【ピアノ】ドビュッシー作品の演奏ポイント解説集:譜例付き実践ガイド
► はじめに
本記事では、ドビュッシーのピアノ作品における実践的な演奏アドバイスをまとめています。各曲の重要なポイントを、譜例とともに具体的に解説していきます。
この記事は随時更新され、新しい作品や演奏のヒントが追加されていく予定です。
► 小品
‣ ボヘミア風舞曲
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)
メロディ自体にリズムの特徴が強く出ています。
カギマークで示しましたが、こういったリズミカルなメロディが出てくるところではスラーに注目してください。
大抵その部分がカンタービレなウタになっていますので。
ここでは、「リズムを聴かせるところとウタを聴かせるところが交互に登場する」という成り立ちになっています。
‣ 2つのアラベスク
· 第1番 ホ長調
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、3-5小節目の要所のみを抜き出したもの)
3小節目から5小節目にかけて、矢印で示したようにメロディとバスの動きが「反行」していくので、5小節目は開放的に。
ハーモニーを見てみましょう。「コードネーム」で表記しました。
3小節目から5小節目にかけてハーモニーが変わって行っているのは事実なのですが、よく注意してみると、「Fa-La-Do」という3つの音は3-5小節までずっと共通している、ということに気づくと思います。
こういったことを読み取れるようになると、「暗譜」をする際にも役に立ちます。
· 第2番 ト長調
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、35-36小節の右手)
丸印をつけた音が「幹の音」ですが、この幹の音がきちんと時間通りの位置に来なくてはいけません。3連符で装飾されているため、拍の感覚が曖昧になってしまいがちなので注意しましょう。
練習のポイントは、装飾的な音を省略して、丸印をつけた音と左手だけで演奏してみること。この練習で拍の整理をして骨格を理解してから、原曲通り演奏してください。
‣ 夢(夢想)
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、32-34小節)
点線矢印を見てください。F音がE音に解決しています。C-durの属七の第7音がⅠの第3音に解決しているということです。したがって、E音がF音よりも大きくなってしまわないように。
「33小節1拍目の右手H音」はメロディではありません。メロディはタイでつながれているD音の方なので、H音は静かに演奏し、メロディに聴こえてしまわないように注意してください。
丸印で囲んだ2つの音は以下のような役割分担です:
・33小節目の2分音符の方は「メロディ」
・34小節目の8分音符の方は「伴奏」
この2つのC音は別物になるように、音色を変えましょう。
‣ 小さな黒人(ケークウォーク)
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、16-21小節)
多くのピアニストが「Un peu retenu」の箇所を mp でスタートして、段々遠ざかっていくように演奏しています。
一方、直前の f がそのまま続いていると考え、「Un peu retenu を強くから始める」というのも解釈としてはアリでしょう。
「Un peu retenu(すぐに少し遅く)」の文字通り、テンポをゆるめるのは少しにしておくのが得策。まだ楽曲の前半なので、あまりにもゆるめてしまうと段落感がつき過ぎてしまうからです。
・大人のための独学用Kindleピアノ教室 [ドビュッシー 小さな黒人] 徹底攻略
► ベルガマスク組曲
‣ 2. メヌエット
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)
1小節目から、注意すべきたくさんの要素が出てきます:
・和音の上音や下音にくるメロディ
・手の交差
・「スタッカートのついている8分音符」と「そうでない8分音符」の区別
・これらのことを意識しながら、「極めてデリケートに pp で」の指示
この楽曲で全編にわたってキモになってくるのが、聴こえるべき音と隠れるべき音の弾き分け。
1小節1拍目で聴こえるべき音は丸印で示した音。和音の上音や下音にメロディが来ており、他の5度音程で付着している音は色彩をコントロールするためのものです。
‣ 3. 月の光
譜例(PD作品、Finaleで作成、左側の譜例 27小節目 / 右側の譜例 66小節目)
66小節目では27小節目と「同じ音型」「同じハーモニー」が出てきますが、大きな違いがあります。その違いとは、メロディの有無。27小節目にはメロディがありますが、66小節目にはありません。つまり、66小節目の音群は「単純な伴奏」なのです。
しかし、まるで16分音符のメロディを弾いているかのように各音を目立たせて弾いてしまっている演奏が聴かれます。
ここでは、あくまでも伴奏として、音粒が立ち過ぎないように気をつけるべき。
(再掲)
27小節目を見た後で66小節目を見るとメロディが無いことに気づく方もいるはずですが、もし仮に66小節目を単独で目にした場合はどうでしょうか?
次の67小節目でメロディが現れたことを認識しなければ、伴奏だと思わないかもしれません。あるいは、両方ともメロディだと勘違いしてしまうかもしれません。
取り組んでいる楽曲において、ある場面での音群が:
・メロディなのか
・伴奏なのか
・それ以外なのか
こういった内容を注意深く観察するべき。
そのうえで:
・聴かせるべき音
・響きの中に隠すように柔らかく演奏すべき音
これらを区別しましょう。そうすることで、役割分担が明確に表現された立体的な演奏を目指すことができます。
‣ 4. パスピエ
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、7-11小節)
黄緑色のラインの箇所は、同じ音型が3回繰り返される中で段々と音域が上がっていきます。したがって、9小節3拍目にヤマがくるように音楽を作りましょう。
ただし、全体が「ピアノ(弱く)」の領域の中でのヤマなのでやり過ぎないように。
譜例の9-10小節目は、書き込んだカギマークのように、リズムのとり方が「変則的」になっています。拍子記号を変えずに拍子の感覚を変化させる作曲法と言えるでしょう。
► ピアノのために
‣ 2. サラバンド
譜例(PD作品、Finaleで作成、曲頭)
譜例のように、同じ音型の繰り返しでも「一方にはダイナミクスの松葉が書かれておらず、もう一方には書かれている」といった表現が頻出します。細かなアーティキュレーションに変化がつけられている楽曲もあります。
必ずしもドビュッシーの作品に限られるわけではありません。しかし、「単純な繰り返しをとても嫌った作曲家」と言われているだけあって、彼の特徴と断言できるほど本当によく見られるのです。
► 版画
‣ 3. 雨の庭
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、1-2小節)
丸印で示した音がメロディに聴こえてしまわないように注意しましょう。
取り組んでいる楽曲において、ある場面での音群が:
・メロディなのか
・伴奏なのか
・それ以外なのか
こういった内容を注意深く観察するべき。
そのうえで:
・聴かせるべき音
・響きの中に隠すように柔らかく演奏すべき音
これらを区別しましょう。そうすることで、役割分担が明確に表現された立体的な演奏を目指すことができます。
► 子供の領分
‣ 1. グラドゥス・アド・パルナッスム博士
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、68小節目の練習例)
68小節目は平行和音になるので、ポジションをうまくつかめるかどうかがカギとなります。
譜例のように、分散和音を通常の和音に戻してつかむ練習をすることで、確実にポジションを用意できるようにしておくといいでしょう。
譜例の内容がスムーズにできるようになったら、右手を「8分音符分」前にずらした練習もしておきましょう。
・大人のための独学用Kindleピアノ教室 [ドビュッシー グラドゥス・アド・パルナッスム博士] 徹底攻略
‣ 6. ゴリウォーグのケークウォーク
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、1-4小節)
矢印のように、4小節2拍目の右手のCes音は左手のB音へつながっています。つまり、2拍目裏の右手パートの和音(Re So)は「別の楽器」で鳴っているイメージ。
2拍目裏は強く打鍵するところなので右手も鳴らして構いませんが、左手のB音のオクターブに一番重みが入るように演奏した方が立体的です。
この音へ入る時には間(ま)を空けたりせず、止まらずに一気に入ると効果的。
► 前奏曲集 第1集
‣ 2. 帆
譜例(PD作品、Finaleで作成、曲頭)
1小節2拍目の裏では4つの32分音符が詰まっていますが、そのはじめの音は直前からタイでつながれています。
こういったリズムはよく見られるものですが、タイでつながれた音の直後で発音する音にアクセントがついてしまわないよう注意しなければいけません。丸印で示した音のことです。
タイで結ばれた頭の音でしっかりと「体内のザッツ」をとらないと、リズムが崩れてしまいます。
だからこそ、ある種の苦労が伴って、タイでつながれた音の直後の発音する音にアクセントがついてしまいがちなのでしょう。
そこだけ飛び出してしまっては音楽的ではなく、一つの流れの中へ入れてあげるべきです。
‣ 8. 亜麻色の髪の乙女
譜例(PD作品、Finaleで作成、30-31小節)
ここでの内声には、丸印で示したGes-As-Bというラインが隠されており、第2の旋律として聴かせることが慣例となっています。
しかし、このB音を際立たせるのがやりにくく感じる方もいるはず。
際立たせたい内声の音を運指の工夫で抽出する方法があります。
前後関係として可能であれば、その音を、演奏する手の最上声か最下声へもってくるように、運指を工夫してください。
譜例の場合は具体的に、l.h.で示した上段のGes音を左手でとってしまいます。
そうすることで、際立たせたいB音が右手で演奏する音の中では最下声となるので、Ges音も右手で弾く場合に比べると格段に際立たせやすくなります。
(再掲)
30小節目の丸印で示したGes-Asは、内声であるにも関わらずなぜ際立たせやすいのかというと、左手で演奏する音の中では最上声となっているから。
内声の特定の音を際立たせるためにできることとしては:
・その音以外の各音を省略して打鍵する練習をしたり
・際立たせたい音の方へやや手を傾けたり
あらゆるやり方があります。
それらに加えて、楽曲の場面さえ許すのであれば、今回取り上げた運指法を検討してみましょう。
何度も弾いたときの再現性も高いのでおすすめです。
・大人のための独学用Kindleピアノ教室 [ドビュッシー 亜麻色の髪の乙女] 徹底攻略
► 前奏曲集 第2集
‣ 1. 霧
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、41小節目)
・右手は、背景
・左手は、近い音像
のイメージで立体的に演奏しましょう。
テクニック的には、以下のようにするといいでしょう:
・右手は、指の肉を使って打鍵速度をゆっくり
・左手は、指を立て気味にして打鍵速度を速く
左手の音型は、18小節目のメロディの「縮小形」です。
‣ 6. 奇人ラヴィーヌ将軍
譜例(PD作品、Finaleで作成、101-102小節)
左の譜例(原曲)を見てください。
「 f からクレッシェンドして、f に達する」と読み取るとつじつまが合いませんね。ここでは当然、「フォルテからさらにクレッシェンドして、その後にsubitoでフォルテに戻す」と解釈します。
当然のことと感じるかもしれませんが、時々、右の譜例のように解釈している演奏を耳にします。これではドビュッシーが残した音楽を歪めてしまいます。
できる限り原曲と離れない範囲で最善策を考えていくのが許されるのは、明らかに強弱記号の書かれ方が分かりにくい場合のみ。
(再掲)
左の譜例(原曲)のように、松葉の ”直後” に作曲家がダイナミクス記号を書いてくれている場合は、subitoかどうかを見抜くのは比較的容易。
・クレッシェンドの直後に「同じダイナミクス」または「もっと小さなそれ」が書かれているのであればsubito
・デクレッシェンドの直後に「同じダイナミクス」または「もっと大きなそれ」が書かれているのであればsubito
早まって、右の譜例のような解釈を施さないように注意しましょう。
‣ 7. 月光の降りそそぐ謁見のテラス
譜例(PD作品、Finaleで作成、曲頭)
1小節目の後半から、「32分音符による高音域パッセージ」が出てきます。
「月光の降りそそぐ」というタイトルにあるように、この動きは「月光が降り注いでいる様子」を描いていると考えてもいいかもしれません。
キラキラしている月光もあるかもしれませんが、ここでは:
・ppp という非常に抑制されたダイナミクス
・その他のパートの在り方
から察すると、「妖艶な雰囲気をもった、曇った音色」で演奏する方が得策でしょう。
もちろん正解はありません。
ここでお伝えしたいのは、譜読みの段階において「この楽曲の、この箇所にふさわしい音色とは?」という視点を持つべきということです。
特に「高音域の細かく動くパッセージ」というのはキラキラした音質を連想させる傾向があるため、音色がいつでもどんな楽曲でも同じになってしまわないように注意する必要があります。
► 終わりに
ドビュッシーの作品には、独特の音楽語法と表現技法が詰まっています。
本記事では、実践的な演奏アプローチを紹介していますが、これらはあくまでも一つの解釈として捉えていただければと思います。
今後も新しい作品や演奏のヒントを追加していく予定ですので、定期的にご確認いただければ幸いです。
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