【ピアノ】メンデルスゾーン「無言歌集 第2巻 ベニスの舟歌 op.30-6」演奏完全ガイド

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【ピアノ】メンデルスゾーン「無言歌集 第2巻 ベニスの舟歌 op.30-6」演奏完全ガイド

► はじめに

 

曲の背景

メンデルスゾーンの「無言歌集」は、歌詞を持たない歌曲という独創的なコンセプトで書かれました。ピアノで歌を奏でるという発想は当時画期的で、シューベルトの即興曲と並び、ロマン派の性格的小品というジャンルの先駆けとなりました。

この楽曲は「無言歌集 第2巻 Op.30」に収められた1833-1834年の作品です。メンデルスゾーン自身が標題をつけた数少ない曲の一つで、無言歌集には計3曲の「ベニスの舟歌(ヴェネチアのゴンドラの歌)」が存在します。旅行好きだった作曲者は、訪れた土地の印象をスケッチのように小曲に仕上げることがあり、風景描写に優れた才能を発揮しました。

多くの無言歌と同様、この曲も歌曲のような旋律と一定の音型の伴奏で構成されており、比較的シンプルな形式の中に、控えめながら深いロマン的詩情が込められています。

(参考文献:ピアノ音楽事典 作品篇 / 全音楽譜出版社

 

演奏難易度と推奨レベル

この楽曲は「ブルグミュラー25の練習曲中盤程度」から挑戦できます。

 

本記事の使い方

この楽曲を、演奏のポイントとともに解説していきます。パブリックドメインの楽曲なので譜例も作成して掲載していますが、最小限なので、ご自身の楽譜を用意して読み進めてください。

各セクションごとに具体的な音楽的解釈を示していますので、練習の際に該当箇所を参照しながら進めることをおすすめします。

 

► 演奏のヒント

‣ 楽曲構成とテンポ設定について

 

楽曲構成

・序奏:1-6小節
・A:7-22小節
・B:23-42小節
・エンディング:43-55小節

 

テンポ

・♩. = 50 よりも遅くならないようにし、音楽の流れを意識する
・基本テンポとして♩. = 56-60 程度で演奏できると、流れと抒情的な雰囲気を活かせる

 

‣ 序奏:1-6小節

 

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲頭)

メンデルスゾーン「無言歌集 第2巻 ベニスの舟歌 op.30-6」の楽譜。楽曲の冒頭部分が記されており、伴奏の最上声部に隠された対旋律の例として使用されている。

アウフタクトと冒頭の扱い:

・曲頭のアウフタクトは8分音符
・長さが失われないよう、拍感をしっかり感じて弾き始める
・はじめのバス音「Cis → Fis」の動きをよく聴いてスタートする

 

左手の伴奏パターンに隠された対旋律:

・左手は単なる伴奏ではない
・丸印で示したように、その最上声部は「脇役のメロディ」と言えるほど重要な対旋律的要素を持っている
・きちんとダイナミクスを拾ってあげる

 

6/8拍子のリズム感:

・1小節目からの左手には注意が必要
・6/8拍子は本来2拍子系だが、バス音のFis音は各小節の頭のみに配置されている
・「1小節を2つ」ではなく「1小節を1つの大きな流れ」として捉える
・そうすることで、音型に沿った音楽エネルギーを表現できる

 

音色のコントロール:

・1小節目からの左手は、バス音のみを深めの音で演奏
・その他の音は響きの中に入れていくように柔らかく

 

譜例(3-6小節)

メンデルスゾーン「無言歌集 ベニスの舟歌 Op.30-6」の3-6小節の楽譜。fの扱い、ペダリング、セクションの橋渡しなど演奏上の注意点を説明するための譜例。

f の扱い:

・3小節目から出てくる右手は f だが、決して硬い音にしない
・太く深い音色で、少ない音数でも存在感のある表現を
・鍵盤のすぐ近くから押し込むように打鍵する
・デクレッシェンドを踏まえ、3小節目のEis音に重みを入れ、4小節目のGis音でおさめる
・このエネルギーが逆転しないよう注意

 

ペダリング:

・3-5小節途中まで同じ和声が続くため、長めのペダリングが効果的
・譜例へ書き込んだペダリングが一案

 

セクションの橋渡し:

・6小節目の右手が出る箇所では、少しだけ rit. をかけて「大切に音を出す」イメージで弾く
・ただし音楽は止めずに7小節目へ自然に入る

 

序奏の重要性

1-6小節は楽曲の雰囲気と重要な音型を提示する極めて重要な部分です。ここをしっかり理解してから先へ進みましょう。

 

‣ A:7-22小節

 

譜例(6-10小節)

メンデルスゾーン「無言歌集 ベニスの舟歌 Op.30-6」の6-10小節の楽譜。メロディの抑揚とCis音5連続の処理方法などを色分けで解説。

メロディの抑揚:

シンプルかつ叙情的なメロディでは、抑揚の付け方に細かな注意を払いましょう。

メロディにおける7小節目からのCis音5連続の処理:

・8小節目頭のレッド音符Cis音は小節頭かつ最長音価のため、最も深いタッチで
・7小節目の2つのCis音は、レッド音符へ向けた段階的な準備
・8小節目のブルー音符Cis音は裏にある短い音価なので、決して大きく飛び出ないように

それ以降のメロディにおける演奏注意点:

・グリーン音符で示した3つの音が譜例部分のメロディのヤマであるため、ここは指圧を深く
・10小節目の頭のCis音はフレーズ終わりの音であるため、静かにおさめる

 

フレーズの切れ目:

・10小節目のメロディのFis音は次のフレーズの音
・前のフレーズにつけないよう注意する

 

低音の扱い:

・12小節目の左手に非常に低い音が出てくるが、決して叩かない
・丁寧に打鍵すればそれだけで十分に響く

 

小さなヤマ:

・13小節目の右手、付点4分音符「Eis音」「Gis音」は共にしっかりと響かせる
・ここが11-14小節という小カタマリの中での「ヤマ」だから
・左手の扱いは5-6小節目と類似しており、注意点も同様

 

頂点のバランス:

・17-18小節では、メロディに2つの頂点(折り返し地点のA音とFis音)が出現する
・A音よりもFis音のほうを少しだけ抑えめにすると、バランスよくフレーズを作れる

 

ブリッジ(つなぎ目):

・伴奏部分は一つにまとめ、22小節目の頭でアクセントを入れないよう注意
・ここは次のセクションへの橋渡し

 

‣ B:23-42小節

 

3度音程のメロディと全体のヤマ:

・23小節目のアウフタクトから始まるメロディは3回繰り返される
・3回目(27小節目のアウフタクトから)で頂点を作る
・3回目が最も息が長くなっていることに注意する
・23-30小節まで一息で大きく捉えることが重要
・3度音程の扱い:ハモる箇所は「上の音が多めに聴こえるバランス」が鉄則
・30小節目の左手最後のEis音は丁寧に演奏する
・直後の跳躍に気を取られていい加減になりがちな箇所

 

ディミヌエンドの解釈:

・31小節目のディミヌエンドが書かれている位置は、まだ ff であることに注意
・ディミヌエンドの開始位置ですでに弱くなってしまわないように

 

トリルとダイナミクス:

・33-34小節のトリルはベニスの舟歌から連想されるさざ波のようなイメージで
pp なので遠くで鳴っているイメージを持つ
・ダイナミクスの松葉(クレッシェンド・ディミヌエンド)は両手ともに表現し、揺らぎを表現する
・持続の中で行われる時間的なダイナミクスの変化も「歌」の一種

 

無伴奏(ソロ)の扱い:

・35-36小節は左手パートが休符になり、メロディが無伴奏になる
・無伴奏という表現なので、必ずペダルも離すことが重要

このような片手のみになる部分で音のつながりを作るテクニックは、以下の書籍の「Weight-Transfer Legato」という項目で解説されているので、あわせて参考にしてください。

【ピアノ】「ピアニズムへのアプローチ 音楽的なピアノ演奏法」(大西愛子 著)レビュー:実践的ピアノ教則本

 

スフォルツァンドの表現:

・35小節目のスフォルツァンドは、デクレッシェンドの直後の表現なのでやり過ぎない
・少し重みが入る程度で十分

 

36小節目の装飾音符の運指

・36小節目のプラルトリラーは、運指「132」で入れると安定する

 

バスラインの処理:

・36-37小節のバスでは、「D → Cis」のつながりをよく聴く
・Cis音を強く弾かないように注意する

 

内声メロディとエコー:

・39小節目の右手は「内声がメロディ」で、上声のCis音は「エコー」
・したがって、上声のCis音は、音色に色を添えるイメージでうるさくならない程度にする

 

‣ エンディング:43-55小節

 

リズムのとり方の変化:

・43小節目の後半から45小節目にかけて、「リズムのとり方」が変わる
・右手のトップノートと左手のバス音は深く
・それ以外の音は響きの中に隠すようにして立体的に演奏
・43小節目の後半から少し巻いていき、45小節目の後半から46小節目の頭までを使ってたっぷり弾いて戻す
・そうすることで、音楽的なアゴーギクが生まれる

 

クレッシェンドの扱い:

・44小節目からクレッシェンドが書いてあるが、この開始点はまだ p
・クレッシェンドを「後ろ寄り」にすることで、直後の f を活かすことができる

 

トリルの末尾:

・46小節目から47小節目への移り変わりでは、トリルの末尾に気を取られて音楽が止まらないよう注意が必要
・左手パートを音楽が止まらないように弾き、その流れの中でトリルとその末尾を入れるようにする

 

遠ざかるイメージ:

・51小節目以降は、同じメロディを繰り返しながらも、だんだん遠ざかっていくようなイメージで演奏する
・繰り返しの3回目が音価拡大されていることに着目する

 

休符の解釈とフェルマータ

ここでの休符の解釈は、2パターンに分かれます:

1. 推奨:左手が休符になっている箇所ではダンパーペダルを離し、右手をソロにする
2. 同じハーモニーの中の動きなので、ダンパーペダルは踏んだままにする

前者を推奨する理由は、最終小節の右手と左手でフェルマータのつく位置が異なっていることから、両手の表現を別々にしたほうがメンデルスゾーンの意図を踏まえていると考えられるためです。

いずれにしても:

・最後の2小節に rit. は書かれていないが、補っても構わない
・「音像が遠ざかっていくイメージ」で消えていくように終わらせる

 

► 終わりに

 

この楽曲は、音楽的な表現の深さが問われる作品です。

・左手の対旋律的要素を意識する
・抑揚の細やかなコントロール
・フレーズのヤマとバランスを把握する
・音色の統一と横のつながり

本記事で解説したこれらの点を特に意識して、丁寧に練習を進めてみましょう。

 


 

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