【ピアノ】クオリティ重視の楽譜製本術:蛇腹製本からの卒業
► はじめに
自身で楽譜を作成したり、ダウンロード楽譜購入をすることは多くあるでしょう。その際、印刷した楽譜をバラバラのまま使っていませんか。ページが散らばる、譜めくりで落とす、保管場所がバラバラになるなど、不便を感じたことがあるはずです。
適切に製本された楽譜は、演奏中のストレスを減らし、長期保管も容易になります。本記事では、初心者でも実践できる、クオリティを重視した製本方法を紹介します。この方法なら、人に自信を持って渡せる美しい楽譜を作ることができます。
► なぜ、蛇腹製本から卒業すべきなのか
蛇腹製本とは、片面印刷したページをすべて横に繋ぎ、折りたたんで背だけをテープで止める方法です。手軽ではありますが、実用面で以下のような大きな問題があります:
輪っか状になるトラブル
楽譜を落としたり、譜めくりで特定のページを引っ張ると、全体が大きな輪っか状に広がってしまいます。演奏中にこれが起きると、元に戻すのに時間がかかり、練習やレッスンの進行を妨げます。
構造的な問題
ページ数が増えるほど背部分が斜めに傾きやすくなります。これは、片面印刷で厚みが増すことと、背部分同士の張り合わせ回数が少ないことが原因です。
見た目の問題
どうしても素人っぽい仕上がりになり、他の演奏者やアンサンブルのメンバーに渡すには躊躇してしまいます。
► 製本の要:マスキングテープの選び方
‣ セロハンテープを使ってはいけない理由
経年劣化が激しい
1〜2年で黄ばみ始め、5年もすると茶色に変色します。粘着剤が劣化してベタつき、最終的には勝手に剥がれたり、楽譜を汚す原因を作ってしまいます。
初期の粘着力が強過ぎる
一度貼ると剥がせず、修正が効きません。貼り直そうとすると紙が破れます。
結論:セロハンテープは楽譜製本には一切使用しない
‣ マスキングテープ(紙粘着テープ)が適している理由
マスキングテープは、楽譜製本において理想的な特性を持っています:
適度な粘着力
ページをしっかり固定しつつ、紙を傷めません。必要に応じて1〜2回程度なら貼り直しも可能です。
経年劣化が少ない
5年以上保管しても、セロハンテープほどは黄ばみません。
透明性
セロハンテープと同様に、印刷の上に重なっても音符が透けて見える製品が多くあります。
‣ おすすめのテープ製品
コストパフォーマンス重視の方
以下の記事で詳しく解説していますが、ニチバンやダイソーの製品は、安価で扱いやすくおすすめです。
【ピアノ】楽譜製本や補修に最適なマスキングテープの比較レビュー
予算を上げてでも品質を求める方
より高い品質と貼りやすさを追求するなら、「楽譜製本 SCORE TAPE スコアテープ(キハラ)」も選択肢に入れるといいでしょう。紙の薄さと貼りやすさに定評があり、筆者自身も使っていた時期があります。
・楽譜製本 SCORE TAPE スコアテープ(キハラ)
► 製本テクニック:蛇腹ではない美しい仕上がりを実現
ここからは、具体的な製本手順を紹介します。この方法であれば、ページ数が多くても段差やズレのない、均一な仕上がりが実現でき、落としたり引っ張ったりしても輪っか状になりません。
‣ この製本方法の特徴
この製本方法の特徴は、常に同じ厚みの部分同士を接合することです:
・両面印刷したA4用紙2枚を接合して折りたたむと、2枚の紙が重なった「背」ができる
・この「2枚重なった背」同士を繋ぐことで、厚みが均一になる
・結果として、ページ数が増えても段差ができず、テープもズレない
・背部分同士の張り合わせ回数が多いので、ページ数が増えても背部分が斜めに傾きにくい
なぜ、8ページなのか
これは、「A4両面印刷(2ページ)×2枚×2セット」という、最も作業しやすく、かつ構造的に安定する単位だからです。
‣ 具体的な製本方法
· 最低限準備するもの
・A4用紙を両面印刷できる環境(自宅プリンタ、コンビニプリンタ、キンコーズ など)
・マスキングテープ(幅15mm推奨)
・定規(テープをまっすぐ貼るため)
· 基本単位の作成(8ページセット)
ステップ1:両面印刷と横の接合
・A4用紙に楽譜を両面印刷する(1枚で楽譜2ページ分)
・印刷したA4用紙2枚を横に繋ぎ合わせる(これで4ページ分の原稿が完成)
・この「4ページ分の原稿」を2セット作成する(合計8ページ分の準備完了)
ステップ2:中央で折りたたむ
・ステップ1で作った横長の原稿(A4 2枚、楽譜4ページ分)を、中央で折りたたむ
ステップ3:2組の背を繋ぐ(8ページセット完成)
・折りたたんだ2組を、背の部分(折り目の部分)で接合する
– このとき、紙が2枚重なった部分同士を繋ぐため、厚みが自然に揃う
– これで、美しい8ページセットが完成
ステップ4:セットを増やして冊子に
・必要なページ数分、8ページセットを作る
・完成したセット同士を、同じように背で繋ぎ合わせる
– 8ページセット同士を繋ぎ合わせるときは、紙が4枚重なった部分同士を繋ぐことになる
– 結局毎回同じ厚みのものを繋いでいくため、段差ができない
· ページ数別の対応方法
8ページ未満の場合
ページ数が少ないので、両面印刷したA4用紙を横に繋ぐだけで完成です。一方、表紙や白紙のページなどを入れて8ページセットが1つできる枚数に仕上げるのも一つの方法です。
8ページ以上の場合
8ページセットを必要な数だけ作り、順次繋ぎ合わせます。最初は「8ページセット×2」を繋ぎ合わせ、次は、それでできた「16ページセット×2」を繋ぎ合わせていきます。常に同じ厚みの部分同士を接合するようにします。
端数がある場合
例えば20ページの楽譜であれば、8ページセット2つ(16ページ)と4ページセット1つを作ります。最後の4ページセットは、両面印刷したA4用紙2枚を横に繋いで中央で折るだけです。この場合、4ページセットの部分だけ厚みの接合条件が変わってしまうことになります。
‣ なぜ、この方法が優れているのか
均一な厚み
常に同じ条件で接合するため、ページ間に段差が生じません。ページ数が増えても斜めに傾きません。
見た目のシンプルさ
片面印刷の蛇腹製本よりも用紙数が半分で済むため、すっきりした仕上がりになります。
トラブル防止
楽譜を落としても、譜めくりで引っ張っても、輪っか状になりません。各セットが繋がっているため、構造的に安定しています。
‣ パート譜の製本について
アンサンブルやレッスンで他の演奏者にパート譜を渡す機会もあるでしょう。そんなときにも、この製本テクニックが真価を発揮します。アンサンブル練習でトラブルが起きにくく、シンプルで人に渡すのにも適しています。パート譜は通常B4サイズで作ることが多いため、上記の手順のA4をB4に置き換えて作成してください。
‣ 背表紙の仕上げ:完成度を一段階上げる
マスキングテープで背を固定するだけでも十分ですが、背ばりの幅広テープを使うと、より本格的な仕上がりになります。
筆者は「カラーのど布 35mm×20m(キハラ)」を愛用しています。価格は通常のマスキングテープより高めですが、以下のメリットがあります:
・幅が広いため、厚い背でも全体をしっかりカバーできる
・強度と柔軟性を兼ね備えている
・プロのオーケストラや音楽大学でも使用されている
・見た目が美しく、人に渡すのに最適
使い方は簡単で、完成した楽譜の背に沿って貼るだけです。多少の投資に見合う仕上がりが得られます。
► 終わりに:今日から蛇腹製本を卒業しよう
本記事で紹介した製本を実現することで、大きく以下のメリットが得られます:
・輪っか状態になるストレスから解放される
・蛇腹製本よりも薄く、見た目も優れた楽譜ができる
・かさばらず保管にも適している
・人に自信を持って渡せる仕上がりになる
ピアノの上達と同じように、製本技術も回数を重ねるごとに上達します。最初は少し時間がかかっても、数冊作ればスムーズにできるようになります。
次に製本する際は、この方法を試してみてください。演奏中のストレスが減り、より音楽に集中できることを実感できるはずです。
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