【ピアノ】クララ・シューマンが編曲した「告白(ロベルトのOp.74-7)」:特徴と演奏のヒント

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【ピアノ】クララ・シューマンが編曲した「告白(ロベルトのOp.74-7)」:特徴と演奏のヒント

► はじめに

 

ロベルト・シューマンの歌曲「告白(Geständnis)Op.74-7」には、妻であるクララ・シューマンの手によるピアノ独奏版が残されています。19世紀の女性ピアニスト・作曲家として活躍したクララは、夫の歌曲作品に深い愛情と音楽的洞察力を注ぎ、ピアノ一台のみで表現できる形へと書き換えました。声楽パートとピアノ伴奏という二重の構造をピアノソロに集約しつつ、原曲が持つ詩情と音楽性の豊かさを損なわない——ここにこの編曲作品の魅力があります。

本記事では、クララ版「告白」における音楽的な見どころ、演奏上の技術的課題、そして表現を深めるためのアプローチを丁寧に紐解いていきます。

 

► 前提知識

‣ 原曲「告白」の基本情報

 

シューマン「スペインの歌 Op.74 より 第7曲 告白」(原曲の歌曲)

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲頭)

シューマン「スペインの歌 Op.74 より 第7曲 告白」原曲の歌曲版 曲頭の楽譜。

作曲年:1849年
演奏時間:約1分30秒
歌詞:エマヌエル・ガイベルの詩
内容:恋人への愛が唯一無二の、極限的な感情となり、他のいかなる望みも持てないがゆえに、死さえ願ってしまうほどの強烈な献身を歌った曲
構成:「スペインの歌 Op.74」の第7曲

 

「スペインの歌 Op.74」は全10曲で構成される歌曲集です。この中でクララがピアノ独奏版へと編曲したのは、本楽曲のみとなっています。

 

‣ クララ・シューマンについて

 

クララ・シューマン(1819-1896)

・19世紀を代表する女性ピアニスト・作曲家
・ロベルト・シューマンの妻(1840年結婚)
・優れた音楽編集者としても活動
・ブラームス、リストらと深い音楽的交流を持つ

 

クララの父フリードリヒ・ヴィークは、ロベルトのピアノ教師でありながら二人の結婚に強く反対していました。法廷闘争まで発展した困難を乗り越えて結ばれた二人の愛の物語は、音楽史上最も美しいエピソードの一つです。

クララは演奏家として国際的な名声を得ただけでなく、ロベルトの作品の編集者・解釈者としても重要な役割を果たしました。彼女が編集した楽譜や編曲作品は、作曲者の意図を深く理解した資料として、今日でも高い価値を持っています。

 

► クララ編における編曲の基本方針と難易度

 

シューマン「告白(クララによる編曲版)」

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲頭)

シューマン「告白(クララによる編曲版)」曲頭の楽譜。

クララ・シューマンの編曲アプローチで最も注目すべき点は、原曲に対する深い敬意と忠実な再現姿勢です。ロベルト・シューマンが歌曲に込めた音楽的メッセージを、ピアノでいかに忠実に表現するか——この編曲哲学が作品全体を貫いています。

 

編曲の音楽的特徴

原曲伴奏の忠実な再現:

・オリジナルのピアノ伴奏を構造の土台として採用
・和声の流れや楽曲全体の呼吸感を大切にし、原作の世界観を尊重
・余計な装飾の追加や改変を排し、ロベルトの創作意図を最優先に反映

声部設計における精緻なバランス:

・歌のメロディをピアノの響きの中に溶け込ませつつ、明瞭さを確保
・音域の選定や各声部の音量調整を通じて、旋律の聴き取りやすさを保つ
・声部同士が競合せず、それぞれが役割を果たす緻密な音配置

こうした編曲技術により、歌曲の持つ叙情性と、ピアノ作品としての自立性が融合した一曲となっています。

 

技術的難易度

ツェルニー40番中盤程度から挑戦可能

演奏技術的には、クララが編曲した「ロベルト・シューマンの30のリートと歌」の30曲中、難易度の高い部類に入ります。高速パッセージの滑らかな両手分担、高速同音連打など、種々のテクニックが求められます。

 

► 演奏上の注意点

‣ 曲頭部分:リズムの明確化

 

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲頭)

シューマン「告白(クララによる編曲版)」曲頭の楽譜。リズムの明確化のポイント。

課題

1小節目は、付点リズムとタイが併用されているため、リズムが甘くなりがちです。

解決法:

・特に打鍵のない3拍目と4拍目の頭では、拍を正確に刻む
・これができないと、2小節目からの旋律が不明瞭になる
・メトロノームを使い、すべての拍を出して練習するのもおすすめ

 

‣ 後半部分:テヌート的表現

 

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、27-28小節)

シューマン「告白(クララによる編曲版)」27-28小節 テヌート入れ解釈による表現のポイント。

音楽的特徴

27小節目の後半からは、楽曲中では珍しく16分音符の動きが一時的に消失します(29小節目まで)。

表現のポイント:

・レッド音符で示した部分に、テヌートがついているイメージを持つ
・その各音をやや引き伸ばしたようにたっぷりと歌い、丁寧に響かせる

 

‣ 終結部分:クライマックスへの推進力

 

音楽的構造:

・29小節目いっぱいまで16分音符なし
・30小節目から再び16分音符が戻る
・これが音楽の方向性を示す重要な目印

演奏のポイント:

・30小節目からは一気に進む
・35小節目の和音部分も rit.(リタルダンド)せず
・ノンストップで最後まで推進力を維持

 

► 楽譜情報

 

クララ・シューマンによるロベルト・シューマン歌曲の編曲集はいくつかの出版社から刊行されていますが、以下のRies & Erler出版の楽譜をおすすめします。

 

推奨楽譜

・クララによるシューマン歌曲のピアノソロ編曲集 30 Lieder und Gesange fur Klavier

 

 

特徴:

入手性:国内外で広く流通
網羅性:クララが編曲したロベルト歌曲30曲を収録
実用性:原曲の歌詞が掲載されている(デュラン版などとの大きな違い)
資料価値:歴史的価値と実用性を兼ね備える
投資価値:他の編曲作品も学べるため、長期的な投資価値が高い

音楽学習者、研究者、演奏家に広く愛用されている定番楽譜です。

 

► 終わりに

 

クララ・シューマンがロベルトへの深い愛情と音楽的共感から生み出した編曲版「告白」は、声楽という形式の核心をピアノという一つの楽器で表現した作品です。演奏においては、もちろん技術的な精度が求められますが、それ以上に大切なのは、歌詞に込められた詩的なメッセージを読み解き、それをピアノの響きで「物語る」姿勢を持つことです。その表現への意識が、この作品の美しさを最大限に引き出すカギとなります。

本記事で紹介した演奏のコツや表現法を活かして、クララ版「告白」の演奏に挑戦してみてください。

 


 

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