2分音符なので、長さが曖昧になりがち
・間延びしたり短くなったりしないように注意する
・両手で和音を演奏するため強くなりがちだが、決してうるさくならないように
・打鍵速度をゆっくりと、指の腹を使って打鍵することを意識する

調性について:

・このカデンツでは38小節目にC音が使われている
・ここでは「モード」という考え方が採用されており、D-durのカデンツではない
・この楽曲は調号がシャープ2個ついているが、D-durともh-mollとも言えない音楽になっている

 

‣ 40-78小節

 

反復セクション

・40-70小節目は繰り返しなので、基本的な考え方は前半と同様

 

再びの保続音:

・71-76小節目まで、またバスが保続音になる
・このように楽曲の中での共通点を見つけて整理しておくと、後ほど暗譜をする際に非常に役立つ

 

音型の関連性:

・74-75小節目のメロディは、35-36小節目のメロディの反行型になっている
・多少ニュアンスは変わるが、音楽エネルギーを根本的に変えるような変奏ではない

 

終結部:

・77-78小節目は、またカデンツの一種だが、78小節目のFにナチュラルがついている点が39小節目と異なる
・最終小節にサティはフェルマータを書いていないが、多少伸ばして終わるのが通例
・ただし、まだ第1曲なので、フェルマータし過ぎないほうが「3つのジムノペディ」全体のバランスがとれる
・この楽曲を単独で演奏する場合は、長めのフェルマータにしても良い
・このように、音楽表現は楽曲を演奏する状況からも考えていくように

 

‣ 音楽構造の特徴

 

サティが採用した作曲手法は、伝統的な音楽の在り方から一線を画すものでした。

かつての音楽作品においては、たとえ静寂を基調とした楽曲であっても、どこかに必ず「クライマックスのポイント」が設けられており、そこへ向かっていくのが常識だったのです。しかしサティのアプローチには、そもそも「盛り上がりを設計する」という概念そのものが存在しません

この傾向は、より現代的な作品群において一層明確になっていきます。ペルトによるピアノ作品「アリーナのために」も、同様の思想に基づいた楽曲の好例と言えます。これらの作品では、高揚感の演出という従来の手法が完全に排除され、「盛り上がり」という考え方自体が根本から問い直されているのです。

このような音楽の構築方法は、映像作品で例えるのであれば、タルコフスキー監督の映画が持つ「クライマックスへ向かわず、静かでありながら奥行きのある世界観」に通じるものがあります。

 

► 終わりに

 

「3つのジムノペディ 第1番」は、その簡素な音の中に深い音楽性を秘めた作品です。細部のバランス、フレージング、音色へのこだわりが、この曲の美しさを引き出します。

丁寧に練習を重ね、サティが創り出した独特の音楽世界を表現してみてください。

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

作曲の視点からピアノ学習者の学習的自立を支援/ピアノ情報メディア「Piano Hack | 大人のための独学用Webピアノ教室」の運営/音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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