【ピアノ】ハイドン 入門最適ソナタ9曲 選曲完全ガイド
► はじめに
古典派の巨匠ハイドンのソナタは、音楽的な豊かさと技術的な学習効果を両立した理想的な教材です。学習教材として知られているソナタアルバムに収録された作品よりも、さらに取り組みやすく、かつ音楽性も伴ったソナタを見ていきましょう。
本記事の対象レベル
「ブルグミュラー25の練習曲修了程度」から取り組める9曲を厳選しました。技術的な難易度に大差はありませんが、楽曲の規模や音楽的特徴により、体感難易度は異なるでしょう。
► 入門最適ソナタ9曲の解説
入門最適ソナタ9曲について、ワンポイント楽曲解説を紹介します。一言解説は、事典的内容ではなく、筆者自身の印象などを中心にしています。
また、演奏時間は「リピート無しの場合の時間」を記載しています。
‣ ソナタ ハ長調 Hob.XVI:1
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、第1楽章 曲頭)
作曲年:1750年
演奏時間:第1楽章 – 約1分30秒 第2楽章 – 約1分30秒 第3楽章 – 約1分30秒
習作的側面を持ちながら、緩徐楽章の美しさが際立つ入門に最適な作品。
第1楽章
・エチュード風の快活な楽章
・アルベルティ・バスに支配されたシンプルな作り
第2楽章
・子守歌風の美しい緩徐楽章
・3連符に貫かれた書法が特徴的
第3楽章
・明るくエネルギッシュなメヌエットと、陰りのある対照的なトリオ
・第2楽章で特徴的だった3連符を発展した書法
‣ ソナタ ハ長調 Hob.XVI:3
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、第1楽章 曲頭)
作曲年:1765年
演奏時間:第1楽章 – 約1分50秒 第2楽章 – 約3分 第3楽章 – 約1分50秒
やや明るさを抑えた落ち着きのある、内省的なソナタ。
第1楽章
・3連符の伴奏に乗せたシンプルなメロディ
・やや抑えられた内声的な明るさ
第2楽章
・特徴的なリズムを有す緩徐楽章
・楽譜は複雑に見えるが、譜読みに際して特に困難さはない
第3楽章
・明るく可愛らしいメヌエットと、陰りのある対照的なトリオ
・16分音符4つによるアウフタクトが印象的
‣ ソナタ ニ長調 Hob.XVI:4
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、第1楽章 曲頭)
作曲年:1765年
演奏時間:第1楽章 – 約3分30秒 第2楽章 – 約2分
第1楽章だけでもリピートなしで約3分半あり、規模的に充実した2楽章構成の作品。
第1楽章
・Allegroだが、落ち着いたテンポで演奏されることの多い楽章
・両手の対話が魅力的
第2楽章
・落ち着きのあるメヌエットと、やや運動的なトリオ
・トリオで控えめに出てくる付点リズムが印象的
‣ ソナタ ハ長調 Hob.XVI:7
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、第1楽章 曲頭)
作曲年:1766年
演奏時間:第1楽章 – 約40秒 第2楽章 – 約1分20秒 第3楽章 – 約40秒
オーケストラ的な重厚さと軽快さを併せ持つ充実作。
第1楽章
・和音奏と細かなパッセージの対比が印象的
・速過ぎず、堂々とした曲想
第2楽章
・可愛らしいメヌエットと、陰りのある対照的なトリオ
・トリオでは新しい色を出しつつ、メヌエット部分との共通点も見られる
第3楽章
・快活で終楽章にふさわしいシンプルなフィナーレ
・左手にピアノ特有の分散オクターヴトレモロ書法が見られる
‣ ソナタ ト長調 Hob.XVI:8
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、第1楽章 曲頭)
作曲年:1766年
演奏時間:第1楽章 – 約1分10秒 第2楽章 – 約30秒 第3楽章 – 約40秒 第4楽章 – 約15秒
全音ピアノピースでもラインナップされており、比較的知られている。全4楽章で楽譜3ページのコンパクトな作品。
第1楽章
・付点リズムが印象的な覚えやすい主題
・伴奏部分の作り方に工夫が見られ、シンプルながらも充実した内容
第2楽章
・16小節のみのシンプルなメヌエット
・優しく落ち着いた内省的な雰囲気
第3楽章
・メロディの1オクターヴ跳躍が印象的
・第2楽章とのまとまりを感じるアンダンテ
第4楽章
・極めて明るく快活なアレグロ
・他楽章との明確な対照
‣ ソナタ ヘ長調 Hob.XVI:9
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、第1楽章 曲頭)
作曲年:1766年
演奏時間:第1楽章 – 約1分 第2楽章 – 約1分50秒 第3楽章 – 約20秒
楽章間バランスが優れた内容充実作。
第1楽章
・どことなく「ソナタ ホ長調 Hob.XVI:13 第1楽章」を思わせる
・付点リズムが多いため複雑な楽譜に見える
第2楽章
・メヌエットから極めて自然に連結されるトリオ
・メヌエット・トリオ共に、オクターヴの深い響きが印象的
第3楽章
・喜びに満ちた明るく快活なアレグロ
・他楽章との明確な対照
‣ ソナタ ハ長調 Hob.XVI:10
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、第1楽章 曲頭)
作曲年:1767年
演奏時間:第1楽章 – 約1分40秒 第2楽章 – 約1分50秒 第3楽章 – 約1分30秒
特に第3楽章が優れた内容充実作。
第1楽章
・モデラートだが、メロディに細かな音価が多く出てくるので、明るい印象
・やや技巧的な印象がある
第2楽章
・明るく可愛らしいメヌエットと、陰りのある対照的なトリオ
・メヌエットを支配している3連符が印象的
第3楽章
・軽さ、華やかさ、内省さ、など様々な要素がバランスよく顔を見せる
・この楽章単独で演奏するのにも適した、バランスの取れた構成
‣ ソナタ ト長調 Hob.XVI:G1
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、第1楽章 曲頭)
作曲年:1760年
演奏時間:第1楽章 – 約1分30秒 第2楽章 – 約2分 第3楽章 – 約1分
ハイドン作でない説もある装飾的作品。
第1楽章
・装飾的なパッセージが多い
・左手パートにメロディが出てきたりと、音域の工夫が見られる
第2楽章
・メヌエットとトリオの差が少なく、人つながりのような構成
・メヌエット・トリオ共に、音域の差を聴かせることが音楽的アイディアとなっている
第3楽章
・中間部の音域や和声的な対照が魅力
・小さな編成のオーケストラが聴こえてくるような楽章
‣ ソナタ ニ長調 Hob.XVII:D1
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、第1楽章 曲頭)
作曲年:1750年代後半-1760年代初頭
演奏時間:第1楽章 – 約2分30秒 第2楽章 – 約25秒 第3楽章 – 約1分
変奏曲の第1楽章と演奏効果の高い第3楽章。
第1楽章
・主題と3つの変奏による小さな変奏曲
・この楽章単独で演奏するのにも適した、バランスの取れた構成
第2楽章
・16小節のみのシンプルなメヌエット
・3連符のコロコロした動きが可愛らしい
第3楽章
・技巧的かつ重厚さを持ち、他の楽章と対照的
・小さな編成のオーケストラが聴こえてくるような楽章
► 条件別選曲ガイド
‣ とにかく取り組みやすい作品から始めたい
本記事で紹介している9曲は全て、「ブルグミュラー25の練習曲修了程度」から取り組めるため、難易度に大差はありません。一方、使用音型や楽曲規模のことを考えると、以下の3曲あたりから取り組むと最もスムーズにいくでしょう。
推奨順序:
1. ソナタ ト長調 Hob.XVI:8 – 全4楽章を合わせても楽譜3ページ
2. ソナタ ハ長調 Hob.XVI:1 – 音型的にソナチネを弾く感覚で取り組める
3. ソナタ ハ長調 Hob.XVI:3 – 落ち着いた印象で、高度なテクニックが不要
‣ 演奏発表会映えする選曲をしたい
演奏効果を最優先に選曲をするのであれば、以下の2曲がおすすめです:
最優先推奨:
・ソナタ ハ長調 Hob.XVI:10 – 特に第3楽章の完成度が秀逸
・ソナタ ニ長調 Hob.XVII:D1 – 変奏曲と技巧的終楽章
準推奨:
・ソナタ ハ長調 Hob.XVI:7 – オーケストラ的重厚感
► 学習に役立つ参考資料
‣ 推奨楽譜:紹介9曲完全収録版
ハイドン ソナタ全集 第1巻 ヘンレ版
特徴:
・「ソナタ全集 第1巻」には、本記事で紹介した9曲を完全収録
・原典版として最も信頼性が高い
・運指付きで学習に最適
‣ 参考書籍:分析・解釈本
書籍「ハイドン ピアノソナタ 演奏の手引き」では、本記事で紹介した9曲のソナタは詳細解説されていません。しかし、ハイドンのソナタを演奏するにあたって必修ともいうべき知識的な内容がバランスよく取り上げられているので、入門段階から目を通しておくことをおすすめします。
・ハイドン ピアノソナタ 演奏の手引き 著:ヨセフ ブロッホ、ピーター コラジオ 監修:中村菊子 訳:大竹紀子 / 全音楽譜出版社
‣ 参考演奏:紹介9曲完全収録版
ハイドンのソナタの優れた録音は多くあります。音源が手に入りやすく、かつ、音楽的でおすすめの演奏は、ウィーンのピアニスト「ローランド・バティック」の録音です。その特徴は:
・特別にクセのある解釈をしていない、正統的な演奏
・テンポも標準的な設定であり、学習の模範演奏にも適している
・リピートはしている部分とそうでない部分が混在
以下の「ハイドン:ピアノ・ソナタ全集 I 」には、本記事で取り上げた全9曲が完全収録されています。
・ハイドン:ピアノ・ソナタ全集 I ローランド・バティック
► 発展学習:「ソナタアルバム1」収載曲へ
本記事で取り上げた入門用のソナタから数曲を学習したら、「ソナタアルバム1」に収載されているやや高度なソナタにも挑戦してみましょう。具体的には:
・ソナタ ハ長調 Hob.XVI:35
・ソナタ ト長調 Hob.XVI:27
・ソナタ ニ長調 Hob.XVI:37
・ソナタ 嬰ハ短調 Hob.XVI:36
・ソナタ ホ短調 Hob.XVI:34
これらのソナタは、「ソナタアルバム1」という教材を使うかどうかに関係なく学んでおくべき、内容的にも知識的にも重要なソナタです。
► 終わりに
ハイドンのソナタは、古典派音楽の基礎を学ぶ最適な入口です。技術的負担を抑えながら、音楽的な充実感を味わえる厳選9曲で、確実な学習の進歩を目指しましょう。
各自の目標(技術習得重視・演奏会準備・音楽性向上)に応じて選曲し、推奨資料を活用することで、効率的な学習が可能になります。
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