【ピアノ】グリーグ 「抒情小曲集 第1集 アリエッタ Op.12-1」演奏完全ガイド

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【ピアノ】グリーグ 「抒情小曲集 第1集 アリエッタ Op.12-1」演奏完全ガイド

► はじめに

 

曲の背景

グリーグは、ライプツィヒ音楽院での学習を終えて故郷ベルゲンに帰郷したのが19歳の1862年でしたが、その後、作曲家、ピアニスト、指揮者として着実に活躍の場を広げていきました。そうした時期の1867年に、「抒情小曲集 第1集」を構成する8曲が出版されます。この年は、3年前から婚約していた歌手ニーナ・ハーゲルップと結婚した年でもありました。

この「アリエッタ」は、わずか23小節という非常に短い小品で、極めて簡素な構造を持っています。興味深いことに、この曲の旋律は、全10集からなる「抒情小曲集」の最後の曲において、リズムを変えた形で再び登場するのです。

(参考文献:ピアノ音楽事典 作品篇 / 全音楽譜出版社

 

演奏難易度と推奨レベル

この楽曲は「ブルグミュラー25の練習曲中盤程度」から挑戦できます。

 

本記事の使い方

この楽曲を、演奏のポイントとともに解説していきます。パブリックドメインの楽曲なので譜例も作成して掲載していますが、最小限なので、ご自身の楽譜を用意して読み進めてください。

各セクションごとに具体的な音楽的解釈を示していますので、練習の際に該当箇所を参照しながら進めることをおすすめします。

 

► 全体の構成を把握する

 

細かい内容に入る前に、まず全体像を確認しましょう。

前半部分:

・1-4小節(2小節×2)
・5-8小節(2小節×2)
・9-12小節(2小節×2)

後半部分:

・13-16小節(1-4小節の繰り返し、多少変形あり)
・17-18小節(5-8小節の繰り返し、変形あり、2小節縮小)
・19-22小節(9-12小節の繰り返し、変形あり)
・23小節目(エンディング)

構成上の特徴

後半の17-18小節が、前半と比較して「2小節分縮小」されています。この凝縮感が楽曲に変化をもたらしています。

 

► 演奏のヒント

‣ 1-12小節:前半部分のポイント

 

和声的対比による「問い」と「応え」

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-4小節)

グリーグ 抒情小曲集 第1集 アリエッタ Op.12-1 冒頭の楽譜。和声的対比による対話関係の実例。

この楽曲の大きな特徴は、純粋な「問い」と「応え」の構造に加えて、和声的な対比が重要な役割を果たしていることです。

・問い:T(トニック)→ D(ドミナント)
・応え:D(ドミナント)→ T(トニック)

このように和声的に対照的な設定がされていることで、対話関係がより明確になります。演奏する際には、この和声の流れを意識するようにしましょう。

 

メロディの表現とエネルギー

この楽曲ではメロディに対してシンプルな伴奏が付けられているので、メロディが命とも言えます。メロディが持つエネルギーや特徴を理解することから始めましょう。

1-2小節にかけてのメロディでは、G音が5回連続で「同音連打」されています。音楽的には2小節目冒頭のG音に向かってふくらませていきます。

重要な原則:

・ウタは必ずしもメロディの流麗さで表現されるとは限らない
・「メロディ自体は停滞させておいて、ダイナミクスで表現をつける」というのは、それ自体が十分にウタの表現

演奏のポイント(1-2小節):

・1小節目からのG音5回を、すべて同じ音質で並べないこと
・2小節1拍目の「G音」に向かって膨らませる
・2拍目の「F音」でおさめる(フレーズ終わりで大きくならない)
・G音は、E音を挟みつつ「F音に解決する音」であることを意識
・F音は、G音とE音の両方に対してつながりがある音として認識

3-4小節目は「移高」していますが「繰り返し」なので、基本的な考え方は同様です。

 

練習の際には、以下を意識しましょう:

・練習の段階では少し大げさなくらいに表現してみる
・そのほうが、音楽の方向性がつかめる
・最終的に仕上げる段階で「やり過ぎかも」と思えば、そのときにいくらでも調整可能

 

伴奏の処理

「左手の16分音符の伴奏」と「右手の16分音符の伴奏」が「1本のライン」になるように滑らかに連結しましょう。

テクニック面でのポイント:

・鍵盤に指をつけておいたまま打鍵する
・高くから打鍵すると打鍵速度が速くなり、音が立ち上がってしまう
・伴奏は一音一音がはっきり聴こえる必要はない
・メロディやバスの響きの中に隠していくのように柔らかく演奏

 

アーティキュレーションの変化

5小節目からは「アーティキュレーション」が細かくなります。両手で演奏する際にはダンパーペダルを使用することになりますが、手ではしっかりとアーティキュレーションを作りましょう。

ダンパーペダルを使っているので音は伸びますが、手でニュアンスを表現しているかどうかによって、「音の横へのつながり方」が全く違ってきます。

 

その他、5-8小節の演奏ポイント:

・6小節2拍目は大きくならないようにおさめる
・7-8小節目は5-6小節目の繰り返しだが、7小節目に変化がある
・細かな音価は「重くならない」ようにサラリと演奏
・8小節目最後の「右手G音」は、直後のメロディA音と近いため、静かに

 

メロディの動きが活発に

9小節目からはメロディの動きが細かくなります。やはり、「2小節1つの大きなフレーズ」で演奏します。

部分部分はよく弾けていても「フレーズが細切れ」になってしまっている演奏は、ある程度学習が進んでいる方の演奏でも度々聴かれます。大きなフレーズ感を常に意識しましょう。

 

(再掲)

グリーグ 抒情小曲集 第1集 アリエッタ Op.12-1 冒頭の楽譜。和声的対比による対話関係の実例。

9-10小節のメロディを音楽的に演奏するヒント:

・9小節目は高いF音に向かうエネルギーを表現
・跳躍音程のつながりを意識し、音楽が完全に分断されないように
・10小節1拍目のFis音には「重み」が入り、2拍目のG音でおさめる

 

立体的な演奏を目指す

この楽曲を攻略する一番のキーポイントは、「聴こえてほしい音と、響きに隠しても大丈夫な音を徹底的に区別する」ことです。そうすることで初めて「立体的な演奏」を目指せます。

 

和声リズムの変化

1-4小節目はバス音が「保続」されているので、「音楽の進行感」はまだ強くありません。一方、5-8小節目は「1拍ずつ」和声が移り変わっていきます:

・和声が変わるということも一種のリズム表現
・つまり、音楽の進行感が1-4小節目よりも強くなっている

5-8小節目は、和声リズムとしてもアーティキュレーションとしても音楽が動き始めている箇所です。

和声変化部分におけるバランス:

・4分音符でバス音が動くため、「メロディとバス音とのハモリ」が聴こえる
・メロディのほうが多めに聴こえるバランスで演奏する(鉄則)
・7小節目の内声がメロディと同じリズムで動く箇所は、内声が目立たないように

 

ソロとペダリング

9小節2拍目は右手が「ソロ」になります:

・ダンパーペダルをしっかり離して左手の響きが残っていないように
・11、19、21小節目も同様
・「ソロ」というのはそれ自体が特徴ある重要な音楽表現

 

親指の連続

12小節目の右手は、前からのフレーズのつながりを考えると、親指の連続で内声のラインを演奏することになります。ダンパーペダルは使用していますが、指でもなるべく音を残しながらレガートを意識して演奏しましょう。

 

‣ 13小節以降:後半部分のポイント

 

装飾音符の処理

13小節目からの入りには「2つの装飾音符」がかかっています。演奏ポイントは:

・最重要:装飾音符がかかっている先の「大きな音符(幹の音)」が時間通りの位置に来ること
・装飾音符は「前」に出す
・装飾音符は極めて軽く入れて、大きな音符よりも目立たせない
・一音一音がはっきり欲しいわけではなく、装飾音符全体でハーモニーが見えれば十分

 

その他の注意点:

・13小節目:この楽曲で最も低いバス音が出てくるが、低音は丁寧に押し込むだけで十分響く(叩かない)
・16小節目最後の「右手B音」は、直後のメロディB音と同音なので、明確に音色とダイナミクスを変える
・18小節目最後の「右手Es音」は、直後のメロディF音と近いため、静かに
・19小節目は要注意:11小節目や21小節目とほぼ同じだが、左手がわずかに異なる

「似ているけど少し違う箇所」をしっかりと整理して譜読みしておくことで、楽曲解釈だけでなく、後ほど「暗譜」をする際にも非常に役立ちます。

 

23小節目:エンディング

たった1小節のみのエンディングで、「1小節目のメロディ」を回想しています。「エコー」のような効果です。演奏注意点は:

・曲頭と同様にすべて同じ音質の音を並べないこと
・音像が遠くなっていくかのようにデクレッシェンド
・フェルマータがあるが、「抒情小曲集 第1集」の1曲目なので、やり過ぎないほうが全体のバランスが良い
・単独で演奏する場合は「長めのフェルマータ」にしても良い

音楽表現は「楽曲を演奏する状況」などからも考えていくようにしましょう。

 

► 終わりに

 

本記事で解説したポイントを参考に、細かなニュアンスまで丁寧に表現することで、この楽曲の持つ魅力を最大限に引き出すことができるでしょう。

「その瞬間に一番聴こえていて欲しい音はどこなのか」という観点を常に意識して、立体的で豊かな演奏を目指してください。

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

作曲の視点からピアノ学習者の学習的自立を支援/ピアノ情報メディア「Piano Hack | 大人のための独学用Webピアノ教室」の運営/音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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