以下の譜例をご覧ください。
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、53-54小節)
この楽曲でメインとしてきた旋律が
左手で演奏する音の中に埋め込まれて
アクセント記号で示されています。
これを見たときに
気がついたかもしれませんが、
下段がそれだけでも成立する、
いわゆる「左手のためのピアノ曲」のようになっているのです。
構造的には、
「左手のためのピアノ曲の上で、右手がさらなるハーモニーと対旋律的要素をやっている」
ということですから、
右手の音数こそ多いのですが
音楽的な比重は
圧倒的に左手が占めています。
こういった書法は
演奏も比較的難しいですし、
ラフマニノフのように
自身がピアニストである作曲家でないと
なかなか思いつきにくいものでしょう。
特に近代以降の作品でたびたび見られるようになったこの書法ですが、
音色の拡大はもちろん、
「ピアノ1台で、それまでよりも多層的な表現ができる」
という点でも音楽を深化させました。
あらゆる要素がいっぺんにでてきているので、
3本の手で弾いているかのように聴こえますね。
フランツ・リストのピアノの腕前が凄すぎて
何本もの腕を持っているのではないかというイメージから
たくさんの腕を持ったリストが描かれたイラストもありますが、
それとは根本的に異なっています。
このラフマニノフの例は
技巧的で3本の手で弾いているように聴こえるのではなく、
多層的でそのように聴こえるんです。
「右手でメロディを弾き、左手で伴奏をする」
というオーソドックスなスタイルではない書法は他にもたくさんあります。
読者さんが取り組んでいる作品でも
「役割分担を見る」
という視点で楽譜をながめてみてください。
きっと、小さなことでも発見があるはず。
似たような発想による書法で
スクリャービンが作曲した例も記事にしています。
【ピアノ】スクリャービンが取り入れた、3手的なピアノソロ書法
という記事を参考にしてください。
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